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第1章

 バリン州の州都はバランであるにも関わらず、しばしば最も重要な城砦都市として人々がその名を口にするのはバロンである――というのは、ペンドラゴン王国において有名な話である。


 バランとバリンとバロンの、遥か昔の三兄弟が実在した人物であるらしいのは確かであるが(というのも、ボウルズ家の家系図にそのように書き記されているため)、彼らが<五十人の敵を前にしても必ず勝利できる宝剣>だの、<五十人の敵を前にしても必ず無傷でいられる大楯>だの、<五十人の敵を前にしても必ず逃げられるブーツ>といったものを本当に所有していたかどうかというのは、現在ではまったくもって疑わしい……と考える人々が多くはあったろう。その中で史実として一番有力視されるのは、長兄バランが自分の三人の息子のためにそのような物語を書いた――というものであり、実際のところバリン州においてこの物語を聞かされずに育った子供というのはおらず、他州においてもこのボウルズ家の三兄弟の物語は大人気であるという。


 ところで、時はハムレット王子がロットバルト州の州都ロドリアーナ、ロドリゴ=ロットバルト伯爵の城へ身を寄せていた時のことである。すでにメレアガンス州の聖ウルスラ円形闘技場において、聖女ウルスラの神託をその場にいた多くの人々が聞いた……という噂は、内苑州でも非常な評判となっており、それは当然ここバリン州、州都バランにおいても城砦都市バロンにおいても同様だったのである。


 とりわけ、バリン州においてはフォルトゥナ山が噴火したかというほどに激震が走ったと言っても決して過言ではなかったろう。というのも、エリオディアス王の息子、ハムレット・ペンドラゴン王子が外苑州の兵士を引き連れ、いずれは王都を目指し攻め上ってくることをそれは意味したし、そのハムレット王子を旗頭とした軍が真っ先にぶつかるとしたら、それは地形的に見て、当然バリン州のバロン城砦をまずは攻め落とすことを意味していたからである。


 民衆はみな、怯えていた……外苑州の全軍と内苑州の全軍とがぶつかり合うなど、ペンドラゴン王朝はじまって以来の出来事であったし、特にバリン州の立場は特異なものがあった。無論、もしサミュエル・ボウルズがクローディアス・ペンドラゴンに拷問死させられておらず、彼亡きのち、平民から男爵の地位へのし上がったヴァイス・ヴァランクスが領主として任ぜられていなかったら、話のほうはそう複雑なこともなかったかもしれない。


 というのも、サミュエル・ボウルズのみならず彼の祖先たちもまた<東王朝>が攻め込んでくるたび、メレアガンス州やロットバルト州の兵を主力とした軍勢とともに協力しあってこの敵を退けてきたという歴史があり、ボウルズ家の当主としては、長く仕えてきた君主に弓引くという意味で苦渋の決断ではあったろうが――それでも、バリン州の民たちの多くは、この代々自分たちの領地を治めてきたボウルズ家の判断に従ったろうことはまず間違いないところである。


 だが、サミュエル・ボウルズ伯爵亡きあと、新たに領主となったヴァイス・ヴァランクスは、領主としてあまりに人気がなかった。というより、それはヴァランクス男爵自身が誰よりそれと自覚していることであったし、クローディアス王にそのように命ぜられ、誰より一番驚いたのは彼自身でもあったろう。ヴァイスとしてはまったく気乗りしない事業ではあったが、それでも彼は彼なりに最善を尽くし、バリン州を治めようともしてきたのである。また、バリン州の民衆たちも、わからず屋の人でなしということもなかったから、自分たちがボウルズ家のあとにどのような名家が自分たちを治めることになろうとも、必ずそのことを不満に思ったろうとは自覚していた。また、ヴァイス・ヴァランクスが学究肌の人間で、ギロチンなどという恐ろしい処刑装置を発明した人物とは到底思えぬほど優柔不断で、どちらかと言えば気弱な人間だということも、彼が領主となってほどなく、民衆に知れ渡ることになっていたわけである(ギロチンを発明したことでクローディアス王に気に入られたということだったから、どんな残虐な人物がこれから自分たちを治めることになるのだろうと想像していたらば、ほとんど真逆のような人間がやって来たのであるから)。


