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後腐れない別れ

 ある男、アパート住で部屋がちらかっており、目にクマが出来ており、鬱状態、ひどく元気がない。心配した元恋人。男のアパートを訪ねると、中に案内される。

「あなたと別れてから3年になるけど、ちょっと気になっちゃって」

「僕はきにならないけどね」

「……」

「なんでここに?」

「あなたが鬱になったときいて、昔から自己主張のない人だったから、きっと職場で何かあったのではないかと思ってね」

「ああ、君とは職場恋愛だったね、忘れていたよ」

 時折鼻垂れる言葉がいばらのトゲの用にささったが、なんだかんだ二人はなかよくなり、いい雰囲気に、その日はわかれて、後日合う事に。


 元恋人の女、その間に仕事がおわって、暇な時間ができるたび、何度かに分けて彼について友たちのつてをあたって調べる。と、とある事がわかる。

「あの人、元恋人にひどい振られ方をしたんだって」

「私のこと?」

「いいや、そんなわけないじゃない、あなたと別れてから幾人もつきあっていたわよ、長続きしなかったみたいだけどね、ホラ、あんな調子じゃない、多分誰も面倒を見切れなかったのよ」

 女はかわいそうに思うのと同時に、少し嫉妬のような感情が自分の中に芽生えるのを感じた。そこで自分がよく使うことのある〝リフレッシュのための装置〟を用意して男のもとに急いだ。


 後日あうと、やはり部屋は変わりなく、うつろな元恋人の男。なんとか彼を元気づけようと一緒に映画をみたり昼食をたべに外に出たりした。そのあとで、彼女は"例の装置"をとりだした。ヘッドマウントディスプレイである。

「なにそれ」

「これはね、人間の不必要な記憶を消去する装置なのよ、といっても一時的にだけど……ある映像がVRで流れるんだけど、そこにはいくつもの心理効果が含まれていて、それがその役割を果たすの、あなた、私と別れてからひどい女たちとつきあってきたのでしょ、これで忘れてしまいなさいよ」

 そうして、女は半ば無理やりに男にそれをつけた。男はすんなりうけいれると装置がまわり1時間ほどで男がそれをはずした。

「……」

「どう?」

「俺、君と別れてから……ずっと一人で」

「あなた!!」

 女はうれしくなり、男を抱きしめた。この時にはすでに気づいていたのだ。よりをもどしたいと、女の方も分かれてから碌な男と付き合う事ができず、彼のぬくもりを求めていた。抱き合う二人、愛の時間がすぎた。


 が、女が目覚めると男は頭を抱えて悩んでいた。

「どうしたの……」

「頭が割れそうだ、嫌な女の事をおもいだせそうで、でも忘れた方がいいような気がして」

「わすれちゃいなさいよ」

「でも、不安で……」

 女はやさしく、次第に強く男をだきしめる。

「今度は離さない、今度はあなたの傍にずっといるわ、だからあなたもずっと一緒にいて、その覚悟があれば、他の事なんて忘れてもかまわないでしょう」

 そういうと男は決心して、ヘッドマウントディスプレイを被る。一時間後、そこには呆けた様子で、ぼーっとして自分ではディスプレイを外せない男がいた。女が外して、尋ねる。

「どうしたの!?何があったの?」

男の脳裏ではこんな言葉が再生されていた。頭の中で、誰かにずっと繰り返している、あなたにはもう執着はないわ、と。今まで付き合ったことのある女たちの記憶が浮かぶ、むろんそれらが誰かぼんやりとしか思い出せないが。そのことを女に告げると女はいった。

「そんなひどい人たちとつきあっていたのね、でももう、私がいるから大丈夫……」

「もうひとつ、思い出したんだ、ある女に”この世からいなくなれ”といわれてわかれた事、でも、忘れてしまった、その女が僕の中で大事な女ではないからだろう……ところで、この装置をもってきてくれた君は誰だい?僕は誰だい」


 男は実は女と別れて以降、ずっと女が別れ際にいった最後の言葉”あなたなんてこの世からいなくなれ”この言葉に悩まされつづけていた。むろんこの女はそんなことは忘れていたのである。そしてカウンセラーに相談するうちにカウンセラーは”その恋人の記憶、つまり男にとっての別れ際のトラウマをできるだけ、重要でないと思い込むようにしろ”といっていたのだった。男はその後、かつて、その女と別れたあとに、しつこく連絡をとっていた、それは別れ方があまりに理不尽で唐突であったためにそのわけを尋ねようとしたからだ、だが女は

「あなたにはもう執着はないわ」

 といってあしらった、ディスプレイを外してしばらくして、男はその事を思い出し、トラウマを回復してしまったが、その後、元恋人の反省と介抱もあり、徐々に心が回復に向かったという。

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