第60話 帰りは怖い(3)
カスミは一生懸命に考えます、でも脳筋娘ですから。
西へ行けば行く程、人通りも多くなり野営の人数も多くなっていきます。
ここまでくれば、敵の襲撃を恐れる必要は無いでしょう。
リリイの銃撃さえ警戒していれば良いと思い込んでいたのでしょう。
その日の野営は何時もの街道脇に用意された広場でする事にして。
周りにも何組かの野営組が居るので、なるべく離れた場所を確保した。
雪交じりの寒い雨が少し降った後で、何時もの様に三角形に止めた馬車の中で焚火に当たりながら食事をしていると、ナミがいきなり立ち上がり馬車の外へ出た。
レタからはまだ何も言ってきていない。
と、そこへ剣で切り結ぶ音がする、空間把握でナミを追っていたが攻撃されたのは明らかだった。
そこにいきなり馬車の側で爆発音がした、此方への影響は聖域が防いだようで被害は無かった。
ナミが心配です、思わず音がした方へ近寄りましたが、レタが立ちふさがって行かせてくれません。
「お嬢様ナミは無事であります」とレタが報告してくれます。
やっと落ち着いて、周りを見る余裕が出来ました。
遅くなりましたが、部隊長へ周囲の警戒と、火球砲への人員の配置を行うように命令します。
アイは焚火を消しに行ったようです。
2人の部隊長は直ぐに部下の隊員を動かして各砲台へ向かった。
周囲で野営していた人たちが騒ぎ出す音が聞こえます。
今日は雲が厚く垂れこめ、寒さも厳しく風もやや吹いています。
焚火が消えると指先さえ見えないぐらいの真っ暗な闇夜になった。
アイが私の側で控える、レタの指示のようだ、ナミが心配だがこの部隊の責任は私にあるむやみに動けない。
やきもきしてレタの報告を待っていると、やっとレタから報告が来た。
敵(魅了男のパーティー)のメンバーで闇精霊術師のエインが馬車へ何か仕掛けようと
近づいていたらしい。
ナミが気が付いて妨害に出ると、襲って来たそうだ。
爆発はナミを狙って炸裂したが、ナミがとっさに危機感を感じ闇に逃れたそうです。
ナミに怪我は無いそうで、エインと思われる敵は爆発を利用して逃げたそうです。
レタの報告では、他に忍んでいた者はいなかったから、一人で仕掛けにきたようだ。
目的は何をしようとしていたのか?
レタによると馬車の車軸に何か仕掛けようとしてナミに見つけられたと言う事だった。
アイが常に側に居ることが条件で、馬車の車軸を見に行くことになった。
馬車の車軸とは言っても1本の棒から出来ているようなものでは無くて、車輪毎に作られていて全て金属製で大使が使っているだけあって頑丈で見た目も良く、この車軸にどんな仕掛けをしようとしたのかな?
何を仕掛けようとしたのかは直ぐ判った、車軸の近くに四角い金属の箱が落ちていたのだ。
空間把握で精密に調べると、箱は爆弾で中身はナフサ(原油)に油脂やゴム、硫黄、硝酸カリウムなどの混合物で、車軸の回転で箱が歪むと発火して高熱を出して燃焼する物体でした。
(ビザンツ帝国の火なのか by大姉)
高熱で金属を溶かすか弱くすれば馬車は動けなくなります、敵(魅了男のパーティー)は馬車の足止めを狙って仕掛けてきました。
これまで敵の攻撃に対して受け身ばかりで攻勢に出れなかったのは、敵(魅了男のパーティー)の居場所が、此方の空間把握外に居るからで、銃撃して来た場所の特定もできていません。
ここで闇雲に打って出るのは悪手ではありますが、何時までも受け身では敵(魅了男のパーティー)の攻撃に翻弄されて何時かは破られるかもしれません。
(それが、脳筋だと言われる証だよ by大姉)
(焦ってはダメよ、今は耐える時なの by妹)
あうう、ごめんなさい焦っていたようですね。
今は、敵(魅了男のパーティー)をこちらが攻撃できる場所へ誘導すべきでしたね。
(それは脳筋が少し考える脳筋になっただけよ by大姉)
(敵がどっからでも攻めてこれる場所じゃなくて、決められた方向からしか攻められない場所って無いの? by妹)
そうね、川や沼地、崖、海、湖など障害物があれば攻める方向が特定できるけど、逆に逃げる場所も無くなるよ。
敵に取って攻めやすく、わたしたちが撤退しにくい場所と言えば、橋の上とかね。
街中だと比較的長くて大きい橋はあるけど、そんな場所でドンパチ始めると周りに被害がでてしまうわね、敵(魅了男のパーティー)はそれが私達を引き止める手段になりえるから狙ってくるかもしれません。
いえ、攻撃ではこちらを攻略できなければ、からめ手からの手段を取って来るでしょう、敵(魅了男のパーティー)は味方や一般の人を巻き込むことまでするでしょうか?
