第56話.これは確定でしょ
「う〜ん……祐希、どう思う?」
僕は、隣で僕のスマホを覗いている祐希に話しかける。
祐希が一旦家に帰ったのはもちろん事実だよ? ただ、もう一回来ただけであってね。だから、みずなとチャットする前にちゃんと玄関の鍵を確認したんだよ。開いてるってことをね
だって、祐希と決めたもん。僕がみずなを助ける、じゃなくて、2人で助けるからね。
「変な感じはするんだが……」
「やっぱ祐希も踏み切りがつかない、って感じ?」
「ただ分かるとすれば、明らかに文字の使い方が中学生レベルじゃないような気はするけど」
「そうそう。そこなんだよね〜」
なんにもなかったのに、途中で急に"ていうか"とか使ったり、漢字変換してなかったり……。
細かいけど、最初の〔きょうの内に返信をくれて、ありがとうございます!〕と〔ずっと返信待ってました!〕って文章分けなくてもよくない? 祐希とかとのチャットだったら僕もしちゃうけど、DMはいちいち面倒くさいからまとめる気がするけ……ん?
もしかして、そういうこと……?
確かに、もしほんとにそうだとしたら、改行したり漢字変換しなかったりの行動にうなずける……。
僕はそのことを確認するために、みずなとのチャットをすぐに見返してみる。
「お、おい……? 急にどした……?」
急に画面を操作し始めた僕に、祐希からそんな声が聞こえたけど、そんなことを気にする余裕はなかったから、そのまま操作を続ける。
──……これ……、やっぱり……意図的じゃない?
「だからどうしたんだって……そんな急にみずなとのチャット見返し……て…………ん? これって……」
おっ、どうやら祐希も気づいたっぽいね。
「やっぱそうだよね。これ……縦読み、だよね?」
「多分な……。なるほど、これを伝えるために変な日本語使ってたのか」
〔きょうのうちに返信をくれて、ありがとうございます!〕
〔ずっと返信を待ってました!〕
〔いえ、ちゃんと私です! と言っても、証明する手段がないですけど〕
〔ていうか私、コラボ相手と自分で連絡取るの初めてなんですよね〕
〔たぶん、というか絶対、今私緊張してるんですよね……〕
〔すべてを任せてたので、私と話しても何も決まらないですよ?〕
〔けど……〕
〔ていへんVTuberでごめんなさいね〕
縦読み、か……。そうすると、【きずいて たすけて】。
「……凪、うまく確認できるか?」
「確認って……あぁ、そういうこと? 結構難しいけど、やってみる……」
まぁまだ、偶然、たまたま、奇跡的に、億が一にこうなった可能性もあるもんね。
けど、確認、かぁ……なんて書こうかな……。
〔私たちのコラボってなると、リスナーたちが真上から驚くかもしれませんね〕
うん、完璧!
「『うん、完璧!』じゃねぇんだわ。あのときのみずな並の日本語になってるわ」
「心読まれた……」
「そんなことより、もう返信来てるぞ」
〔そういうことです!〕
「確定だね」
「確定だな」
すごいね、この会話。
〔リスナーたちが真上から驚くかもしれませんね〕
〔そういうことです!〕
僕のDMの意味すらわかんないのに、それになにも合ってない同意のチャット。逆に怪しまれるでしょ。
まぁそれはおいといて。
みずなにもう人を貶めるようなことは、絶対にさせない!
「ってかさ、そもそもVTuber引退させよう! って言ってるやつがあんな感じに接してくれるわけがなくね? 父親の敬語文章は、今思うと普通に怖かったけど』
「……確かにそれはそう」




