第55話 ドミナント要塞
目的地に到着です。
しばらくして私達の馬車に伝令が来てアイザックス将軍の部屋まで出頭するよう要請(命令)されました。
アイザックス将軍から呼ばれているようです、アル隊長とドン隊長を引き連れて挨拶に行きましょう。
アイザックス将軍とは城館の彼の執務室で合うことになった。
部屋へ案内されて合った将軍は歴戦の勇士らしく大柄な体格をした50がらみのゴリラ?でした。
「初めてお目にかかります、私がヴァン国砲兵部隊長のカスミと申します」
「こちらの二人が順に1号砲隊長のアル、次が2号砲隊長のドンであります」
私達がヴァン国風に敬礼すると、アイザックス将軍が返礼しながら。
(手を握り胸に当てる敬礼ってかっこよいよね by妹)
(帝国風の敬礼は指3本を右耳に向かって立てるんだね by小姉)
「私が東邦方面軍最高司令官のアイザックス大将である、今回の火球砲とやら本当に飛竜に効くと良いのだがな」
「先ずは試し打ちを行うのはどうでしょうか、よろしければ場所と時間の都合をお願いします」
と試射の提案をする。
「分かった、バリディン副官、手配するように。」
と彼の後ろに控えていた、無表情な男がバリディン副官のようです。
「決まれば、知らせる、では期待している。」
と敬礼して此方を追い出します、私達も返礼しその部屋をでます。
どうもこれが彼の性格なのか、それとも非友好的なのか判らないですね。
休憩場所へ戻ると、周囲の軍団は大半がどこかへ消えて、広場は広々としています。
(恐らく今回来た軍団は補充兵を集めた一時的な軍団で、既に補充先へ移動したんだと思うな by大姉)
結局夜になっても連絡はありませんでした。
私達は広場の真ん中に居るよりはと北の堀近くへ移動し、再度馬車隊を三角形に組み直し夕ご飯の後は、ドワーフ隊はお酒を飲んで歌い、エルフ隊はお茶を飲みながら楽器をつま弾いています。
ここ何日か一緒に居た所為か歌と楽器の伴奏が良く噛み合い、楽し気な合奏となって夜の空に響きます、私達もドワーフと歌い、エルフと楽器を奏で合いながら宴の夜が更けていきます。
(お酒はドワーフと違って直ぐ酔ってしまいますから飲みません by小姉)
夜の見張りはこれまでと同じように3名で3等分の担当を夜間実施します。
明けて朝、夜の見張り最後の班だったナミがまだ闇魔術の気配を感じるとの報告があったので、まだ火球砲の秘密を探る密偵は諦めていないと思います。
バリディン副官から朝食後の昼3時(午前8時)頃連絡がありました。
内容は、試し打ちは今日の昼8時(午後1時)から、場所はこの今の場所。
試し打ちの的は、水堀(30ヒロの幅がある)を越えた先200ヒロに設置する。
合計230ヒロ(345m)先を今の場所から射ち、射撃後の的の状態を見るそうです。
的の設置場所は砦とドミナ川の間にある荒れ地で人は居ないそうです。
(荒れ地と言ってるけど、住居が壊された跡だよね by妹)
(そうだね、人が居ないのでは無く追い出したのだろうね by大姉)
帝国の東への拡大は侵略戦争の歴史です、侵略された人達の抵抗と悲劇の歴史でもあります。
私達が今回帝国に加担してここに居るのは、ヴァン国の食料の為でもありますが自業自得な部分がある事は認めなければなりません。
サッサと竜騎士を追っ払って帰りましょう。
その為にもこの試射は失敗できません。
アイザックス大将たちは、昼8時(午後1時)少し前に到着しました。
的は昼7前(午前中)に兵隊たちが沢山やって来て、的2つをあっという間に作ってしまいました。
昼8時(午後1時)前ぐらいにアイザックス大将とどうするか(主に打つまでの手順です)打ち合わせました。
時間になったので1号砲のアル隊長、2号砲のドン隊長に砲撃準備をさせて、私達の後ろに居るアイザックス大将の合図を待ちます。
アイザックス大将の合図です。「打ち方用意、…撃て!」
アイザックス大将の号令で私も命令します。
「打てー!」1号砲部隊が発砲を始めます。
続いて2号砲部隊が発砲を始めます。
命令に合わせて5発づつ連射します。「ポン、ポン、ポン、…」軽い発砲音が1秒毎にします。
(何で秒なの、この世界に秒に相当する時間は無いの? by妹)
(いえ、シタと言う短い時間経過を表す言葉はありますが、瞬間の意味なので一定の時間経過を意味していません、ですから秒をつかいました by小姉)
土で作られた2つの的は、最初の1発が命中した時から、徐々に粉砕されていき5発目が命中した時は窪地が出来ていました。
観戦していたアイザックス大将以下幹部の方々は、標的のあった抉れた地面から立ち上る煙を唖然として見ています。
しばらくして気を取り直したアイザックス大将がこちらを見て言います。
「おい、今のはなんだ。」
「何だと聞かれましても、火球砲ですと答えるしかありません」と敬礼をしながら返答を返します。
「む、そうだがそうでは無い、あの爆発と威力はなんだと聞いているのだ!」
ギギギと音がしそうな程歯を食いしばり、イライラしながら再度聞き直します。
「は、ヴァン国の軍事機密であります」と敬礼を続けながら答えます。
「機密だろうと何だろうと提供しろ!」と無茶苦茶な事を言い出す将軍様です。
「恐れ多くも神聖ロマナム帝国皇帝陛下御隣席の上で締結した条約に何かご不満がお在りか?」敬礼を止めて、将軍に問いかけます。
ビクッ、となって怒鳴り声を止め、此方を睨みつけます。
「いや、今のは、な、何でも無い、言い間違えただけだ。」
「軍事機密なれば仕方が無い、この魔道具は此方に提供するのだな。」
と勘違いしたのか、意図的な間違いなのか、念押ししてくる。
「将軍の承諾が得られれば、即座に2台火球砲を無期限で貸し出します」
「以後火球砲は、整備も含めて帝国に管理していただきます」
「故障あるいは、破損した場合は帝都にて有償にて修理しますが、修理不可能なほど破損した場合は条約に従い、貸し出しは即座に完了となります」
と知らないはずが無い、条約の内容を知らせます。
「竜騎士はそろそろやって来る頃間だ、その時効果があれば直ぐにでも承諾する。」
とアイザックス大将は初めて真面に私を見て言って来る。
「ハッ、承知しました」と再度敬礼し答える。
今度は将軍も返礼し、背を向けると周りのお供を引き連れて砦館に引き上げて行った。
火球砲の無期限リースって、所有権はヴァン国が持つと言う事だと思います。




