③
のろのろになりそうです~。
「猫を被ると言うよりは、背中に100匹くらいのってるんじゃない?いつも思うけど、詐欺だよ、詐欺。」
生ビール到着を待つように、通路に視線を向けながら咲子が茶化してくる。
「なーにが詐欺よ。私には変わりないんだから、問題なし!それにこのご時世、ブサイクは愛嬌良くなくちゃ生きていけないんだよ〜」
実際、世の中はハーフブームなのか、と言いたくなるほど雑誌もテレビもハーフ女子ばかりじゃないか。まずはモデルでデビューして、徐々にバラエティからのドラマ脇役、最終的には主演ドラマして、完全に肩書きが女優になる。
就職に関しても、同じだ。可愛い子は学力が足りなくても某ホテルの受付嬢になれ、某ディーラーの受付嬢になれ、結局顔なのだ。
「まーた始まった。優子の被害妄想と、ネガティブ思考。あ、きたきた!」
「お待たせ致しました。生ビールがおふたつと、枝豆、たこわさび、白子ポン酢になります、、、と、榊原先輩?」
しゅわしゅわの私のエナジードリンクが来た〜!と、気分が上がってるところで名前を呼ばれて、店員へと視線を上げる。淡い色した柔らかそうな髪の 色白イケメン。少しタレ目気味な目元と血色の良い唇が印象的な カワイイ系男子だ。しかし、見覚えがない。
「申し訳ございませんが、どちら様でしょうか?」
私の反応に慌てたように、カワイイ系イケメンが名乗る。
「あ、久しぶりですもんね!いきなりすいせん。僕 榊原先輩と同じクラスだった山田翔平の弟の 和樹です。」
小中と腐れ縁のように一緒だった山田君の弟か!そういえば、山田君の後を着いてくるような小さくて可愛い弟君いたな!
「山田君の弟君だったんだ!久しぶりだねぇ。最後にあったのは 和樹くんが小学生だったかな?可愛い雰囲気はそのままだけど、凄く背が伸びたね!一緒に居るのは咲子だよ〜、覚えてるかな?」
大和くんが ビールやツマミをテーブルに置くやいなや、そそくさと枝豆を食べ始めている 咲子を指さす。咲子に視線を向けた和樹くんは かなり大きな反応を見せた。
「え!田中咲子さんですか?」
咲子はこっちにフルなよ、と言わんばかりの視線を私に向けた後、和樹くんを見る。
「そうだよ。よく優子と一緒にいた田中です。でもなんで 優子は先輩で私は さん付けなのかな?」
「まぁまぁ。ところで、和樹くんここでバイトしてるの?今は大学生かな?」
「はい。先月から始めたんです。22歳にもなって恥ずかしいんですが、今日は様子見にって、兄さんも会社の人と来てくれてて。榊原先輩達が来てるって知ったらきっと喜びます!」
「相変わらず 兄弟仲良いよね。そっか、山田君達も来てるんだ。じゃぁ見かけたら挨拶しとこうかな。和樹くん、話しかけてくれて ありがとう。」
「いえ、こちらこそ 急に声をかけてしまってすいませんでした。また、ご注文ありましたらどうぞお呼びください。失礼します。」
和樹くんがテーブルから離れたところで、テーブルに突っ伏す。目の前のビールを飲む気がだんだんと失せてくる。
「咲子!山田君来てるって!どうする?帰る?」
「ん?まぁ、放置でいいんじゃない?一緒に飲むわけじゃないし、向こうも会社の人間といるなら、来ないでしょ。それより、28歳の優子にかんぱーい。」
テーブルに置いたままの グラスに咲子が軽くグラスをあてる。チンっと言う軽い音の後、咲子は見てる方が気持ちよくなるくらい ビールを喉に流し込んだ。
「早く飲まないと ぬるくなるよ。そんなに山田が気になるわけ?」
串盛りを食べながら咲子が視線を向ける。
私は、小学生からずっとクラスの離れた事のない山田君を思い出しながら呟く。
「だって、山田君ずっと苦手だし。」