 つまり、すべてはこのヴァイス・ヴァランクス男爵の胸三寸によってバリン州の態度は決まる――というわけであったが、当然クローディアス王から領主に任ぜられて五年にもならぬヴァイスが、現王権に対し叛旗を翻すはずもなく、となると、今後もしハムレット王子率いる外苑州の軍がバロン城砦へ攻め込んで来た場合、一体どうなるのか。今まで長い歴史の中で協力しあい、敵を退けてきたメレアガンス州やロットバルト州の軍と初めて剣を交える……州都バランに本拠を置くガレス騎士団などは、ロットバルト騎士団や聖ウルスラ騎士団とも交流が深かったから、その苦悩は計り知れないものがあったろう。そしてこれは、ガレス騎士団に率いられる兵士たちにしても同様だったのである。


 ところで、サミュエル・ボウルズ伯爵も、彼の祖先たる領主たちも代々、州都バランで月の半分を、残りの半分ほどをバロン城砦で過ごすことを慣例としていた。無論、<東王朝>軍が攻めて来るといった時には、ボウルズ卿自らがバロン城砦に立て籠もるということも当然よくあった。ヴァイス・ヴァランクス男爵も、バロン城砦の重要性についてはよく理解していたから、有事の際には動きやすいようにと、そうした配慮を怠ることはなかったようである。つまり、ヴァイスが男爵としてバリン州の領主となったのは、約四年前にあった<東王朝>軍との戦争ののちのことであったから、もし次に戦争となった場合、その責任をクローディアス王に問われ、自らが創ったギロチンにかけられないためにも――ヴァランクスは最善を尽くそうと考えたのである。


 学究肌のヴァイスはまず、戦争に関する文献という文献を調べ、彼自身の創意工夫を城砦の外壁に加えようと考えた。バロン城砦は難攻不落の城塞としてつとに有名であったが、ボウルズ伯爵から自分に代替わりしてのち、その防備は心許ないものとなった……などと噂されるようになっては堪らない。そこでヴァイスは、彼自身は戦争へ出陣した経験もないのに(これがまた、ボウルズ伯に比べ、ヴァランクス男爵の人気が出ない理由のひとつであったろう)、城塞内を見て回り、城塞建築家の設計図を見直し、少しずつ改良を加えていった。ヴァイスに関する限り、戦争経験のない頭でっかちの理論家が余計な創意工夫を凝らそうとしたということではなく、彼はまず矢狭間のいくつかを設計技師と相談して変えさせることにしたのである。


 サミュエル・ボウルズ伯爵に対する哀悼と恭順の気持ちから、「新しくやってきた男爵殿が、早速とばかり余計なことをやりだしたぞ」と噂した者は多かったが、この時設計技師のマルドゥラ・カザンサキスは、ヴァイスが何をしようとしているかがわかるとすぐに賛同した。それは(少なくとも馬鹿ではないらしい)と、マルドゥラのことを唸らせるほど、確かにボウルズ卿では考ええなかった新案だったからである。


 バロン城砦の三重城壁は、外壁・中壁・内壁とから構成されていたが、それぞれの城壁の胸壁にはマシクーリ、ブレテーシュ、アンブラジュールといったものが存在する。まず、一番外側の外壁へ取りつく前に、敵兵らは濠を渡って来なくてはならない。この濠のほうは雨季でなくなった時でも十三メートルもの深さがあり、敵兵士は近くのアル=ワディ川が氾濫する季節に攻めてきたとすれば、この深い濠を渡ってから外壁登攀に取りかかる必要があった。だが、このアル=ワディ川が氾濫するのは一年に五か月程度であるため、<東王朝>が攻めて来るのは大抵が、それを除いた乾季ではあった。乾季になると水が引きはじめ、完全に水が引いた時、底のほうは比較的平らで乾いた土壌となる。また、夏の高温に兵士らが悩まされなくて良い時期、つまりはバロン城砦を攻めるのにちょうどよい季節の変わり目といったものは限られてくるわけである。


