第23話・1 アクアラの町からセルボネへ船中にて(2)ー1
やっと船に乗れます。
スリがしつこかったですね
セイルン号に乗船しました。
まだ昼の7時(午後0時)過ぎですから、出発まで4コル(1時間)あります。
セイルン号は大きな帆船です。
船の長さは200キュピテ(約60m)3本マストの帆船です。
水面から3階建ての家の高さがあって、私の船室は右舷の船尾最上階、右舷に5部屋ある1等船室の真ん中です。
中はベッドと立って出入りするだけの広さしかありません。
窓ははめ殺しの丸窓です。
鉄の枠に分厚いガラスがはまっています。
錬金術で砂や屑水晶から結構大きなガラスを作れることは知っていましたが、ここまで丸く厚さも有って、透明なガラスを作ることが出来る技術に感心してしまいました。
船室の備品としては、窓の下に食事や書き物が出来る固定された机と天井の魔石ランプと、ベッドの上や下に荷物を入れる空間がありますが、私はどちらも使わないです。
神域を開いて入ってみます。
朝と変わりないようです。神域の在り様も世界樹の変化も無いようなので、一度部屋から出て扉を消します。
船上では、積み荷の積み込み作業がピークを迎えている様で、大勢の人の喧騒が聞こえて来ます。
暫くは船室に籠って此れから向かうセルボネ市のダンジョンについて報告書から書き写した内容の検討でもしていましょう。
セルボネ市のダンジョンは、この国最古で今から1500年前には既にあったらしく。
あまりに古いダンジョンですから、誰が最初に踏破したのか判っていないそうです。
伝説では、その昔この辺りに1匹のドラゴンが住んでいて、周りの村々を荒らし回っていたそうです。
見かねた王様が勇者を遠い国から招き、竜退治を依頼したそうなんです。
(来たぁ~勇者召喚! by妹)
ま、その勇者がドラゴンを退治したら、ドラゴンの塒がダンジョンになったと言われているそうです。
ダンジョンのラスボスがドラゴンゾンビで、出る魔石が5級なのは事実だそうですから、意外と伝説も正しい部分があるのかもしれません。
ただダンジョンの踏破は極めて難しいそうで、50人ほどの一流の武人と半年の時間を掛けなければ最下層へもたどり着けないそうです。
最も最近の踏破は300年前だそうで、1,2級の傭兵30人を先頭にして、サポート部隊に50人程の魔術師や傭兵を用意して1年がかりで走破したそうです。
最後のラスボスへは何回かの挑戦があったそうですが最後の挑戦では、1級傭兵のクラン6隊40人以上でドラゴンゾンビを打ち取ったそうです。
その後傭兵ギルドが管理するようになったのは、傭兵のクランが主となって走破したからなのでしょうね。
近年は魔法袋が比較的安価になって、魔法袋を持つ傭兵もいるので、サポート部隊は無くても最下層までは行けるそうです。
でも、ラスボスのドラゴンゾンビが厄介すぎて挑戦者が居ないそうです。
ダンジョンについて考えているうちに、昼8時(午後1時)近くになったようです。しきりに笛の音が鳴っています。船上へ行ってみましょう。
船上へ出ると既に荷の積み込み作業は終わっていて、離岸に向けて作業をしているようです。
笛の音は作業の指示を掛け声と笛で行っている様で、船員が笛が吹かれるたびにキビキビ動いて作業を進めていきます。
やがて船尾のとも綱がとかれ、錨を巻き上げるキャプスタンの音が仕出して、ゆっくりと船が岸壁を離れていきます。
右舷の岸壁から30キュピテ(10m)程離れると錨が川床に寝てる状態からロープに引かれてゆっくりと立ち上がったようで、空間把握で見ているとよくわかります。
マストに帆を張って、風と舵を利用して岸壁からさらに離れ、船はゆっくりと川下へ向かって進んでいく。
両岸は見えるけど数キロは離れているでしょう。
川を上り下りする船が数隻浮かんでいます。
下りは流れに任せ、風を補助に使ってるぐらいでゆったりと下っている。
上りは少し事情が違う様で、船尾に何人かの魔術師が居て風を帆に向けて出しているようです。
日の傾いていく様を見ながら、船上からは広い平野の中の大河が感じられてこの世界が如何に広いか感じるものがあります。
船室への通路で魔石灯の明りを点検していく10歳前後の見習い船員を追い越し、船室に戻る前に船の厨房へ寄ります。
この船は貨客船で、船客は食事を船の専用食堂で食べますが、食堂が小さいため船室への食事の持ち込みが許されています。
勿論船ですから火気厳禁です。
明後日の昼前にセルボネ市へ着くそうなので、食事は5回ほどになります。
私は船室で食べることにして、厨房の料理人に先に5回分のパンやハムにチーズを貰えるように交渉しようと思います。
「ええよ、お嬢ちゃん。おいお前パン篭から5つパンを出して、お嬢ちゃんの持ってきた袋に入れてあげな!。ハムの塊1つと後チーズ1/4も一緒にな。」簡単でした。私みたいな客は多いのでしょうか?
「1等船客はそんなもんだぜ、自前の食料があるから船の食事はいらんちゅう奴らばっかしよ。」
「お嬢ちゃんは、パンとハムとチーズを食べてくれるだけましだね。」
「酒は飲まんだろうし、パンもハムもチーズも船ん中で作っとらんがね。ワッハッハー。」
と言う事でした。
スリはセルボネ市ではどうなんでしょうね。




