第64話・1 南への道(1)
帝国の脱出は、ヴァン国大使達とは別のルートとなりそうです。
帝国の追ってはどうするのでしょうか?
帝都を脱出した私は、帝都の南方向へ飛空しながら降りれる場所を探しています。
真夜中の飛空です、3度目とは言えまだ不慣れな夜間飛空なので、降りたいのですが森か林でも良いのですが見つかりません、レタも探してくれていますがやはり見つからないそうです。
仕方がないので隠れられそうな川に掛かる橋の下に着地しました。
直ぐに家に入って体を温めます。
飛空で飛ぶのは冬は最悪です、寒くて震えあがりました。
お風呂に入って一息つきます、カスミちゃんが手や足を揉んで温めてくれます。
通信は距離が離れると、繋がらなくなります。
これは魔波が魔力にしか干渉しないため電波の様な電離層が無いためですし、地下を直線で結んでも地面の中には微弱でも魔力が在りますから短距離ならともかく、長距離では魔波の減衰が激しくて繋がらなくなります。
ですからヴェラ大使が離れすぎて通信が繋がらなくなる前に無事帝都を脱出したことを連絡したいのですが、このままでは無理でしょう。
お風呂の中で確認したのですが、私の右膝から右の腰の上まで蚯蚓腫れが出来ていました、アルベルトが打った魔力の衝撃波が当たった場所です。
カスミ姉ねが直ぐに薬を塗って回復魔術で手当してくれましたので、朝までには腫れも引くでしょう。
ベッドに入っても頭の中は先ほどの事で一杯です。
でも良く生き残れました、敵とは相打ちでしたけど、敵のダメージはどのくらいか分かりません。
私は聖域の結界が破れました、神格のある私が張った聖域結界を破るには最低でも私と同じくらいの魔力か神力を出せる神具があると言うことです。
つまり私を殺せるということです。でも敵も私の攻撃を防げませんでした、私も敵を殺せると言うことです。
あの戦いを思い出すと、敵は何かを振って攻撃してきました、あれは彼が持っていた大剣でしょう、あれが私と同等の神力を出せる神具の可能性がありますね。
カスミ姉ねに引っ付いているとカスミちゃんが後ろからピッタリくっつきます。
疲れました、今日はねましゅ…。
若い体はあんな死線上の戦いの後でもぐっすり寝ることが出来ました。
寝起きはそう悪くありません、カスミ姉ねもカスミちゃんも既に起きているようです。
私も起きて服を着ます、今日は少しでも遠くまで移動しなくてはいけません。
服を着て食堂まで、歩いて行きます。
食堂に全員集まっていたので、「おはよう」と朝の挨拶をします。
カスミ姉ねが「おはよう、カスミ」とほほ笑んで。
カスミちゃんが「おっはよう~」と元気よく。
執事服のレタも「おはようございますです」とお辞儀をします。
侍女服のアイも「おはようございます」とカーテシーします。
神技の料理人服のナミも「お早うにて御機嫌ようございます」と深々とお辞儀します。
お喋りをしながら朝食を皆と食べます、食べやすいように手のひらぐらいに切ったパンにチーズやバター、蜂蜜を付けて食べます。
お皿にほうれん草やアスパラガスのバター炒めと卵のスクランブルを取って食べると美味しさで口中が幸せになります。
食後にハーブティー、私は朝にローズヒップにカモミールをブレンドしたハーブティーが好きで今日も飲んでいます。
はて? 今は12月始め、真冬ですよね、乾燥させたドライハーブは別として、ほうれん草やアスパラガスに卵?
ナミが言うには、パンと蜂蜜以外全て、ドライハーブも含めて牧場と植物園で収穫した物や作った物なのだとか、びっくりです。
蜂蜜にしても植物園の一角で養蜂を始めているそうで、もうすぐ蜂蜜も自家製が作れるそうです、二度びっくりです。
全てを主導したカスミ姉ねによると植物園を四分割してそれぞれに四季の環境を順次巡らせて一年中全ての季節の野菜や果物にハーブなどが収穫出来る様になったんだとか。
牧場は季節は外と同じように四季が来るけど、もっと温暖な環境にして低木や小川の流れる草原を基本に作っているそうです。
牛、やぎ、豚は一緒に放牧しているそうです、鶏は鶏舎で飼育しているので近寄ると物すごくうるさいのだとか。
「だから、牧場も間引かないと増えすぎてしまうので、もうすぐハムやソーセージなどの肉製品も作れるよ」とカスミ姉ねが楽しそうに言う。
なんて長閑な田園を思わせるお話でしょうか、もう穀物さえ作れる様にすれば1年中引き篭もって過ごしても良さそうです。
でも私には敵が出来てしまいました、引き篭もって何か居ると何時の日か神域の結界まで破って来そうです。
気を引き締めてこれからの動きを皆と相談します。
レタが昨夜からの帝国の動きを知らせてくれます。
帝国は昨夜の内に南へ兵力を展開させています、1000人規模の部隊を複数街道を使って南のロマーネ山脈方向へ移動させたそうです。
今外は帝国軍がそこら中に居て、出ると直ぐに見つかるだろうと言う事です。
こうなったら空を行くしかないでしょね。
「防寒対策をした上で飛空で少しでも遠くに離れたいと思っています」と皆に告げる。
「冬だから、橇をゴーレムに引かせれば結構早く移動出来るよね」とカスミちゃん。
「ゴーレムならドミナント要塞からの帰り道で手に入れた6級のコアで作ったのがあったよね」とカスミ姉ね。
大アントナ山脈に居る灰色ガイルベアのコアで作ったゴーレムね、スピードも30km/hは出せたはず。
「一日あればリアカーを基に車輪を並べた作りにして橇の胴体部分を部屋にして防寒仕様の軽車両を作れるよ、ゴーレムにもハーネスを付けて繋げれば軽車両を引くのに便利だし、操縦もゴーレムから見えるし軽車両は窓を作らなくても良いよね」
「それにゴーレムに直接乗れるようにしても良いよね」
私の意見は無視されて、姉ねの話でまとまりそうです。
と言う事で、軽車両での移動になってしまいました。
私以外は皆の意見は一致していて、私を一人で外へ出さないと決まってしまいました。
ただし移動でどうしようも無くなったときは飛空しても良いとなりました。
カスミ姉ねが軽車両を作っている間に、私は傷んだボディースーツを作り直します。
今回の件で防御力をもっと上げないと敵の攻撃を防げ無い事が分かりました、今までの魔金属の芯を綿で覆っていましたが、これを魔糸に変えてみます。
螺旋に加工した魔金属4種に魔糸を錬金空間で融合していきます。
綿の物より、神力を付加しやすいです。
聖域結界以外に、一定の温度や圧力(気圧)を維持する環境コントロールの魔術も付与出来ました。
これで夏冬どちらでもこのボディースーツを着てるだけで過ごせます。
でもこのボディースーツ、すごく伸び縮みして着やすいけどセーター並みに厚地なんだよね。
見た目は鎧下みたいにゴワゴワはしてないので、ミスリルのプロテクターを付けないといくら厚地とは言え体の線が見えて恥ずかしいよね。
帝都を脱出する時からヴァン国大使達とは別のルートに成ると覚悟していたようです。
帝国の執拗な追ってをどう掻い潜り、逃げる事が出来るでしょうか?




