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14話


 後悔。

 ロビンの心の中は後悔で支配されていた。


 最後にケリーによって自分のしてきたことを知ったロビンは自室で静かに泣いていた。

 親子の情も感じさせないようなあの父の態度は、もうすでに自分が何度も裏切っていたためだった。


 ロビンは後悔しながらしばらく泣いたあと、ある一人の人物を思い出した。


「デイジー……」


 今となってはロビンにとってただ一人の味方とも言える。


 ロビンは激しくデイジーに会いたくなった。


 父は最後にデイジーと会うことは許していてくれていたため、自室のすぐ外に立っている使用人に言った。


「今すぐにデイジーを呼び出してほしい」


 ロビンの希望はすぐに認められて、デイジーは屋敷へと呼び出された。


「ロビン? どうしたの急に大事な話があるって……」


「ああデイジー会いたかった」


 ロビンはデイジーの顔を見て安心するとデイジーに抱きついた。

 きっと自分がどんなに落ちぶれたとしても、デイジーは自分を見捨てないだろう。

 ロビンは束の間の幸福感を享受した。


 しかしデイジーはロビンの行動に困惑していた。


「どうしたのロビン? なんでいきなり……」


「ああ、実は……」


 ロビンは自分の状況を説明する。

 公爵家の息子ではなくなったこと、そして罪を犯してこれから罰が下されるだろうということ。


「そんな……」


 デイジーはショックを受けていた。


「すまないデイジー。僕は間違いを犯してしまった。でも待っていてくれ。牢獄に入ったとしてもすぐに迎えに行くから」


 自分のデイジーへの愛は変わらない。

 デイジーもたとえ自分が犯罪者になったとしても変わらずに愛してくれる筈。


 その筈だった。


「は? 何それ」


 デイジーはたちまち不機嫌な顔になった。


「え……? デ、デイジー?」


 ロビンはデイジーへと手を伸ばす。


「触らないでっ!」


 しかしデイジーはその手を振り払った。

 表情には嫌悪感が浮かんでおり、それを隠そうともしなかった。


「そ、そんな……デイジーどうして……」


「あんたが貴族じゃなくなったからに決まってるでしょ! 今まで貴族だったから愛想よくしてきたのに…

…本当に最悪!」


 ため息をつくデイジーにロビンは呆然とした。


 デイジーは自分にどんなことがあっても味方になってくれると思っていた。

 しかし実際は違った。


 デイジーは自分が貴族でなくなった瞬間手のひらを返した。


 今までのデイジーは全て嘘の演技だったのだ。


 ロビンの中で、デイジーと積み上げてきた幸せな思い出が音をたてて崩れ去っていく。


「ふ」


 ロビンの中で、ドス黒い感情が芽生えた。

 思い出は全て黒く染まり、憎しみへと塗り替わっていく。


「私、もうここに用は無いから帰るわ。本当に最悪よ、貴族として暮らせると思ったのに」


 デイジーは軽蔑の表情でロビンを睨み、去ろうとした。

 しかし、ロビンは豹変した。


「ふざけるなっ!」


「きゃあ!何……」


「僕は、何もかもなくしたんだぞ!」


 ロビンはデイジーに襲いかかった。

 デイジーに馬乗りになると、そのまま何度もデイジーに対して暴力を振るう。


「僕を騙していただと! ふざけるな! 僕がお前のためにどれだけの犠牲を払ったと思っているんだ!」


 何度もデイジーの顔を殴り続ける。

 次第にデイジーは抵抗しなくなり、十分後完全に動きが止まった。


 そして息を切らしたロビンが立ち上がる。


「お前みたいな平民はそうやって地を這いつくばっているのがお似合いだ」


 ロビンは吐き捨てる。

 そしてロビンの怒りは収まったかのようにおもえたが、怒りの炎はまだ消えていなかった。


「メアリー……こうなったのも、全部あいつのせいだ」


 自分がこんなに不幸な目に遭っている原因。

 それはメアリーが自分を陥れたからだとロビンは考えた。


「絶対に復讐してやる」


 ロビンの矛先がメアリーへと向かった。


 許せない。

 復讐してやる。

 ロビンの頭の中はその言葉でみたされていた。


「そもそも、メアリーが僕の婚約者として釣り合ってなかったのが原因なんだ」


 ロビンは爪を噛む。


「それに今日も少し大きな声を出しただけでルイスに助けを求めて、僕が悪者にされた」


 実際はロビンは脅迫し、メアリーに乱暴しようとしているのだが、ロビンの記憶の中ではすり替わっている。


「それにメアリーは僕から居場所まで奪った。生徒会の仕事を奪ったんだ!」


 生徒会の居場所が無くなったのはロビンが仕事をしなかったからだが、ロビンはその事実から目を逸らす。


「うん、そうだ。やっぱりメアリーが原因だ」


 ロビンは何度も自分の言葉を反芻して頷く。

 間違っていない、と何度も思い込む。

 そして都合のいい妄想で自分の正当性を確かめると、今度はメアリーへの憎しみを燃え上がらせた。


「メアリー! 僕をこんな目に遭わせた復讐をしてやる……! どんな犠牲を払ったとしてもその罪を償わせてやる!」


 ロビンはそう決めると復讐のため、部屋から脱走しようと窓を開いた。


 その時ロビンの目に床に転がる意識がないデイジーが目に入ったが、ロビンは興味を示すことは無かった。


 そしてその晩、ロビンは姿を消した。

 夕食を運びにきた使用人が部屋に入った時にようやく床に転がるデイジーと、開けたままの窓が発見された。


 すぐに当主によりロビンの捜索命令が出されたが、すでに時刻は夜。

 闇に紛れたロビンは見つかることはなく、朝を迎えた。


 ロビンは王国内に潜伏している。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 公爵家の警備がザルな点。 平民が屋敷内に滞在しているのに、最低でも部屋の前には警備が必要ではないのか? 王子に引き渡す人間を監視もしないなんて、高位貴族としてあり得ない失点ではないの…
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