1話 パーティー追放
王都・エルジオラ―――
海に面した都で料理が美味しく、魔王が住んでいるといわれている城から最も近い王国の一つだ
そんな俺は今このエルジオラの古びた店でエンチャント屋をやっている。
俺の名前はアルス。勇者たちのパーティーを追い出された落ちこぼれだ
あの日、たまたま知り合ったお爺さんが破格の家賃でこの店を貸してくれた。もう引退した身だからよかったらうちの店を使わないか、と
(お爺さんも昔はエンチャントをしてたのか道具が残ってるからそのまま使わせてもらっている)
だがしかし、客がこない。暇で暇で仕方ない。
だから何故、俺が勇者パーティーを追い出されることになったのか話そうと思う
あれは3日前のことだった。
◇
その日は俺がちょっとヘマをしてしまって宿で反省会というなの話し合いが行われた
「アルス。お前にはこのパーティーを抜けてもらう」
それは突然の宣告だった
「な、なんで?!たしかに今日はちょっとやらかしちゃったけど…あれくらい一人で対処できた!」
「ダメよ。これは勇者の決定事項よ」
「横暴だ!!それに俺のエンチャントは必要だろ!?」
「アルス……あなたが一番わかってるはずよ。私たちに貴方のエンチャントは必要ないってこと」
「それに実力不足は自分が一番わかっているであろう?これから先、戦いが厳しくなっていくのは目に見えている。我らがアルスのことを守っていくのも限界がある」
「そ、そうだけど……」
そう口をそろえて言うのは仲間のガイウス、ゼーナ、シュウスイだ。
ガイウスは剣技と魔道を合わせた魔道剣士といわれる上級ジョブで実力は折り紙付きだ
ガッシリとした体格で精悍な顔つき、本人曰くチャームポイントの髭に、短く整えられた髪はまさに剣士という職にはピッタリだ。前線で戦うことが多い彼は、体の至る所に傷跡がありそれがまたカッコよさを醸し出している。
ゼーナは聖なる力で味方を癒す力を持ち、さらに魔物を払う力にも長けている
腰まで長い自慢の白銀の髪、スラっとしたスタイルに透き通るような肌、目元の黒子は彼女の彫刻のような美貌にはとてもよく似合っている。噂では彼女を女神と称える宗教があったらしい
シュウスイははるか東の和の国から武者修行に来たらしく、いつも持ち歩いているカタナ?という武器に切れぬものはないらしい(実際、シュウスイが切れなかったものをみたことがない)
この中では一番歳を取ってるが、それを感じさせない機敏な動き、細身ながらもその肉体は衰えを知らず時々ガイウスと手合わせしてるけどいつも決着がつかないでいる
この3人なら俺のエンチャントは必要ないかもしれない…
「でも、だからって…」
「見苦しい。男なら受け入れろ」
そういって今まで口を閉ざしていた勇者が声をあげる
紅い髪に深紅の瞳。まるで炎をその身に宿しているような彼女は、実際精霊王の一人イフリートと契約を交わしている。契約するにはその実力を精霊王に認めさせる必要があり、契約を交わせた彼女の実力は勇者といわれるには申し分ないほどだった
「こんなの納得できない!!」
「納得して」
「嫌だ!」
「駄々捏ねないで」
「実力不足だって言うならこれからつけていく!この先の戦いで実力を「いい加減にしろ!!!」
バンッと机を叩きながら椅子から立ち上がり声を荒げる勇者に俺の体はビクッを震える
表に感情を表すことが少ない勇者がここまで声を荒げるのは珍しく、周りのみんなも少し驚いているのが見てとれた
「いい?ハッキリ言うけど……
お姉ちゃんはね!?心配なの!!!!!!!!!!アルスが!!!!!!!
今日のアルスに起こったことを振り返えろうか?!?!?!
みんなで仲良く買い物してたらいつの間にかアルスがいなくなってて、急いで探したらアルスどうなってた?!?!
薄暗い裏道で、如何にも俺ら盗賊ですって男たちに襲われかけてたでしょ!!!!!!」
「うっ……で、でも暴漢程度なら三人くらい…」
「暴漢なら、でしょ???!!!!これがもし魔物だったらどうするの!!!!!アルスに何ができる?!!!!!
ひょいっと食べられて噛み砕かれて消化されて終わりだぞ!!!!!!」
「うっ……」
「アルスにもしものことがあったらと思うと私は…私は…不安で夜も眠れなくなる……
父さんや母さんにだって顔向けできない。アルスのことは何があっても守るって決めたの。アルスを置いていくのはもう決めたことよ。アルスを守る実力がない私を恨んで。実力がない自分を恨んで。
それに、最初にタナト村を出たとき私との約束忘れた?これから先、私がアルスを足手まといと判断したらその場でアルスの旅は終わりだって約束したよね」
「わ、わかってるよ!!」
「ならここでアルスの旅は終わり。荷物を纏めて。タナト村までの帰りは手配するから」
姉の言葉が心にグサグサと刺さる。わかってる。
姉は俺を心配してるんだと、わかってる。
自分の実力が足りてないことも。
それでも納得できなかった。みんなに追い付くために努力はしてきた。でも、俺が一歩進む度にみんなは二歩三歩進んで一向に差は埋まらなかったけど、それでも頑張ってきた
なんだかそんな自分が全部否定されたようで悲しくて、弱い自分が悔しくて、よくわからない感情が渦巻いていつの間にか俺の頬には涙が伝っていた
「なっ…泣いても私の考えは」
「五月蠅い!馬鹿!姉貴なんてもう知らない!大っ嫌いだ!!」
感情の整理が追いつかなくて大声を上げ俺はバンッと扉を開け部屋から出ていく
後ろからゼーナの待って!という声が聞こえたけどそんな言葉を無視して俺は宿から飛び出していった