第8話(2)初心
♢
「……ふっ!」
屋敷の中庭で栞が剣を振るう。
「……ほっ!」
剣を横に薙ぐ。
「……はっ!」
その後、剣を振り下ろす。
「……精が出ますね」
「!」
栞が振り返ると、泉が立っていた。
「……」
「あ、あぶねえぞ、そんなところに立っていたら……」
笑顔で微笑む泉に対し、栞は慌てて剣を鞘に納める。
「このような暗がりで剣を振り回す方が危ないのでは?」
「な、なんだか寝られなくてよ……」
栞は自らの鼻の頭をポリポリと擦る。
「ふむ……」
泉は栞をじっと見つめる。
「な、なんだよ、久々にお説教ってか?」
栞は苦笑を浮かべながら肩をすくめる。
「……いいえ」
「え?」
「御心境をお伺いいたしたく思いまして……」
「御心境?」
栞が首を傾げる。
「ええ」
「誰の?」
「それは勿論、栞さまの」
「オレの?」
栞が自らを指差す。
「はい」
「なんでまた……」
「興味が湧きまして……」
「興味?」
「ええ、何故に術の修練ではなく、剣を振るっていらっしゃるのか……」
「……どうしてだろうな?」
やや間を空けてから、栞が首を捻る。
「お分かりでない?」
「お分かりでねえな」
栞が苦笑気味に返事する。
「ふうむ……」
泉が自らの顎に手を添える。
「ははっ、呆れちまったか?」
「いいえ……私が推察してもよろしいでしょうか?」
「え? あ、ああ、いいぜ」
栞が戸惑いながら頷く。
「察するに……初心を取り戻そうとなさっているのでは?」
「初心?」
「はい、そうです」
「……どういうこった?」
「それはご自分がよくお分かりかと……」
「ううむ……」
栞が自らの頬をさする。
「………」
「……言われてみれば、そうかもしれねえな……」
「…………」
「ガキの頃……頼光のおっさんたちに拾われた頃の自分に立ち返ろうとしているのかもな……あの頃はただひたすらに剣を振っていた……強くなりたくてな」
栞は鞘をグッと握りしめる。
「……それはつまり?」
「……恐れを振り払いたいんだよ」
泉の問いかけに対し、栞は呟く。
「……デーモンに対する恐れですね?」
「ああ、そうだ、あんなに強い奴とは……こんなにもビビっちまったのは、晴明のところに来てからは初めてかもしれねえな……」
「栞さま……」
「ははっ、情けねえよな……」
「そのようなことはありません……!」
「えっ……?」
静かだが強い声を発した泉に対し、栞が驚く。
「ご自分の弱さを認識出来ている方が弱いはずがありません……!」
泉が両手で栞の両手を取って強く握りしめる。
「ええ? ど、どういうこった?」
栞が当惑する。
「言葉の通りでございます」
「い、いや、真逆じゃねえか?」
「そうですか?」
「そ、そうだよ」
「……うん?」
泉が首を傾げる。
「い、いや、こっちがうん?だよ!」
栞が泉に合わせて首を傾げる。
「……では、言い換えましょうか」
泉が首を元に戻す。
「言い換える?」
「ええ、『学んで然る後に足らざるを知る』ということです」
「足らざるを知る……?」
「つまりは、己に足りないものや未熟な点を自覚し、謙虚に学びや向上心を持つことです」
「そ、そんなにご大層なもんかね……」
栞が泉から手を離して、自らの後頭部をポリポリと掻く。
「御大層なものです」
泉が真っすぐな瞳で栞を見つめる。
「う、う~む……」
栞は一度、泉と目を合わせるが、照れくさくなって逸らす。
「ですから……自信を持ってください!」
「! 自信……?」
栞が視線も泉に戻す。
「ええ、そうです。自らを信ずる気持ちです……!」
泉が自らの胸に手を添える。
「自らを信ずること……そうか、今のオレに足りなかったのは、それか……」
「はい」
「ふっ、ありがとうよ、泉……!」
栞が泉を見つめる。その目にはいつもの力強さが戻っていた。泉がふっと笑う。
「御礼をされるまでには及びません……!」
泉の腹の虫がグウっと鳴る。泉が慌てて自らの腹を抑える。
「はははっ、よっしゃ、餅をついてやるよ!」
「ええっ⁉ 今からですか⁉」
台所に颯爽と向かう栞に泉は驚く。
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