一章 始まりの冒険(3)
「何故だ? もう弾は切れた筈なのに」
トウマ一人が最前線でまだ戦っていた。
「トウマ君! これ以上は危ないよ!」
トウマは後ろにいるチトセの声が聞こえたが、チャンスだと思い、弾切れの筈なのに拳銃で発泡している。
(これはスキルなのか?)
もし、スキルだとしたら、初期からあるものではなく、今獲得したスキルということになる。
トウマはマシンガンのように弾を放っている。
撤退していたサイトウとチトセは何が起こっているか分からなかった。本来なら50発しかない弾のだというのに、目にしたのはトウマが拳銃を握りしめ奮闘している姿だった。
「先生、トウマ君弾を連射していません?」
「そうだな。可笑しいよな」
サイトウは目の前の光景に思わず笑みを零す。トウマはゴブリンを相手に無双しているのだった。
「もう、私たち必要なさそうですね」
「俺たちは何のために来たって感じだな」
この二人はトウマに圧倒的実力差を思い知らされた。
既にゴブリンの残りの数が40匹を切った。
「よし、ボスみたいのが見えてきた」
奥の方から姿を表したのは、巨大な図体をしているゴブリンだった。他のゴブリンと比べ、5倍位大きい。そんなゴブリンが持っている武器は木の棒に棘が刺さっているものだった。まともに食らったら、致命傷を追うのは間違いなしだろう。
「掛かってこい!」
「ウオオオオオッ!」
雄叫びを上げ、ドシドシとトウマに向かって踏み込んできた。
巨大ゴブリンは棒を振り回したが、トウマは軽く飛んで交わす。その直後に数発の弾丸を身体中に放った。
血は大量に出ているが、痛点がないのか痛がりもせず、再び突進してきた。
「<雷撃>!」
足元に撃ち巨大ゴブリンは走れなくなった。
トウマは魔力が枯渇したと感じて、速攻魔法を撃つのをやめることにして、代わりに使う武器を相手に向けて、
バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!
と、撃ち込む。
弾が何故なくならない理由は、トウマが思っていた通りスキルなのだ。
名は......、
「<無限造形発泡>」
そう名付けた。あくまでも感覚的に決めた。
このスキルはトウマが発見したのだ。だが、元々この世界にあるスキルだと思っている。
残念ながら発動条件とかは、自分で試行錯誤しなければ分からない。
「......倒したのか?」
煙が消えて、視野が広くなって巨大ゴブリンが倒れていることが確認できた。
トウマは近づいてみると、確かに死んでいると感じた。口は開いていて、目は完全に逝っている様子だ。
「よっし」
小さく拳を握った。
他のゴブリンたちは、巨大ゴブリンが死んでしまい、トウマのことを倒せるわけがないと思い、猛ダッシュで撤退していった。
トウマはみんながいるところに歩いて行った。
「これでクエストクリアですね」
サイトウにそう言った。対して、サイトウは困惑の表情を浮かべながらこう返す。
「いくらなんでも強すぎだぞ」
「うん、そうですね」
チトセもそう感じる。
「いやー、偶々スキルみたいのが発動してしまっただけだと思いますけどね」
今後発動理由や、スキルの内容を詳しく知らなくてはいけないと、トウマは思った。今回の戦いでもし、スキル<無限造形発泡>が発動できていなかった場合、トウマが命を落としていたのは確実だろう。それに加えて、サイトウ一行もどうなっていたか分からない。正にこのクエストの手柄はトウマであることは満場一致だ。
「早く報酬を貰いに行きましょうよ」
トウマはあまり顔に出るタイプではないが、流石に嬉しそうな顔をしていた。
「待って下さい。何かお礼でもさせて下さい」
いつの間にか村長は姿を表していた。
「村長さん大丈夫です。これはクエストなので、ギルドから報酬はたくさん貰えます」
「そうか、俺等が依頼したクエストですからな」
依頼料が出て、そのうちの8割程が冒険者に渡されるため、報酬はここの村長から貰うという仕組みになっている。
「では、私たちはリロンデ街に帰ります。気をつけて過ごしてくださいね」
「ええ、はい。そちらこそ魔物討伐などで大切な命を亡くさないでください。本当に今日はありがとうございました!」
割と若い村長はサイトウ一向に深々と頭を下げた。
「あれ、僕って何しに来たのだっけ?」
「何か意識が途中で......」
エンドウとミツモトは何のために、何をしに来たのかを完全に忘れている。
「もうっ! 二人共弓矢に突き刺さりそうだったんだからね」
チトセは辛口目でそう言った。
「「弓矢に?」」
「はあ、その時、トウマ君の魔法で防いでくれたんだよ」
エンドウとミツモトは顔を見合わせるが、全く検討がついていない様子だ。
こうして、冒険者になってから初めてのクエストをクリアすることに成功した。
1
ギルドで報酬を貰った後、他のクラスメイトたちと合流した。
「野宿できる場所見つかったか?」
と、サイトウ。
「はい、見つかりました。ここから左に進むと大きな野原がありました」
野球部のアカザキが答えた。
「ありがとうな。はじめに食料の買い出しに行くから、先にアカザキ君が言っていた野原の方に向かっておいてくれ」
この場にいる者は、今晩寝る場所があってホッとした。だが、布団などはなく、完全に芝の上で寝ることになる。男子なら良いとしても、女子は抵抗があるだろう。
2
食料の買い出しはゴブリン討伐メンバーで行った。
クラスメイトの必要分の水と、パンを一人一個分を購入したでけで、報酬分の金貨は尽きてしまった。
クラスメイトたちはそのことを聞いて、残念な顔はしていなく、感謝の気持を込めて頂いていた。
夕方になる頃、トウマは既に水とパンを流し込んで暇していた時。
「クキ君ちょっと来てくれない?」
トウマの前に立っていたのは、エンドウとミツモトだった。
「ん? 何か用でもあるの?」
「実はクキ君に話したいことがあって」
ここまででトウマは、相手が何をしたいのかがよく分からなかった。
「ああ、いいよ」
トウマは軽く承諾した。
エンドウが「付いてきて」と言い、素直に付いて行ったら、人気がない森林に着いた。
「はっ!」
「うっ!」
エンドウはトウマの腹に拳を入れた。トウマは膝から崩れていき、うつ伏せで倒れた。そして急激に眠気が襲ってきた。
「......くそ....何故だっ......」
こうしてトウマは、エンドウの力により眠らされた。
次回、二章 終わりの果て(1)は2021年4月3日(日)に投稿予定です。