第57話 火球砲引き渡し
引き渡しは順調に進むでしょうか。
私達が引き渡す準備をしながら待っていると、アイザックス将軍のバリディン副官が40人程を引き連れてやってきました。
彼らが火球砲を受け取る部隊でしょう。
帝国の火球砲隊は2門を40人で運用するそうです。
部隊長さんはバリディン副官が当分の間担当するそうです。
火球砲に関する操作と知識にメンテナンス作業は全てバリディン副官にだけ説明し、バリディン副官が部下に命令することで火球砲を扱うそうです。
私が砲の各部品の名称や機能への理解が無ければ触る事さえできないとバリディン副官に説明すると。
バリディン副官は、その部分の部下への説明は彼が全て指導するので、不要だと言い切ったのです。
何と言うか指揮命令の仕方がヴァン国と違い過ぎています。
下士官の存在が命令を多数へそのまま中継するだけの存在に成っていて、上官の命令を伝えるのに決まりきった動作を決まりきった手順で行うことが全てみたいな動きです。
仕方なく、彼に取り扱い説明書を渡し各部品の名称と機能を覚えて、部下にも理解させることが出来たら、試射するのでまた来てくれと言ったのですが。
バリディン副官は今すぐ火球砲を引き取りたいと私の意見を無視して、強引に言って来ます。
仕方が無いので、経緯を書いて引き取り後の火球砲の問題は全て引き取った帝国にあるとの1文をアイザックス将軍に書いてサインしてもらった。
バリディン副官へは引き渡しにサインする条件として、火球砲の実射を行いそれを持って引き渡し完了とするとした。
こちらとしてはバリディン副官への指導だけで終わるとは思えず、面倒毎が発生しそうで嫌だったが、アイザックス将軍にわざわざ出張って貰ってサインしてもらった以上文句は言えない。
おとなしく、彼等40人が見守る前で、バリディン副官に実際に操作させることにして、帝国への譲渡1番砲をアル隊が、2番砲をドン隊が操作することにして、試射を行った。
的は前回の試射と同じように堀に面した場所から230ヒロ(345m)離れた位置に設置した。
バリディン副官に試射を始める手順として、火球砲を設置する作業をもう一度初めから行って見せる。
1番目は、火球砲を固定する作業、火球砲は1本の長い1ヒロ(1.5m)の台の上に回転台を取り付けその上に設置されているので、先ず地面に固定する必要がある。
一番最初に砲の安全装置を安全側へ入れる事、又は安全側に入っていることを確認する事、これが最も最初にする作業です。
安全を確認出来たら杭を深く打って動かないように杭に火球砲の足を括り付ける。
2番目は、固定が終われば火球砲の動きに問題が無いかチェックする。
砲が回転上下動するか確認する作業。
回転台で1回転させて確認する作業。
砲を上下に振ってみて確認する作業。
最後に、最終確認の作業で、全体を見ておかしな部分が無いか確認する作業。
ここまでが火球砲を設置する作業となる。
次が火球砲のエネルギー源となる魔石の取り扱いです。
1番目の魔石の交換作業は、上司へ報告して許可されるか、上司立ち合いで作業する。
これは高価な魔石なので作業は間違いの無いよう行った方が良いと思っています。
2番目は、魔石をセットする作業です。
魔石を出し入れする前に、砲の安全装置が安全側へ入っているか再度確認する事。
これは間違えて火球砲が発砲するかもしれないからです。
魔石の固定器具を解除して、魔石を引き出し、使用済の魔石ならば排除後、魔石を入れる、最後に魔石を固定すると言う手順を行います。
3番目は、目標に火球砲を向けて打ちます。
例えば「前方230ヒロの試射用の的へ撃ち方用意」私が命令を各隊長へ出す。
隊長は部下へ「前方230ヒロの試射用の的へ撃ち方用意」の命令を出す。
部下は指定された的へ砲口を向け、砲の安全装置を外す作業を行い。
「打ち方用意完了」と隊長へ伝える。
隊長は「打ち方用意完了」と私へ伝える。
私が「撃てー!」と号令をかける。
隊長は部下に「撃て」と命令する。
部下は発砲用の引き金を引いて砲を撃つ。
引き金を引いてる間は発砲を繰り返して魔石の魔力が無くなれば打てなくなる。
魔石の魔力が無くなった時の作業は2番目の作業を行えばよいのですが、状況に合わせて変更が必要でしょう。
4番目は、火球砲を打ち止めて移動出来る様にするまでです。
私が「打ち方止め!」と命令する。
隊長は部下へ「打ち方止め!」と命令を出す。
部下は発砲用の引き金から手を放し、砲の安全装置を安全側にする。
後は、撤収する場合は砲の固定を解除して運搬出来る様にすれば完了です。
一つ一つの手順は単純ですが、命令で発砲するため確認と上官の命令が無ければ発砲出来ないようにする手順は帝国で考えれば良いかなと思います。
バリディン副官に何回も分かってくるまで火球砲を操作してもらった。
1番砲、2番砲各々30発ぐらいは打ったと思う頃に試射は終りました。
これで、引き渡しの最終段階まで終わったので、昼過ぎにはこのドミナント要塞を出て帝都ミンスターへ帰る事をバリディン副官を通してアイザックス将軍に知らせてもらう。
帝国との契約の全てが完了したので勝手に帰っても良いのだが、礼儀として帝都への帰還は知らせた方が良いだろうと判断した。
案の定、アイザックス将軍からは帰って良いと返事があった。
一連の帝国の姿勢を見るに、火球砲を分解し、帝国で分析すれば火球砲は作成できると確信しているのだろうと思う。
分解したヴァン国の火球砲は修理不可能なまでに破損した、とでも知らせて終わらせるつもりでしょうね。
この事を危惧して、アダマンタイトの魔鉄と鉄を合金に加工し、1本の分解できない金属の塊を砲の形に成型して作ってますから、分解は無理だと思います。
魔術陣は錬金で合金内部にオリハルコンで直接書き込んであるので。
切断しても切断断面しか見えないと何が何だかわからないと思う。
しかも合金は切断するにも魔道具でもない限り切断できないだろうし。
溶かして分離すると、中のオリハルコンで書いた魔術陣まで溶けてしまう。
帝国の取って来る手段は理解しているので、問題が起こっても対応できるように準備しました。
どうもきな臭い匂いがするので、後は急いで帰るとしましょう、雪も降って来るでしょうから。
何か帝国が焦って引き取ったようです。




