13話
その後、ロビンは屋敷に戻った途端公爵家当主であるロビンの父から呼び出された。
十中八九、メアリーとルイスの件だろう。
本心としては顔を合わせたくなかったが、当主からの呼び出しを無視する訳にもいかない。
父のいる執務室に入ると、父は険しい表情だった。
「なぜ呼ばれたのかは分かっているだろうな」
「……はい」
「まず最初に聞きたいが、妾とは何だ? 何故貴様の一存で伯爵令嬢を妾にしているんだ? それも正妻となるはずだった女性を。失礼だとは思わなかったのか?」
「……」
ロビンは父にメアリーを妾にしてデイジーを正妻にするということを伝えていなかった。
しかもそれだけではなく、デイジーのことも伝えていなかった。
「それだけに飽き足らず相手が平民とは何を考えているんだ?」
「……」
ロビンは黙ったまま何も言わない。
自分のする反論は先ほどルイスに全て論破されたからだ。
「しかも王子に対して失礼な発言を……貴様はどれだけ公爵家に恥をかかせれば気がすむんだ?」
父は呆れて額に手を当てる。
「はあ……もうお前にはガッカリだ」
ガッカリ。
先ほどルイスからも聞いたその言葉に、ロビンはヒステリックになり、叫んだ。
「たった一度間違いを犯しただけじゃないか!それなのに切り捨てるなんて、僕は父上にとってただの道具でしかないのか!」
ロビンは悲痛に訴える。
しかしそれはあっさりと切り捨てられた。
「甘えるな」
「えっ?」
「今まで貴族として生活してきたくせに義務から逃れたいと我儘を言った挙句、今度は親子としての情をたてに罰から逃れようとするな!」
「っ!」
「やはりお前の性根はもう腐りきっているようだな。ロビン、お前は廃嫡とし、平民になってもらう」
「そんな……」
「これは当主としての決定だ。早く部屋から出ていけ。その後はお前を王子に引き渡すまでは待機だ」
父は冷たく言い放つ。
ロビンは父はすでに自分のことを息子としては見ていないことを理解した。
そして同時に自分のこれからの運命に絶望する。
王子に不敬をはたらいた自分は裁かれるために自室で待機することになる。
その後どんな目に遭うのかは想像もつかない。
ロビンが恐怖していると、父が後ろを振り向いて呟いた。
「最後にデイジーという娘を呼んでも構わん。お前を自室から出すことはしないがな。……これが最後の私の親としての情だ」
父の悲しそうな背中を見てロビンは罪悪感を覚えたが、もはや息子ですらなくなった自分には何も言えなかった。
「……ありがとうございます」
お礼だけを言って部屋から出る。
廊下に出ると使用人が二人待ち構えていて、ロビンが逃げないように両側についた。
まるで罪人の気分だ、と歩いていると目の前にとある人物が立っていた。
弟のケリーだ。
ケリーは悲しそうな表情でロビンへと話しかける。
「あなたには失望しました」
「それはもう何回も聞いた。お前も僕を馬鹿にしにきたのか?」
ロビンはうんざりしながらケリーを睨む。
しかしケリーは首を振った。
「いいえ、私はあなたに期待していました。兄として不甲斐なくても、いつかきっとあなたは当主としての自覚を持ち、真面目になるだろうと」
「……」
「父上もあなたに期待していたんですよ?」
「え? 父上が?」
「当然でしょう。だってたとえどれだけ不真面目でも、肉親なんですから」
ロビンは悟った。
自分はとんでもない過ちを犯したのだと。
そして同時に、家族の期待すらも裏切ってしまったのだと。
「そんな……」
今更ながらにロビンは後悔する。
「もうやり直すことはできません。残念ですが」
そう言ってケリーはロビンの横を通り過ぎて行った。
ロビンは激しい罪悪感と後悔に苛まれていた。
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