転生エルフが交差点でうろうろしています
「君との婚約はなかったことにさせてもらう。」
ホテルのレストランのテーブル、目の前にはスリムなスーツを着こなした端正な男が座っている。彼は静かにしかしはっきりと言った。
その眼にははっきりと私への嫌悪が見て取れる。
予想もしていなかった事態に、とっさに言葉がでない。
「え。なにを言って…」
やっと絞り出した言葉は彼には届かない。
「君がこんな女だとは思わなかった」
そう言うと彼は立ち上がり歩き去っていく。
私は彼を追うために椅子から立ち上がったが目の前が暗くなる。
真っ暗な中金髪長髪の男のが目の前に現れ私に言う。
「あなたとの婚約はなかったことにしてもらおう。」
そして数歩歩いた後、私を振り返り
「あなたがこんな女だとは思わなかった。
エルフの姫ともあろうものがこのような愚かな女とは」
歩き去っていくその後ろ姿、金髪からは尖った耳が覗いて…
目の前が明るくなるとテーブルの足が見えます。
倒れたわたくしに駆け寄ってきた給仕の青年へと適当な受け答えをし、わたくしはレストランを出て住居への帰路につきます。
「そうでしたわ!!」
住居の玄関を入ったわたくしは叫びます。
「あの日、忌々しいあの女の奸計でエルフの王族の姫であるわたくしが恥辱を受けたあの日!わたくしは婚約破棄の恥辱に耐えられず、里の聖樹から身を投げ……。」
記憶を探ってみるとわたくしの記憶と私の記憶があるのがわかります。
わたくしは記憶の中にあったこの世界の者が不慮の死の後、別世界へ転生し別の人生を送る物語を思い出しました。
部屋にある姿見に写る自分の姿に気づき黒い髪に隠れた耳を出してみます。
「ヒトですわね。これは転生というものなのでしょうか?」
わたくしは部屋の中を見回します。
「狭い場所ですわ。従者の一人もおりませんし。
エルフの王族であるわたくしがこんなところで過ごすのはおかしいでしょう。
それにわたくしがいなくなってしまっては悲しんでいる者も多いでしょう。どうにかして戻らなければなりませんわ。」
私の記憶ではこの世界から転生する者は往来での不慮の死によって転生するようです。
「この世界の者が別の世界へ転生ができるなら、わたくしは元の世界にもどれるのではなくて?」
それから毎日わたくしは交差点に向かっています。
「あの車は品がありませんわね。わたくしには合いませんわ。」
しばらく横断歩道を行き来した後、交差点を見つめます。
「明日もまたここに来る必要がありますわね。」