第23話・2 アクアラの町からセルボネへ船中にて(2)ー2
スリ対策を考えます。
魔術や魔石を利用した錬金術がある世界は、意外に地球の常識が通じない時があります。
先ほどの窓ガラスもそうですが、魔石を利用したポットや水筒では、魔石の魔力が尽きるまで水や熱湯を出すことが出来ます。
魔法袋は大きな物でも小さくし、重さも軽くして収納できます。
(物質を空間の隙間に入れるため質量を無視できるんだよ by知ったかぶりの妹)
魔力と言うエネルギーを使っていますし、無限に大きな魔法袋など不可能です。
時間も同じように経過します。
時間を早くしたり、遅くしたりも不可能です。
相対性理論はこの世界でも有効かもしれませんが、確かめた人は居ません。
(神様だって知らないと思うよ by妹)
(あの空に浮いてた奴だけは別だ、真理を知ってる奴だね by大姉)
船室にパンとチーズの入った袋を持ち込むと、袋を抱えて神域の部屋へ戻る。
袋を置いてドアを閉めたが船室のドアにカギを掛けたか心配になり、ドアを開けると神域のドアの位置が移動していた。
一体何が移動の原因なのだろうかと考えたが、単純に船が動いて居るからだと思う。
船が移動中は神域へは移動できそうに無いので船室に籠る事にした。
船室のドアは鍵がありませんが、簡単な引っ掛け鍵が申し訳程度に付いています。
非常時に強く引けば簡単に千切れるくらい弱いですが、こっそり侵入することを阻むことぐらいは出来ます。
因みに船室のドアは室内側へ開きます。
通路へ水が浸入しても船室から開けるように、逆に舷側から水が浸水しても通路側から船室のドアは水圧で開かないようにできています。
船旅の間ずっと神域の部屋に閉じこもる積りはありません。
先ほどの川に浮かぶ船上からの景色は素敵でした。
明日の川下りも期待できそうです。
錨を入れて停船する船の船尾甲板に出れば。
暗闇に浮かぶ船の船室から漏れる明りに照らされて、水面が瞬く有様は幻想的で耽美な世界を見せてくれそうです。
一段と高い船尾甲板から眺めたいですが、私の中の危機感が警告しています。
人の目が届かない夜の闇の中では、幼い女の子の私では危険が一杯です。
これもこの世界の常識です。昼間のスリが前の世界では考えられない程凶悪だったのもそうです。
夜の川の景色は船窓からでも見えますから、後で見てみましょう。
船が停泊している夜だけ神域に入ります。
神域は相変わらず変化が無いようです。
さほど時間が経った分けではないのでそんなものでしょう。
パンとハムとチーズをダイニングへ置くと、錬金の材料を持って船室に戻ってきました。
少し魔道具を作って積極的防御魔術を付加する作業をします。
昼間のスリが鬱陶しかったので、ベルトとベルトポーチに昼間使った魔術を、付加するつもりです。
発動条件は装備した状態で、私以外が直接ベルト又はベルトポーチに触ったら、です。魔術は昼と同じ電撃の魔術です。
昼と同じに誰かがマントの内側に手を差し入れてベルトポーチを取ろうとしたら、バッチ! となるわ。
あっでも誰かと街角で出合い頭に衝突する、とか無いだろうか?
「ふぅむ、あるかもしれませんね」マントだから前が空いてるのよね、コートにすればボタンで留めて置けるので、出合い頭でもコート1枚分があるから安全ね。
(付与しなくてもコートにすればスリに狙われないんじゃない by妹)
(そ、そうね by小姉)
結局、マントは棚に仕舞い、コートを自作する事に。
魔銀を主材料として魔金、魔銅、魔鉄の極細の魔鉱糸を綿の繊維で包み糸に加工した。
大量のこの糸を錬金空間内でフード付きコートに織り上げ。
立折襟でミスリルで作ったカラーを内側に付けて首の守りも完璧です。
見た目は淡い薄緑色の綿で作られた、地味なコートで腰から下を少し広げて歩きやすいようにしてる。
フードを被ると頭からブーツを履いた足元までスッポリ覆えるコートになる。
フードには目元のみ見えるようにした前カバーが付いてて雨や風が強くても大丈夫なように作ってます。
コートの両サイドにポケットを付けて内側のベルトポーチから、物の出し入れが出来るように工夫した。(刃物で切り付けられても大丈夫だよ by妹)
(聖域を付与出来たのが大きいですね、魔法にも打撃にも斬撃にも離れた距離から反発力が発生し、近づけば近づく程反発が大きくなるので、受ける衝撃がコート全体に分散されますから by大姉)
(魔鉱石4種類を糸に出来たのが大きいと思うよ、神の権能が付与できたんだから by妹)
防御力が高いので、今まで装備していた鎧系は外すことにして、露出する手に魔鉱糸で編んだ手袋を新たに作り手甲の下に着けることにした。
神域での作業だけでは時間が足りず、船室でも作業をする羽目に。
結局コートが出来上がったのは、船がセルボネに着く昼5時(午前11時)頃でした。
その間、制作で疲れた体や気持ちの気分転換に、船室でご飯を食べたり、権能やスキルのことを考えたり、昼は船尾甲板ですれ違う船や対岸の時々見える人家をのんびり見て過ごした。
そろそろセルボネ市に着きますね。
カスミは天才でも秀才でもありません。
ですからいつも考えています、間違えても間違いを正して考えます。