敵(魅了男のパーティー)の本性を考えれば行ってくるでしょう。
この辺りの領主を巻き込んで私達の引き止めと離間工作があると考えなければいけません。
ますます持って、受け身は不味いです。
一気に敵(魅了男のパーティー)をせん滅しなければ。
(まぁ仕方が無いかな by大姉)
(無関係の人まで巻き込むのはだめだよ by妹)
よし、今夜決行だよ!
(討ち入りだぁ by妹)
今は夜5時(午後10時)ごろです、そろそろ出るとします。
私は飛空服を着て馬車から飛空で上空へと飛び上がります。
先ず、リリイを潰します!
彼女はレタ、アイ、ナミを狙って狙撃してきました、許せる存在ではありません。
特に先ほどの爆発は危険でした、一歩間違えればナミを失っていました。
上空100mまで上がると何時もの様に飛空服を展開します。
更に上昇して雲のすぐ下1000mまで今日は上がる積りです。
1000mまで上昇し、ゆっくり滑空に入ります。
高度を維持しながら円を描く様に馬車を中心に周りを飛びます。
レタに手伝って貰いながら空間把握で地上を精査して、リリイを探します。
先ほどのエインの工作をバックアップするために絶対こちらを見張っていたはずです。
焦らず、じっくり探していきます、空間把握で地上を精査している御蔭か前回の夜間飛行時のような空間識失調には今回ならないでしょう、常に地上と上空の位置を確認して飛行し高度を維持しているから、目で見ていないのです。
夜7時(午前0時)前ごろ、見つけました、西へ4km離れた丘の上に2人、一人は銃器を肩に担ぐように、一人は寝転がってこちらに向けて構えています。
見つかった?
2人の居る場所で閃光が走りました。
二人に神罰です!
考える間も無く、ただし今回はワイバーンの時の様な見境の無いイオン粒子線では無くコントロールされたイオン粒子線を打っていました。
私の側を何かが高速で通り過ぎました。
夜の地上に爆轟の音が響きます。
空の上まで空気が揺れて突風が吹き荒れます。
私は飛空服を収納し、飛空で高度を一定に保ちながら高速の物体と爆轟によって発生した突風をしのぎます。
地上の2人の周りは吹き飛びました、と言うか地面が液化してるよ。
(やっぱり脳筋ね、考えるより先に打ってるよねこれ by大姉)
(消費魔力は今回は1万で収まってるよ by妹)
(これだから、考え無しの脳筋め、イオン粒子線を打つなら反動ぐらい計算しなさいよ、反動でカスミの方が危険になってるじゃない by大姉)
危ない所でした、リリイも空間把握を持っていたようです、確実にこちらに反応していました。
二人を倒した後、さらに敵を探して周囲を飛ぶつもりでしたが、この音と風では彼らも警戒して逃げているでしょう。
夜7時(午前0時)丁度ぐらいに疲れ果てて馬車に戻りました。
(連続3時間の飛空はそりゃぁ疲れてあたりまえだね、お帰りなさい by妹)
(お疲れ様、無事でよかったよ、戦果はあったんだこれで敵は目と手を失ったね by大姉)
はい、よかったです。
え、レタこの後夜番ですか?
順番は、部下の手前しないとだめですよね。
野営地では先ほどの爆轟でみんな起きてきて大変な騒ぎになっていました。
馬車の上に降りるのは周りが暗いので簡単でしたが、人が起きてきてそこら中をウロウロしていますから、一旦馬車の中に天井の入り口から入り、家で着替えて馬車の外へでます。
直ぐにアルとドンの隊長二人が寄ってきます、指示を聞きに来たのでしょう。
二人に音は西よりしたことを伝え、6人態勢の夜番を続けることを伝えました。
寝れないって若い肉体ではたまらない苦痛なんです。
何度も寝てしまいそうになったことか、いえアイに助けられて少しは寝れたのです、助かりました。
今夜も警戒を続けないと、仲間を殺された敵がどんな報復に出てくるかわかりません。
カスミの反撃です、リリイも空間把握持ちです。
空と地上で激突しました。




