第13話 傭兵ギルド(1)
ダンジョンへ入るための前準備です。
この町はスリが多いです。他の町も多いのかも。
今朝の野営地からアラクラの町までは、直線距離で20ワーク(30キロ)、整備された街道だと3刻(6時間)ほどで着く。馬車隊も昼7時(午後0時)にはアクアラの町についていることでしょう。
再度南門からアクアラの町に入る。
さっき買い物をした市場の北側に、幅広の2階建ての建物があって。
その近くで傭兵ギルドを探してウロウロしていたら。
私ぐらいの年の子供が私の右側からそっと近寄ってきた。
空間把握で逐一動作を見張っていると、右手にナイフを持ち左手でベルトのポーチを狙って手を伸ばしてきた。
右足を少し後ろへ引いて、左足を斜め前に踏み出す。
スリの子の左手を軽く払うと同時に私の左手で相手のナイフを持った右手を上から掴む。
その右手を内側から右肩へさらに外へとひねる。
すると握ったナイフを落しながらあっけなく自分から倒れるスリの子。
仰向きに倒れたスリの子の手を放さずに、もとに戻すように回しながら逆にひねる。
そのまま今度はスリの子の背側に持っていく。
するとまたもやスリの子は自分から俯せになる。
俯せに倒れるスリの子の左耳側に移動している私はスリの子の掴んでいる右手を右足の膝で押さえつける。
「ねえ、傭兵ギルドを知らない?」と聞いて見ると。
「痛え!、くそ!、そこが傭兵ギルドの建物だよ!」と2階建ての建物を顎で示して言う。
「ありがと、これお礼ね」と飴を子供の左手に握らせてあげる。
スリの子を押さえていた膝を離して、落ちているナイフを遠くへ蹴とばす。
解放されたスリの子はナイフを拾いに行くと、アッと言う間に逃げて行って見えなくなった。
飴は持って行ったようで、ちゃっかりしているわね、逃げ足も速かったし。
空間把握で回りを調べると、私を狙っているスリはまだいる様で安心できない。
ここは早めに教えてもらった傭兵ギルドへ入るべきでしょうね。
市場を一周する歩道に面した階段を上って入り口を入る。
石造りのどっしりとした正面玄関で結構威圧感があり入るのに勇気がいるわ。
入ってすぐ左手に、案内の看板が上に取り付けてあるカウンター台が単独である。
マスクとフードを取り、カウンターに居る男性に軽くお辞儀をして話しかける。
「こんにちは、私は魔術師のカスミと言います」
「ダンジョンについてお聞きしたいのですがよろしくお願い申します」
するとカウンターの男性が
「ようこそ傭兵ギルドへ、ウエストと申します。」
「ダンジョンですか?カスミ殿はダンジョンへ入りたいのですか?、それともダンジョン産の素材に興味がありますか?。」
と聞いてきた。
「はい、ダンジョンへ入りたいのですが、傭兵ギルドで詳しく教えてくれると聞きました」と私。
ウエストさんが受付の並んだ方を見て
「あのギルド入会受付と書かれた1番受付へ行って下さい。そこで詳しく説明します。」
入り口を入った所は、右側にガラスを井桁の枠で囲ったはめ殺しの窓が続く大きな通路になっています。
通路に沿った左側がカウンターの続く受付が複数並んでいて椅子も窓側にあるので、銀行や市役所などと似た雰囲気です。
人も多いのでガヤガヤと音がしています。
そして、左側は案内の看板のあるカウンターの向こう側に続く通路があり、ガラスの嵌った窓が続く大きな通路とドアのある部屋が続いています。
左側の通路の突き当りは、階段になっていて2階へ行けるようです。
私は1番の番号が書かれた受付へやってくると。
「初めまして、私は魔術師のカスミと申します」と声を掛けた。
「ここはギルド入会の受付だよ、私はアイレーカ、カスミちゃんギルドへ入るのかい?成人してないとはいれないよ?」
どうやら見かけで判断したようで、小さい子に言い聞かすように言ってきます。
私は神聖ロマナム帝国の身分証をベルトポーチから出してアイレーカさんへ見せる。
