第34話 (閑話)迷宮賊に春が来た
ダンジョン12階で出合った、迷宮賊のお話です。
ここセルボネ市の中級ダンジョンにパートタイムの迷宮賊が居付いたのは1年前だった。
最初は彼らも普通の傭兵ギルド員だった。
いつも十数人で徒党を組んで戦争で荒稼ぎをしているか、ダンジョンで魔物を狩って魔石やドロップ品を売ってその日暮らしを過ごして来た。
戦争やダンジョンの魔物と戦い、仲間が死のうと生き残った仲間で酒を飲み肉を食らっていれば憂さも直ぐ忘れた。
そんな彼らがダンジョンで同じような奴らとひょんなことから争いになった。
たまたま弓持ちが多かった事で相手を皆殺しに出来た。
生き残ったのは十人だったが相手の装備と持ち物や仲間の装備などをはぎ取って売ると銀貨で千枚程の収入になった。
それからは彼ら十人はダンジョンへ金が尽きると潜り、魔物から魔石やドロップ品を手に入れるだけでなく。
8級のでる層まで降りてくる4,5人のクランを襲い彼らが降りてくる間に手に入れた物をかすめ取っていた。
1年もの長い間上手くいっていたのは、一月に1回程度で十分稼げたこと。
後は十字路の三方から奇襲し、問答無しで矢を打ち込み機先を制する戦いが旨いこと嵌ったから。
この1年間この世の春とでも言えるような浮かれた生活を送っていた。
月に銀貨千枚もあれば、毎日10人が飲んで食って女と遊んでも20日ぐらいの支払いが可能だった。
金が無くなればダンジョンへ潜り稼いでくる。
周りのギルド員や宿の従業員は彼らを普通のやくざな傭兵ギルド員だとしか見ていなかった。
ここ1年で行方不明になる4,5人のクランが多いことに疑問を感じた傭兵ギルドが調査を行い、怪しいギルドのクランを見つけた。
クラン風の団を率いるウィンスターは疑惑の対象となった傭兵ギルドのクランに付いて調査を依頼された。
もともとクラン風の団はクラン風狼と同じ、アクアラ評議会専属の傭兵ギルド員として準市兵(憲兵)の様な扱いだった。
そのため評議会が行う、ダンジョンなどに潜入しての調査は、クラン風の団が主に担っていた。
今回の調査対象がダンジョンへ入った。
との情報に6人の2組からなるクランの隊員12人をダンジョンへ投入した。
そこで遭遇したのが、12階最初の十字路での疑惑のギルドのクラン員10人の死体だった。
そこは12階の上からの階段出口から1本道で最初の十字路、左右の道はどちらも行き止まり。
死体は6人が行き止まりの道から中央へ向かって倒れている。
残り4人は階段からの道へ向かって弓の残骸を持った3人と頭が倒れている。
当然死体が残っている事から、死んだのは24時間以内だと分かる。
一般のクランが階段を下りてきて1本道を通り、ここまで来た所を前と左右から襲う。
ここは絶好の奇襲場所だった。
しかし、襲った賊たちはここで屍を晒ている。
襲われた方は何処に消えたのか。
迷宮の中の出来事である以上、襲われて返り討ちにする分には何の問題も無い。
しかし、こっちとしては報告ぐらいして欲しいとこだよなぁと思う。
ウィンスターはさっぱり状況が分からなくて襲われた方に教えてほしいと切に思う。
隊員が死体を調べている。ウィンスターは賊の頭と思しき男に近づき死因を調べる。
死因は首を鋭い刃物、恐らくナイフで切られている。
死体の状況から襲った直後に殺されたと見られる。それなのに正面の4人は全員ナイフで首を切られている。
賊の人数は10人で全員なのが分かっている。
仲間の裏切りなどは考えられない。
襲った直後に正面の賊の後ろへ行けるのだろうか?
ウィンスターは左右の賊を見る。
彼らは全て火の魔術で倒されている。
しかも、全員槍を持って獲物が来る道の方を向いたまま倒されている。
一瞬で6人しかも左右にいる敵を魔術で倒せるものだろうか?
魔術の行使には発動までに数秒の時間が掛かる。
ここで使われた魔術の規模なら1発行使するのに10秒は掛かるだろう。
よしんば襲撃が事前に分かっていたとしても、6人の魔術師が6人の賊へ魔術の行使を息を揃えて行えるだろうか?
不可能に近いことだと思う。たとえ帝国軍の魔術師といえど出合い頭の一瞬で行うのは無理がある。
まして、魔術師が6人なら前衛に10人は揃えているだろう。
賊が自分たちより人数の多い敵を襲うだろうか?
賊の方は良くわかるが、退治した方の想像が出来ない。
退治した方の人数から魔術師の数に能力まで分からないことだらけだ。
ウィンスターは結局賊の持ち物をはぎ取り、さらに16階を調べて賊が塒にしていた場所も突き止めた。
賊の塒にあった、底に張り付けた魔石で迷宮に吸収させるのを防ぐ箱から。
これまで襲った被害者から剥ぎ取りした物の中で売れないが価値のある魔道具や魔剣などが沢山見つかった。
これらは売ると持ち主の身元が分かる物ばかりを賊が箱の中にため込んでいた。
こうして風の団は迷宮賊の宝物を回収して、大金を得たのだった。
ウィンスターは事件を解決したが、賊を退治した者達への謎は深まるばかりだった。
傭兵ギルドの会員の普通な生き様と末路です。