 それは、アル=ワディ川が氾濫するほどの川で満たされる前の春先か、その前の冬の時期に該当するといって良かったろう。ゆえに、十月に収穫祭が終わると、州都バランやバロン城砦においてはもしやの事態に備え、戦争が起きた場合の兵糧の備蓄その他の準備をするのが慣習であった。さて、そのような城塞都市の外部に、<東王朝>の兵士らが取りついたと仮定しての話の続きである。アル=ワディから水を引くため、乾季は濠に水がなかったとしても、水がなければないで、そこは二十メートル以上の幅と深さ約十三メートルもの窪んだ場所となるわけである。外壁は十五メートルほどの高さであるが、そこの胸壁の矢狭間やてっぺんの塔や歩廊に立つバロン城塞側の兵士らは、ここでまず狙い打ちが出来る。


 ところで、これはある意味余談であるが、<東王朝>の現在の王であるリッカルロ・リア=リヴェリオンがまだ王子であった頃、彼はこの深い濠を埋め、そうしてからベルフリーという攻城塔を外城壁に取りつかせたのであるが(これは五階層で出来ており、外城壁の高さを越える、約二十メートルばかりもの高さがあった)、その作業は地道に少しずつ行われたのみならず、外城壁からの雨あられの矢を避けるため、濠の幅に合うだけの橋となる巨大な組み立て式の板を、最初から何十枚となく用意してきていたのである。


 胸壁とは、城や城壁の上部のことを意味するが、バロン城砦の外城壁は、胸壁部分にズラリといしゆみを射ることの出来る十字型の矢狭間が並んでいた。ここから、自分の身は安全に守ったまま敵兵を矢が尽きるまで射続けることが出来たといってよい。そしてさらにその上部、クレノー付き胸壁の歩廊からも兵士らは半ば体を隠しつつ、敵を射ることが出来たが――ヴァイスはここと、一定間隔である塔部分に、姿を隠した状態で瞰射することの出来るアンブラジュールを備えるのはどうだろうかと提案したわけである。


 瞰射とは、見下ろして射るという意味であるが、塔の上部にある歩廊にて、メルロン(小壁体)に姿を隠しつつ、弓を射る味方の陣は、敵兵の火矢が飛んでくるなど、戦争時は櫓を構えていたとしても完全に安全とは言えない。マシクーリという、胸壁の上部を前面に張り出し、敵兵の登攀を難しくするというのは建築技術として当たり前のように用いられていたが、ここに、下へ向かっていしゆみを繰り出せるようにしてはどうかとヴァイスは提案したわけである。さらに、この瞰射のための細長い穴の他に、登攀してきた敵に石・火・熱した油の壺などをぶつけるための穴など……これらは他の中壁や内壁にも有用であったため、マルドゥラはガレス騎士団の騎士たちや、守備隊の隊長らとも相談し、ここはヴァイス・ヴァランクスの命令通りにしても良いのではないかということで話のほうは最終的に落ち着いた。


 ヴァイスは他にも、井戸やガルドローブ(トイレ)など、兵舎において守備兵らがより心地よく住めるよう、建物の設備自体やその中の備品等を新しくするなど、色々と善処したわけであるが、そこはやはり民衆らに目の上のタンコブか何かのように嫌われている領主のやることである。「ふうん。あっそう」とか、「そんなことより、俸給上げるか税金を下げるかしてくんねえかね」などと言われて終わりだったというあたり――ヴァランクスはおそらく、まったく悪い時を選んでバリン州の領主に任じられたとしか言いようがなかったに違いない。


 彼、ヴァイス・ヴァランクスの人となり、送ってきたその人生などについては、また別の機会に語る場所を設けるとして……ハムレット王子がロットバルト州の州都ロドリアーナのマリーン・シャンテュイエ宮殿にて、軍事会議を繰り返し開いていた頃、バロン城砦内においても、同じような動きがあった。メルガレス城砦にて、ハムレット王子に聖女ウルスラからの「この国の王となる」との神からの託宣があって以降、ヴァランクス男爵はまず、王都テセウスのティンタジェル城へ呼ばれていた。そして、クローディアス王自ら「どのような手段を用いてでもハムレット軍を挫け」との命を受けたのである。また、そこには内苑州の諸侯のすべてが集められ、「ヴァランクス男爵にいかなる協力も援軍も惜しむな」との命令が知らしめられてもいたのである。


