見上げれば星
初投稿のマライです。
初心者なので温かい目で見てやってください。
ちなみに登場人物に個々に名前はありません。
「ほら、あれが夏の大三角だよ。」
僕はそう言って頭上の星を指した。
「あれがベガで、あっちがアルタイル。で、あそこがデネブかな。」
夏の夜空に輝く星の一つ一つを曖昧な記憶で隣の彼女に説明する。
「は~。天体観測も難しいねぇ。」
さっきから話しかけても、彼女は悲しそうな目で空を見上げているだけだ。
「私も、もうすぐこの星達の一つになっちゃうんだよね・・・。」
「!」
唐突に、彼女がそう呟いた。
彼女の言う通り、もうすぐこの星達の一つになってしまうかもしれない。
つまり、亡くなってしまうのだ。
「そんな事ないよ。先生も言ってたじゃないか。もうすぐ治るって。」
「自分でわかるんだ、もう長くないって。心がそう言ってる。」
この子の病気は、白血病。
ドナーも見つからず、発見が遅れたために医者からはすでに長くないと言われていた。
だけど、それを知るのは彼女の両親と、僕だけ。
無理言って聞かせてもらった。
だって彼女は僕の幼馴染。できることはしたかった。
ドナーにだって名乗り出た。
でも、血液型が合わなくて、移植はできないと言われた。
落ち込んでいる僕に、彼女と僕の両親は
「できる限り、あの子の側に居てやってくれ。」
と言った。
たったそれだけの事を、僕はがんばった。
学校もホームルームが終われば家に帰るより早く病院に行った。
日曜日も朝早く起きて一日中一緒にいた。
彼女からすれば目障りだったかもしれない。一人で居たかったかもしれない。
それでも僕は一緒に居た。居たかったんだ。
小さい頃も一緒だった。
今みたいに、夜中に家を抜け出してはこの場所で星を見ていた。
「あれがさそり座。で、あっちがー・・・、なんだっけ?」
「あれは夏の大三角。デネブ、ベガ、アルタイルだよ。」
あの日君に教えてもらった星座、今日は僕が紹介するよ。
「僕達、何時までも一緒にいようね。」
「うん、約束しよう。」
あの日の約束、君から破らないでくれ。
「・・・もうこんな時間だ。病院に戻ろう。」
僕は立ち上がり、彼女が座っている車椅子に手を掛けようとした。
「もう少し居たい。」
彼女が珍しくここに居たいと言った。
「でももう戻らないと・・・。」
「お願い。あと少しだけ。」
久々に聞いた彼女のわがまま。
駄目なのはわかっていたけど、
「じゃあ、もうちょっとここに居ようか。」
星を見るくらいいいじゃないか。
彼女の死期が近づいていることがわかる自分が、嫌いだった。
それから二週間後、彼女は亡くなった。
わかっていたけど、悲しくて悲しくて涙が止まらなかった。
「最後まで側に居てあげてくれて、ありがとう。」
彼女の両親はそう言ってくれた。
だけど涙は止まらなかった。
彼女の死後、遺品の中から僕宛の手紙が見つかった。
中には、
『ずっと一緒に居られなくてごめんね。
君と居た時間は、とっても楽しかった。
一度も居てほしくないなんて思ったこと、なかったよ。
私はあの場所で、いつも君を見てるよ。
一つの星として。』
と書かれていた。
読み終えた後、星を見たあの場所に向かった。
手紙をポケットにしまい、まだ星の出ていない青空を見上げた。
この場所で、君は僕を見ていてくれ。
僕もこの場所で、君を必ず見ているから。
お読みになってくださり、ありがとうございます。