16話
ロビンが私に向かってくる。
手にはナイフを持っており、ロビンはそれで私を突き刺すつもりなのだろう。
今までどこに隠れていたのかとか、なんでこの場所に、など様々な言葉が頭の中を流れていく。
避けないと、あのナイフで刺されてしまう。
しかし、私の体は動かなかった。
ロビンの殺意のこもった目に私は体が強張ってしまったからだ。
一週間前感じていた恐怖が蘇ってしまった。
もう克服したと思ったのに、恐怖は私を絡め取り地面へと固定した。
目の前にロビンが迫る。
声を出すことも出来ない。
「メアリー!」
誰かに抱き寄せられる感覚と同時に視界が遮られた。
ルイスだった。
ルイスは私を抱き寄せ背中へ回すと身を挺して私を守った。
「邪魔をするなぁぁぁああっ!」
その瞬間、ドンと背中越しに衝撃が加わった。
「ルイス王子!」
私は我にかえり、ロビンに刺されたのではないかとルイスを見た。
しかしルイスは刺されていなかった。
間一髪のところで衛兵に庇われたらしい。
衝撃は衛兵がルイスを庇うときに押されたものだったようだった。
「うわぁぁぁああっ!」
ロビンは叫びながら何度もナイフを出鱈目に振り回し、衛兵へと切り付けようとしたが、すぐに取り押さえられた。
ナイフを叩き落とされ、地面へと押さえつけられる。
ロビンは苦痛のうめき声をあげたあと、拘束から逃れようとして大声で暴れる。
「がああああっ!」
しかしそう簡単に拘束から抜け出せる訳もない。
ロビンは憎悪を滲ませた怒りの表情で、私とルイスを睨みつけた。
「クソォォォォォッ!離せ!殺す!殺す殺す!こいつらだけは許さない!」
尚もロビンは暴れ回る。
「お前のせいで僕が不幸になったんだ!何でこいつらだけ幸せなんだ!離せ!絶対に殺す!」
狂気だった。
復讐という言葉に取り憑かれ殺意を振りまくその姿は、今まで見てきたどんなものよりも恐ろしかった。
どうすれば人はここまで人を恨むことが出来るのだろう。
「ロビン。君が不幸なのは全て君の行動の結果だ。因果応報なんだよ」
ルイスがロビンへそう言った。
しかしロビンはさらに復讐心を燃やした。
「黙れ!お前のせいだ!」
ふとルイスを見ると、手の甲から血が流れていた。
どうやらロビンに切り付けられていたらしい。
「ルイス王子!血が……!」
「メアリー大丈夫だよこれくらい」
「ダメです!今すぐ手当てします!」
私はハンカチを取り出しルイスの手の甲に当てる。
「メアリーィィィィ!お前は僕の婚約者だろ!何他の男に色目をつかってる!」
ロビンが叫んでいたがもう言動が支離滅裂だった。
「メアリー、行こう」
「……はい」
ロビンの扱いは衛兵に任せることにして、私たちはその場を後にすることにした。
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