 時は、例年<東王朝>が攻めてくるやもしれぬと心配になる、乾季のはじまり頃のことである。州都バランにおいてもバロン城砦においても、『戦争近し』との緊張が増し、みな収穫したばかりのものの多くを備蓄へ回したりと、仮に戦争が長引いても無事この時期を乗り越えられるようにと、着実に準備を開始していた。だが、<東王朝>軍の軍旗が砂煙の向こうに見えはじめた――という時より、民衆たちの心は遥かに暗かったと言える。というのも、そのくらい同国の盟友と戦うことに対し、まったくもって気が進まなかったということがあったに違いない。


 この年の十一月の四日、こんなことがあった。蜘蛛紙に手書きにて、百枚もの次のような文章の書かれたビラを配ったかどで、煙突掃除夫の男が逮捕され、牢獄にて拷問を受けたのである。


『今こそ我々は圧政と重税に立ち向かおう!!我々は一体今まで誰を味方として<東王朝>と戦ってきたのか。それはメレアガンス州とロットバルト州の兵士らとともにではないか!もっと遠くの砂漠の三州も、我々の危機を伝え聞き、駆けつけてくれたことが一体何度あったことであろうか……』


「♪あ~、それなのに、それなのにィ」と煙突掃除夫は、ビラの続きの文句を節をつけるようにして歌いつつ、大声で怒鳴った。「我々は一体今何をしているのか。英雄バランとバリンとバロンは、こんなことのために我々にこの土地を残したのか。一体次に<東王朝>が攻めて来た時、誰が我々を守ってくれるというのか~。みんな、メレアガンスやロットバルトの兵士らに本当に弓を引くのか!?それは自分たちで自分の首を絞めることに他ならないということを、今一度立ち止まってよく考えようではないか!!」


 煙突掃除夫は、城塞都市の大きな通りの交わる広場、その中心にあるバランとバリンとバロン、三兄弟の銅像の前で、そこを通りかかる人々に熱心にこのビラを配っていた。みな、一見「興味などない」という振りをしていたが、百枚あったビラのほうはあっという間になくなったものである。


 煙突掃除夫は警邏隊によって逮捕されると、即刻牢獄行きとなったが、見せしめのために処刑されるということまではなかった。もしこれがバロン城塞以外の、王都や他の州都で起きたことだったとしたら……この男の命はなかったどころか、死んだほうがマシだというほどの残虐な拷問を加えられてのち、処刑人に首を斬られ、さらし台にて長く風雨を耐え忍ぶことになったのは間違いない。


 このことは無論、ヴァイス・ヴァランクスの耳にもすぐに入った。だが彼は、ギロチンなどという恐ろしい装置を発明したとは思えぬほど、実際には優しく繊細で、優柔不断な性格をしていたため……警邏隊の手に入れた証拠のビラを読むと、「適度にこらしめて釈放せよ」と命じていたわけである。こうして煙突掃除夫は、足の上に重い石を乗せたまま、指締めの刑にかけられるといった拷問を受けてのち、フラフラになりながらも釈放されていたわけである。


「やれやれ。なんてザマだ」と、牢獄の門が閉められ、歩くこともままならぬ煙突掃除夫が両手をブラリと垂らしたまま、その先の角のところまでやって来ると――身長が二メートルばかりもあるだけでなく、横にもでっぷり太った下腹の出た男が、彼に手を貸していた。


