11話
「……相手は。誰を正妻にするつもりだったんだい?」
ルイスは恐る恐るロビンへ質問する。
するとロビンはよく聞いてくれたと言わんばかりに誇らしげに胸を張って答えた。
「勿論、私の愛するデイジーです」
「デイジー……? 聞いたことない名前だが」
「彼女は平民です。ですが、そんなことは関係ありません。なぜなら、私たちは本当に愛し合っているので」
「………………」
もはやルイスは言葉が出てこない様子だった。
当然だ。浮気をした挙句、婚約者を妾にして平民を正妻に据える、と言うことがどれだけ愚かなことなのか、普通は知っている。
「本当に君はそれが正しいと思っているのかい?」
「はい! もちろんです!」
「そうか……」
ルイスはため息をついた。
完全にロビンを見捨てることにしたらしい。
「ロビン、君は人として最低だ。いいや敢えて汚い言葉で言うなら──クズだ」
「…………は?」
ロビンは唖然としていた。
まさかルイスに罵倒されるとは思わなかったのだろう。
「な、それはどういうことですか?」
「妾にすると言うこと自体、そもそも失礼に当たる行為だということは理解しているかい?」
「で、ですが真実の愛が……」
「真実の愛が何だ? 今まで歩んできた婚約者をあっさりと切り捨て、妾にするなんて裏切り行為は正当化されるのか?」
「それは……」
「婚約破棄されて当然の行為だ。それなのに、あまつさえ君はメアリーを今貶め、売女と罵った」
「……」
「もう一度言おう。君は人間のクズだ」
「そ、そんな……」
ロビンはショックを受けていた。
目上の人間からハッキリとクズと言われたロビンは、言い返したくても言い返せない様子だった。
「それに、君はさっきメアリーが僕を誑かしたとか言っていたみたいだが」
「っ! そうです! 王子! 目を覚ましてください! そいつは王子を誑かして私を側近の座から引きずり下ろそうとしたに違いありません!」
「そんなわけ無いだろう。側近を外されたのは、君の自業自得だ」
「なっ!?」
「少しは常識的に考えたらどうだい? 仕事を放置して何ヶ月も生徒会に出ず、メアリーに全て押し付けていた君が、本当に側近に相応しいか?」
ルイスは本当に呆れてため息をつく。
「…………」
ロビンは言い返せないようだった。
今ルイスが言っていることは全て真実。
仕事を放置し、生徒会にも出ず、私に仕事を押し付けていたのは事実だ。
ロビンはそれを理解しているから言い返せないのだろう。
それか単純に相手が王子だから我慢しているのか。
ロビンを見れば固く拳を握り込み、手が震えていた。
どうやらただ単に我慢しているだけらしい。
「それに私が誑かされている? ……正直言って不快だ」
ルイスは明確に不快感を込めてロビンを睨みつける。
今まで温和だったので、私はその表情に驚く。
怒り心頭だったロビンもその表情には怯んだようだ。
ただ、ルイスの言うことは理解できる。
誑かされた、と面と向かって言うのは、誘惑に負けていると指摘するのと一緒だ。
今まで王族として高潔に振る舞ってきたルイスのその名誉を傷つけられるような発言をされて愉快な訳がない。
「王族が簡単に誘惑に負けたと決めつけ、自己を省みず全て責任を他人に転嫁し、平民と結婚し、あまつさえ犯罪にまで及んでいる。君にはガッカリだ」
ロビンは足を震わせていたが、ルイスが平民と結婚していると言った途端、怒りを爆発させた。
「ルイス王子! 今の言葉を撤回してください!」
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