10話
「お前たち! 女性一人を複数人で囲んで何をしている!」
その場にいた全員がルイス王子へと振り向く。
その隙に、私は掴んでいる腕を振り払って、ルイスの元へと逃げ出した。
ルイスの胸へ私は飛び込む。
本来なら婚約してもいない男性の胸へ飛び込むなんてはしたないのでしないが、この時は襲われるかもしれないという恐怖心で動揺していたのか、無意識にルイスの元へと走っていた。
「王子っ……!」
私のはしたない行動にもルイスは応えてくれて、抱きとめるように私を受け止めた。
「なっ……! 手が震えているじゃないか!」
ルイスは握っている私の手が恐怖で震えていることに気づいた。
ルイスはロビンと取り巻きたちを強く睨みつける。
「まさかお前たち、メアリーへ乱暴しようとしていたんじゃないだろうな!」
ロビンと取り巻きはルイスの言葉に図星をつかれたようにビクリと肩を震わせる。
しかしロビンはすぐに言い訳を始めた。
「ち、違います。私たちはただ話をしていただけで……なぁ、そうだよな?」
「ええ、そうです。少し質問をしていただけで」
「乱暴だなんてそんな……」
「では、何故メアリーはこれほどまでに怯えているんだ」
「存じません」
「私たちは何もしていません」
ロビンと取り巻きは互いに顔を見合ってはぐらかす。
「私、あの人たちに襲われそうになりました」
私はルイスへと真実を伝える。
「そうか……よく教えてくれた」
ルイスの声に一層怒りが篭った。
しかしロビンは私を罵倒し始めた。
「冤罪だ!」
「この売女め! まだ嘘を重ねるのか!」
「醜い言いがかりをつけるな! 今すぐに真実を話せ!」
「そうか、なら……そこの君、今何があったか教えてくれ。これは王族命令だ。偽証は許されないものと考えてくれ」
ルイスは野次馬の生徒に質問した。
口調は優しいが、凛と威厳の篭った声。
嘘をつくなら容赦しない、と言外に伝えていた。
「なっ!? や、やめ──」
「黙れ! 君には今聞いていない!」
ロビンは反射的にまずいと思ったのか、制止しようとしたが、ルイスは大声でロビンの言葉を遮った。
そして王族に命令されて逆らうわけにはいかない。質問された生徒は包み隠さず真実を話した。
「え、えーと……ロビン様を含む彼らが彼女を囲んで恐喝、罵倒した後彼女の服へと掴みかかり、罰を下す、と言っていました」
「だ、そうだが」
ルイスはロビンへと向き直る。
ロビンは冷汗をかき始めた。
「な、何かの間違いです。これは──」
「言い訳は止めろ」
「っ!」
ルイスはロビンの言葉を遮った。
「君たちを軽蔑するよ」
そしてルイスは嫌悪感を隠しもせずに吐き捨てた。
「ち、違います! これには訳があるんです!」
「何が違うんだい? 側近を外されたことの逆恨みで、君たちは一人の女性を脅迫し、あまつさえ暴行を加えようとしたんだろう?」
ロビンは言い訳をし始めた。
「私はただ、ルイス王子を誑かし、私を陥れようとしたその女に罪を認めさせたいだけなのです!」
ロビンは力説し始めた。
メアリーがルイスの判断をどれほど曇らせているのかを。
もっともルイスはそれを冷ややかに聞いていたが。
「メアリーに騙されてはなりません! その悪女は、私に対して復讐しようとしているのです!」
「復讐?」
「はい! 私がただメアリーを妾にすると言っただけでそいつは私を恨み、あまつさえこのような恥ずべき八つ当たりをしているのです!」
八つ当たりをしているのはどちらだ!と叫びそうになったがメアリーは我慢した。
隣で聞いていたルイスは、ロビンから語られた事実に唖然としていた。
「………………は?」
ルイスはまるで冗談のような話を聞いて、とても信じられない様子だった。
ロビンへと聞き返す。
「メアリーを、妾にすると言ったのかい? 婚約している相手に対して?」
「はい、そうです。たったそれだけでメアリーは逆上し、婚約破棄までしています。ルイス王子もおかしいと思いますよね?」
「……」
ロビンに自分の怒りは正当でしょう? と当然のように質問されて、ルイスは絶句していた。
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