「へへっ。うるせえや……」と、身長のほうは普通並みだが、迎えに来た太っちょの後ろに隠れたとしたらば、すっぽり姿の隠れてしまいそうな、すっかり痩せた青年が負け惜しみを言う。「だが、これでわかったろう?今こそ、みんなが力を合わせて立ち上がるべき時なんだ。あのへなちょこ新領主は、城の中庭に自慢気に飾ってるらしいギロチンに俺をかけることもしなければ、ただ中途半端にこの俺のことを拷問にかけただけさ。変に厳しく処罰したりすると、民衆の反感を買って自分の立場が危うくなるとでも考えてるんだろう……だが、自分が王都に呼びだされて拷問を受けるのはもっと恐ろしいというわけさ。フフフ。今に見てやがれ!この俺の剣、あるいは戦斧によってでも、奴さんの脳天を必ずかち割ってやるぜ」


「ホットスパーよ。どうしておまえはそう考えなしに突然パッと行動を起こすのだ。前からずっと言ってあるだろう……すべて行動を起こすためには<時>があり、それがすべてでもあるということを」


「へん!んなこた知ったこっちゃねえや。こちとら、煙突掃除夫に身をやつして、顔を真っ黒にしてるのなんざもううんざりよ。それより兄弟、これで俺がアジトのほうへ戻ったらば、みんなの士気のほうはこの上もなく上がるわな。俺がもし仮にあのまま拷問死しようと、それでも民衆たちの意識の風向きは変わったはずだ……どちらにせよ、無駄死にということだけはなかったということさ」


 ホットスパーと呼ばれた男は、ワイン樽のように太った男に体を支えてもらっていたが、この時、やはり体の痛みから「いちちち……」と、一度歩みを止めていた。今は夜がはじまったくらいの時分であったが、なるべく人目のつかぬ時間帯に自分を釈放したことにも間違いなく意味があるだろうと彼は考えていた。


「だが、もう二度とこんなことはするなよ」と、太った男は強い戒めの言葉を口にする。「今が時代の変わる、大切な時だということを忘れるな。下手をしたらおまえ、反抗のビラを百枚配っただけの、ただの犬死にした男で終わっていた可能性だってあったんだからな」


「へへっ……まあな。だが、俺はまだこうして生きてる。『生きてる犬は死んだ獅子に勝る』とは、よく言ったものよ」


「まったく、減らず口だけは拷問を受けても変わらんな」と、太っちょは親友のことをがっしり支え直すと、呆れたように笑った。「とにかく、今は一旦クイックリーのおかみの宿屋にでも向かうとしようや。真っすぐアジトのほうへ向かったというんじゃ危険だからな」


「クイックリーのおかみか!おまえ、まだあの女と続いてるのか?」


「まあな。旦那が早漏だとかで、この太ったデブめの出番が回ってきたというわけよ」


「何が太ったデブだ!」と、ホットスパーは心おきなく愉快そうに笑った。「おまえのその言葉でいくと、素早いウスノロや大きなチビなんてのも、この世には存在するってことになるんだろうな?」


「そいつはちょいと違うんじゃないか?」と、デブッチョも一緒になってガハハと笑う。「その文脈でくと、痩せたデブ、あるいはガリガリの太っちょといったところという気がするがな。それとも、小さいチビや目にも止まらぬ速さのノロマ……ん?わしもどうやら何かを間違えておるようだな」


「ま、細かいことはどうでもいいさ!!おまえみてえな特大のデブと浮気してるなんてこと、あのガリガリに痩せた気の毒な亭主のほうは知りもしねえんだろうな。しかも、そこへおまえが俺を連れていっても……あのクイックリーのおかみは自分の旦那の前で、俺のことを喜んで手当てしてくれるだろうしな。やれやれ、間男万歳!!精力絶倫のデブ万歳というわけだ」


 ――このあと、ホットスパーが再び「いちちち……」と、傷の痛みを訴えたため、ふたりは一度歩みを止めると、ロクスリー・ウッドが天に向かって弓を引く銅像の前で、少し休むことにした。実は彼らはボウルズ家に忠誠を誓う家臣であり、今はレティシア州で暮らしているサミュエル・ボウルズの息子やその子孫に、再びこのバリン州が統治されるべきと考える一派なのであった。


 そして、実際に彼らのこうした地下活動といったものが、のちにハムレット王子軍がこの難攻不落と言われる城塞を攻めるという時に――大きな意味を持つ、ということになっていくのであった。




 >>続く。






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