二章 終わりの果て(1)
ダンジョン。それは地下に永遠と言っていいほどに続く迷宮。トウマは地下一階にいる。何千人もの冒険者を収容できる階層だ。
この下に行くと、モンスターの巣があることを感じさせない風景は、安心感が溢れ出ている。周囲の石には冒険者の名前が複数刻まれている。このダンジョンで名誉ある功績を残せた者が対象者だ。
(......あれ?)
ここでトウマの意識が回復する。
(なんでここにいるんだ......?)
こうなった経緯を全く思い出せていない。
ドン!
突如トウマの背後にある、巨大ドアが物凄い勢いで閉まった。
「えっ」
トウマは嫌な予感しかしなかった。
その予感は見事的中している。ダンジョンの入口ドアが閉まったら、最終階層まで到達しないと、出ることは不可能。ほぼ確実に死である。今までで最終階層の百階層に到達した人物は存在しない。最高到達階層で七十二層だ。
トウマはドアの方に行き、何度も開けるのを試みるが無駄であった。ビクとも動かない。
ようやく自分が置かれた状況下に理解した。
「ここは迷宮なのか......」
だが、このダンジョンを攻略しなければならないは分かっていない。そのためか、トウマは迷わず矢印通りの通路を通って行った。
少し進むと、ゴブリンやコウモリが出現した。それは難なりと倒せた。
「はっ?」
ドスン! と急降下してきた野猿らしきモンスターが立ち塞がり、トウマの顔は青ざめた。
「ガァアアアアアアッ!」
突如そのモンスターは強烈な雄叫びを上げる。
「シルバーバック!?」
長く伸びている銀の頭髪が印象的なモンスターだ。全身が筋肉で躍動されていて、ゴリラらしさが感じさせられる立ち姿だ。
トウマは勝てる気がしなく、取り敢えずその場から駆け出した。だが、シルバーバックは当然足は早く、一分もしないで追いつかれてしまった。
(とにかく今は逃げよう! ......俺とレベルが違いすぎる!)
シルバーバックはトウマに向かって突進してきたが、股をくぐり抜けて逆方向に逃げた。
トウマは迷路みたいになっているダンジョンを駆け巡り、徐々にシルバーバックを引き離していった。
しかし、この先は行き止まりだった。岐路までの距離はかなりあるため、向かうと見つかる可能性が高くなる。
(運に頼ることしかできないか......)
シルバーバックの雄叫びが遠くからでも聞こえてきた。
(何か秘策でもあればいいが......あっ)
トウマは何かを見つけた。
それは緑色に輝いている魔石だった。トウマは手に取ってみた。
(これを拳銃に入れてみたら、無限に魔力の塊が撃てるかもしれない)
魔石というのは魔力が詰まった石であり、本来の使い方は武器を作るときに入れるものだ。それを銃弾として使えば威力は壮絶だろう。
(ダメージをこれで与えられる可能性が出てきた)
シルバーバックは十三層で出現するモンスターだが、何故か一階層で出現している。そんなモンスターをレベル2のトウマが倒せるわけがなかったが、スキル<無限造形砲弾をうまく使い、魔石も対応できるのであれば、勝利の兆しが見えてくる。
(来たな。戦うしかないか)
行き止まりの方へと、シルバーバックは進んできた。
トウマはぐっと足に力を込め、クラウチングスタートの足の位置だ。そして、右膝を上げる。
「ガァアアアアアアアアアアアアッ!」
トウマの真正面にいるシルバーバックが猛々しく吠えた。まともに戦ったら、負けるのは確定だろう。
だが、勝機がないわけではない。うまく立ち回れば、相手の動きが鈍らさせたりできる。
「さあ、勝負開始だ!」
トウマはスタートを思いっきり切った。
「_____」
シルバーバックは今までの雄叫びをしなくなった。
トウマは最大限の加速をした。俊敏が618もあるから、相手の一回目の攻撃を難なく回避してみせた。
トウマは考えた。
どんなに強いモンスターでも必ず弱点が存在するということを。もし、なかったら只のクソゲーに過ぎない。
トウマの考え方は合っている。モンスターには必ず核というものがある。それを壊せば、モンスターは死ぬ。
「胸部を狙えばいいのか!?」
シルバーバックの胸部の中には、一瞬光り輝いた”核”があった。それをトウマは逃さなかった。
バンッ! バンッ! バンッ!
「よしっ! 魔石でも撃つことができる!」
そこに向かって連射をした。
緑色に輝く魔石がシルバーバックの胸部に一直線に貫く。
「ウアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
バリンッと、何かが砕けた音が鳴った。
シルバーバックは両眼を閉じて、背中から地面に倒れ込んだ。
”核”を壊されたモンスターは肉体が灰となり、この世から消えていく。
「勝った......」
トウマは膝から倒れ込んだ。
刹那の攻防だったが、そこに詰まったいた時間は、間違いなくトウマを成長させた。
この勢いでトウマは一階層を抜けた。
その後、十五層まで難なく到達できた。三時間程度モンスターを狩りっぱなしだったため、全身に疲労が溜まってきた。
「このさきにある安全エリアで寝るか」
トウマが言う安全エリアというのは、ダンジョンの中にあるモンスターが出現しない”広間”。
そこに向かってみると、遠くからでも分かる人影が見えた。
トウマはダンジョンで冒険者と遭遇したのは初めてだ。
「ねえ、ピータ! 冒険者クンが来たよ!!」
先に向こう側の冒険者がトウマの存在に気がついた。
「シル、あまり迷惑をかけるんじゃない」
「えー、だって、この冒険者クン困ってそうだよ!」
「シルにもそう見えるか。奇遇だな俺もそう感じる」
どうやら、トウマは他の人から見ると、不安そうにしているらしい。
シルという女性がトウマに話しかけようとした。
「ねえ、キミ! 何で一人でダンジョンなんかにいるの?」
この質問にはトウマは困惑の表情を浮かべる。
「......それは自分でも分からないのです」
トウマはゴブリン討伐のクエストが終わった辺りで、記憶が途切れている。
「ふーん、もし良かったらボク達のパーティに入らない?」
「と、言っても、俺とお前しかいないけどな」
トウマはダンジョンをずっと一人で駆け巡るのは酷だと思っている。こうやって、仲間という存在は彼を強くさせるだろう。
「こちらこそよろしくお願いします!」
と、トウマは頭を下げながら言った。
「ヤッター! 実はボク達二人で不安だったんだよねー。でも三人いれば無敵の三銃士だね!」
「銃士要素見たところ、一人しかいないけどな」
銃士の一人はきっとトウマのことを言っているのだろう。
「じゃあ、改めまして、ボクはシル。で、このゴツイ男がピータ。こう見えてボク達結構強いんだよ」
「よろしくお願いします。私はトウマという者です」
「うん、トウマ! よろしくね! それと、ボク達パーティになったんだから、敬語使うのやめてね」
「....ああ、分かったシル」
「ごめんなトウマ。シルがうるさくて」
「いえ、シルが明るくて元気になりました」
この二人が仲間になってくれておかけげで、トウマの気持ちはぐっと楽になった。
「で、何でシルとピータもダンジョンにいるんだ?」
「それはね、国王に嫌われたからだよ!」
「......はあ?」
シルの言葉だけでは理解ができない。