「この身分証にも書いてあるように、ちゃんと成人しています。」
身分証を手に取り、身分証と私を見比べながら。
「ありゃ、お貴族さまだったのかい。こりゃ失礼しました。で、カスミ様はギルドへ入会でよろしいですか?」と急に丁寧になって、聞いてきた。
「私はこの国の貴族ではありませんので、普段通りの対応をしてもらえませんか?」
と対応を普段通りでお願いする。
「わかったよ。こっちもその方がやりやすいってもんだ」と快く対応してくれたアイレーカさん。
次に、案内のウエストさんに聞いて、ここに来たことを伝える。
「えっと、ダンジョンへ入りたいのです、案内でここに行くように言われてきました」
続けて「ダンジョンについて教えてください」と聞いて見る。
「おやそうかい、ウエストのやつこっちに全部説明をさせるつもりだね」
チラリと案内の方を睨んだ後、こちらを向いて。
「わかった、まずね、ダンジョンだけど、このアクアラの町のダンジョンは1つだけだよ」
「階層は10でみんなから初心者ダンジョンって呼ばれているのさ」
「町からダンジョンの管理を任されてるのが、傭兵ギルドさ」
「だから傭兵になれば、だれでもダンジョンに入れるけどね、ただし冒険者は別だよ冒険者ギルドと傭兵ギルドはダンジョンでの管理で対立しているからね」
「まあこの辺に冒険者ギルドは無いから関係ないけどね、それに経験もない奴がダンジョンに行けば直ぐ死んじまうのはどこの誰でも同じだから、ダンジョンってそんなとこだよ」
「それでも、ギルドへ入るかい?」
アイレーカさんはこっちの目を見て脅すように尋ねた。
「はい、ダンジョンに入るのが目的の一つですので、お願いします」
「自分の命だ、他人が今更言う事でもないか」
「それじゃぁ、この書類に名前と歳に職業か持ってるスキルでもいいから何か1つ以上書きな」
と紙に傭兵ギルド入会申請書と書かれた書類を出してきた。
「名前と日付それに歳を忘れずに書いておけよ」
「忘れたら今日の受付は無効になって、入会金銀貨3枚が損になるよ」
「後、こっちの身分証写させてもらうよ」
アイレーカさんが身分証を写している間に、私も申請書に記入する。
「すいません。今日の日付を教えていただけますか?」
記入で最後に残った日付の欄に書き込む日付をアイレーカさんに尋ねる。
「帝国歴1024年4月5日だよ」
「ありがとうございます。・・・では、これをお願いします」
と書き込んだギルド入会申請書をアイレーカさんにポーチから出した銀貨3枚と一緒に渡す。
申請書には、職業かスキルを書くようになっていたので、魔術師と職業の方を書いた。
アイレーカさんは、身分証の発行年月日と出した部署にサインしている人の肩書と名前を書き込んだ紙と一緒に申請書とお金を持って奥の机に座っている人へ持っていく。
しばらく時間が掛かりそうなので、身分証をポーチへ直したり、フードを被り直したりして過ごす。
しばらくして、話し込んだ後何か作業をしていた人から、札の様な物を貰ってアイレーカさんが帰ってきた。
「はい、これが傭兵会員の木片だよ」
「なくすんじゃないよ」
「特にこの傭兵ギルドの木札に焼き入れした番号は、これからずっとあんたの番号になるんだからどっかに控えとくんだね」
「番号無くして再発行は木片の内は銀貨3枚掛かるし、再度申請書から書き直しだからね」
と木片に名前と登録日を焼き入れした物を渡してきた。
「はい、ありがとうございます」
「それで、ダンジョンについて知りたいのですが?」と聞けば。
「右の奥から2階へ行けるから、そこから上がんな」
「2階が資料室になってるからそこで調べられるよ」
「あと、分かんなければ資料室に居る司書に聞くんだね」
とアイレーカさんが右手で通路の方を指し示しながら言った。
お礼を言って、私は2階への階段がある入ったときに見えた左手の通路へと向かった。
途中、ウエストさんに一礼して2階へ上がった。
スリの件は後の騒動の先駆けになります。




