第3話 ファーストキス?
わたしは何でこんなに悲しいんだか分からない。でも、とても悲しくて。
あかりの身体に覆い被さるようにして泣いた。
「ひっく……。ごめんなさい、わたし役立たずで……」
すると、あかりは肩で息をしながら、わたしの背中を撫でた。
「大丈夫。大丈夫だか……ら。でも、わたし、死んじゃうかも。ね。最後に、お願い聞いてくれない?」
わたしはお願いの内容も聞かずに頷いた。
すると、あかりは嬉しそうな顔をして言葉を続けた。
「……最後にキスして。もうたぶんチャンスはないから」
えっ。
えーっ?!
最後のお願いそれなの?
もっとこう……他にあるでしょう?
でも、こうしているうちにもアカリは死んでしまいそうだ。わたしなんかのキスで満足してくれるのなら、それでも良い気がした。
それに、要望がエスカレートする機会もないだろうし。死にゆくこの子に、私ができることは、それだけなんだ。
わたしは頷いた。
あかりの頬に手を添えて、口に口をくっつける。
——さらば、わたしのファーストキス……。
あかりの唇はすごく柔らかくて温かかった。
わたしが唇を離そうとすると、あかりが唇を押し付けてきた。
そのまま舌を入れられてしまった。
この人、瀕死なんじゃないのぉぉぉ?
わたしは心の中で激しく突っ込んだが、最後のお願いなのだ。できるだけ、希望を叶えてあげたい。
わたしは目を閉じて、嵐が過ぎるのをジッと待った。だけれど、30秒ほど経っても、あかりの舌は元気で、まだまだ嵐は去りそうもない。
1分くらい経った頃、あかりが唇を離した。
「あ……っ」
わたしは変な声を出してしまった。
すると、あかりはニヤリとして、私の耳を口元に引き寄せると囁いた。
「……興奮しちゃった?」
しちゃった?
少ししちゃったかも。
でも、認められない。
認めたら、色んな意味で負けだ。
「あかりちゃん。元気じゃん。嘘つき」
あかりは真っ白な顔のまま笑顔になった。
「死にそうなのは本当だよ。腕が取れちゃってるし。キスしたときにね。イヴちゃんのバイパス(魔力回路)をいじったの。いまは、主神と霊脈が繋がってるハズだから、頑張って」
「頑張ってって、なにを?」
「……わからない(笑)。わたしウルズ教徒じゃないし。でもね。なんとかしてくれないと、わたし多分、そろそろ死んじゃうか……ら」
あかりは目を閉じると、首から力が抜けた。
……冗談だよね?
わたしは、あかりの頬をパチパチ叩いたが、あかりの顔は冷たくて反応は無かった。
……いやだよ。
あかりは霊脈がどうとか言ってたけれど、意味わかんないし。
わたしが悩んでいると、あかりの身体からどんどん熱が奪われていく。このままじゃ本当に死んじゃう。
わたしのことを庇って、腕まで犠牲にしてくれて。そんな人が死んじゃう。
もっと一緒の時間を過ごして、この子のことをもっと知りたい。
ウルズさま。
わたし、お祈りの仕方も知らないけれど。
ちゃんと勉強して。
ちゃんとできるようになるから。
毎日、お祈りもするし。
毎日、お菓子をお供えするし。
助けて。
助けてよ。
後からできるようになったって。
今できないと意味がないよ。
わたしが、失われゆく命を直視するのが怖くて目を瞑っていると、何かが聞こえた気がした。
「愛しい我が子よ。その者を助けたいのですか? ……あなたの命に替えても?」
……いや。
さっき会ったばかりなのに、さすがにそこまでは。
「女神様。助けたいのは本心ですけれど、命に替えてまでかは分かりません。さっき出会ったばかりですし。でも、そのうち、そうなるかもしれません……」
「ふふっ。素直な子。……わかりました。今回だけ力になりましょう。これからはちゃんと信仰するのですよ? ……あと、お菓子のこともお忘れなく」
「信仰って、どこに行ったらいいんですか?」
「…………」
「念話で無言とか。心細すぎるんですけれど」
「わたしの後に続きなさい。旅人よ……」
無視された。
わたしは不満を持ったが、声の後に続いた。
「……旅人よ。汝の望みは、路の果て、風光を命に刻むことであろう。即ち、それは運命。運命の歯車は、女神の箱庭で組み替えられる。パルバ•デア•ホルトゥス」
頭の中の声は囁いた。
「そのまま、その子の肩に触れて……」
わたしは、身体の中に不思議な力が満ちるのを感じた。そして、その力を伝えるように、あかりの切断された肩口に触れた。
すると、頭がクラクラッとして、そのまま目の前が真っ暗になった。
わたしは気を失ってしまったらしい。
「イヴ……」
目を開けると、見知らぬ天井が見えた。
……ここはどこ?
横を向くと、あかりが寝ていた。
……よかった。無事だったんだ。
あかりが寝返りを打った。
すると、毛布がはだけて、あかりの真っ白な胸がプルンと露わになった。
え?
あかり裸?
わたしは恐る恐る毛布の中を覗き込む。
…………わたしも裸だ。
えーっ?
ど、ど、ど。どうして裸なのっ?!




