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18話


「ふざけるな。なんでこんな目に遭わなければならないんだ……」


 ロビンは牢屋の中で恨み言を呟く。


 あの後ロビンは衛兵に連行されて牢屋へと入れられた。

 入れられた牢屋はもちろん貴族用のものではなく、平民が入れられるろくに清掃がされていない汚い牢屋だった。


「殺してやる……殺してやる……」


 ロビンはもうすでに一生この牢屋から出ることは出来ないと頭の隅で理解していた。

 しかし現実としてロビンは受け入れることが出来なかった。


 そのため、思考をメアリーとルイスへの憎しみへとそらして正気を保っていた。


 そして数日経った。


 見張りの衛兵がとある噂を流していた。


 曰く『キングスレー伯爵の令嬢がルイス王子と婚約した』というものだった。


 メアリーとルイスだ。


 そのことを理解した瞬間、ロビンの中に血液が沸騰するような怒りが湧いてきた。


「ふざけるな!なんであいつらだけ幸せになってるんだ!俺をこんな目に遭わせておいて!」


「うわっ!何だコイツ!」


「気持ちわりぃぞ!」


 ロビンは牢屋の鉄格子に飛びついた。

 そしてどうにか牢屋から出ようと力を込めて鉄格子を揺らす。

 しかし鉄格子はびくともしない。


 そして脱走しようとしていたロビンを見て見張りの衛兵が飛んできた。


「や、めろ!」

「罪人のくせに今更逃げようとしてんじゃねぇよ!」


 衛兵は鉄格子にしがみつくロビンの手を槍の持ち手で叩き落とし、体を槍の穂先で突いて牢屋の中へと戻す。


 突き刺されたロビンは悲鳴をあげた。


「二度と脱走しないようにしてやる!」

「オラッ!死ぬんじゃねぇぞ!」


「いっ、痛い!やめろ!やめてくれ!」


 ロビンは悲痛に叫ぶが衛兵は面白がり、ロビンを何度も槍で突き刺した。


 皮肉にも、罪人と断じた相手に対して正義を振り翳し、甚振るその姿はかつてのロビン自身と同じだった。


 そして、衛兵に甚振られる生活は一週間続いた。


 もうすでに、ロビンの意識は朦朧としていた。

 何度も槍で突き刺され、しかし死なないように加減されていた傷からは雑菌が入ったのか腐り始めていた。


 痛みは随分前に感じなくなっていた。

 そのことに恐怖してもがいても、ここには医者がいないので、どうしようもなかった。


 そして指ひとつ動かすことも出来なくなった。

 水を飲んだのはもう一日以上前のことだった。

 喉はカラカラに渇いているが、「水をくれ」と言葉を発することすら出来ない。


 ロビンは自分の人生を見返す。


 ずっと窮屈だった。

 貴族として生きることも。あらかじめ決められた婚約も。


 しかしやっと、ただ一人の人間として見てくれる女性と出会ったと思ったら、ただ騙されているだけだった。

 

 そして憎いメアリーに復讐するために下水道に潜りスラムのゴミを食べて生き延びて、最期は拷問にも等しい扱いを受けて、死にかけている。


(どこで間違ったんだ…)


 やり直したい。

 出来ることなら、最初から。


 だけど、どこで間違ったのかもわからない。


「怖い……」


 重くのしかかる、死の恐怖。

 どれだけ逃げたくても、絶対に逃げることは出来ない。


 ロビンは涙を流す。


 今までの自分の行いを懺悔した。

 父に、弟に、デイジーに、自分の犯した罪を心の中で謝る。


 そして最後にメアリーとルイスに何度も謝った。





「うわっ。死んでるぞコイツ」

「構わん。処刑場まで持っていくぞ」


 その日、囚人の一人が牢屋の中で死に、牢獄から連れ出された。


 そしてその囚人は王族に傷を負わせた罪など、様々な罪により重罪人として死体のまま処刑された。


 その後、罪人の死体は燃やすという慣例に従い、死体は燃やされ、牢獄の共同墓地へと埋められた。


 元貴族だったロビンは名前すら刻まれることなく、数多の囚人と一緒に埋められ、人々の記憶から忘れ去られていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 女性に対しての不義理、立場や王族に対しての無責任と不敬を犯した者たちが、ロビンだけでなくロビンに加担したものも含めてきちんと裁かれたところ。 何十年も牢に入った挙句に死ぬまで罪を背負ったの…
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