15話
昨日は大変だった。
今まで生きてきて、初めて覚えた男性への恐怖。
父からは、今日はしっかり休んで回復させるように言われたので、ゆっくりするつもりだった。
しかし。
私が朝起きると、屋敷の中が騒然としていた。
私の部屋の前にはいつもいない衛兵が護衛するように立っている。
それに使用人は何かを警戒するようにしきりに窓の外を確認している。
ここまでくれば、どんなに鈍感だったとしても緊急事態であることがわかる。
私は使用人に尋ねることにした。
「なにが起こっているの?」
「大変なんです!」
メイドは慌てた様子で叫ぶ。
「ロビン様が昨晩、平民の娘に危害を加えたあと、公爵家の屋敷から脱走したそうなんです!」
「……なんですって?」
私は戦慄した。
平民の娘というのはデイジーだろう。
それに対して危害を加えた上で、姿を眩ましたなら、おそらく目的は私への復讐だ。
それでこれほどまでに私の部屋が厳重に警備されているわけだ。
窓の下を見れば、壁を登ることができないように衛兵が配置されていた。
「っ……!」
私の中で恐怖がまた芽生えた。
昨日見た人間の憎悪を凝縮したような表情。
それを浮かべたロビンが私の命を狙っている。
昨日、男たちに囲まれた時の光景がフラッシュバックした。
足が震える。
あの男たちは犯罪者として罰せられ、二度と目の前に現れないと分かっていても、恐怖は簡単には拭えない。
「……一歩も部屋の外に出られない」
その時、丁度来客が来たと使用人が伝えにきた。
「お嬢様、来客です」
「どなたですか」
もしかしたら、ロビンかもしれない。
心臓が跳ね上がった。
「ルイス王子です」
しかし、訪ねて来たのは、意外な人物だった。
「え?ルイス王子……?」
私は顔を上げた。
「はい、ルイス王子がメアリー様にご用事だそうです」
どうやらロビンではないようだ。
ロビンがルイス王子に変装していることも考えられるが、流石に使用人がこの国の王子を間違えることはない。
「お通しして。私もすぐに準備するわ」
「了解しました」
さすがに今のままの部屋着でルイス王子と会うわけにはいかない。
私は超特急で使用人に髪の毛のセットや、少し豪華な衣装を着付けてもらう。
そして私はルイスが待つ応接室へと向かった。
「お待たせしました」
「いや、こちらこそ急に訪ねてきてすまない」
ルイスの表情はどこか強張っていたが、私の様子を見て安心したようにため息をついた。
「良かった、大丈夫そうだね。今朝ロビンが屋敷から脱走したと聞いて、もしかしたらと思ったんだ」
「……狙いは私でしょうか」
「おそらく。ロビンは君に恨みを抱いていたからね」
ぶるりと体が震える。
やっぱりロビンは私のことを狙っているのだろう。
しかしその時ルイスが私の手を握った。
「メアリー、大丈夫だ。安心して」
「ルイス王子……」
「君には国王軍の中でも精鋭をつけている。それに今全力で王都を捜索させているから」
ルイスは私の不安を和らげるように優しく話す。
私はそれで落ち着きを取り戻した。
「……ありがとうございます」
「お礼はいらないよ。君を守るのは王子である僕の役目だからね」
ルイスは微笑む。
その笑顔で私の中の不安が溶けていくような気がした。
「それじゃあ、また生徒会で会おう」
「はい」
私は笑顔で頷く。
そしてルイスは帰って行った。
それから一週間、ロビンは捕まらなかった。
「メアリー、本当に行くのか?ロビンはまだ見つかっていないんだぞ?」
「はい、でもいつまでも屋敷にこもっている訳にはいきませんから」
あれから一週間、ロビンはまだ見つかっていない。
どこに隠れているのか、目撃情報までないので、もう死んでいるのではないかと予測されている。
だから、私は学園への通学を再開することにした。
これ以上休んでいたら生徒会の仕事も溜まっているだろうし、ルイスの負担が増えてしまう。
それにルイスとまた生徒会で会おうと約束したのだ。
「それに、もうルイス王子には今日行くと手紙を出していますから」
「分かった。十分に気をつけるんだぞ。護衛から離れないようにな」
「はい」
父はまだ心配そうだったが、私は馬車に乗って学園へと向かう。
馬車の中には私とメイドが乗っていて、外には御者とルイスのつけてくれた精鋭が乗っており、馬車を護衛している。
いくらロビンといえども簡単には手を出すことは出来ないだろう。
そして何事もなく、私は学園へと到着した。
個人的にはロビンが道の途中で襲ってくるかもしれなかったので少し怖かったが。
学園の門の前にはルイスが立っていた。
どうやら私が今日くるという手紙を見て、待っていてくれたらしい。
私は嬉しくて頬が緩んだ。
ルイスは馬車の中の私を見つけて手を振る。
私も振り返した。
「久しぶり、メアリー」
ルイスは馬車の扉が開くと私に挨拶をして、パーティーでエスコートをする時のように手を差し出した。
私はその手を取り、馬車から降りる。
その時だった。
「死ね!メアリー!」
ロビンがナイフを持って私へと走ってきた。
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