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えっ異世界に来ちゃったの?

「了承したじゃねーだろおおおおおおおおお!!!!!!」


 俺は勢いよく飛び跳ねるようにして叫んだ。寝汗で全身がべっしょりで大変気持ちが悪い。まああんな悪夢を見たらこんなに冷や汗かくのも仕方ないというものだが……。


「随分うるさい起床だな。邪教の儀式か何かか?」

「どういう目的の儀式だよ……」


 いつもの悪夢だよ悪夢、と傍らに座って剣を磨いていた女騎士のアレスに言い返すと俺は立ち上がって大きく伸びをした。もう傷は残っていない筈だが体のあちこちが痛い。多分精神的な奴である。虎と馬が俺の心の中でフォークダンスをしているのだ。ズキズキと痛むのでもしかしたらタップダンスかもしれない。


「私としてはその夢の最後に出てくる声の主が気になる。とても気になる。……ソウスケの頭を切り開いたら出てきたりしない?」

「出てくるわけねえだろ……っていうかお前は前もそう言って俺の寝こみ襲って俺の頭をほじくり返してただろうが。一回やって出てこなかったんだから諦めろよマジで……」


 研究熱心と書いてサイコパスと読む魔女のレイシアに冷たい目を向けるが、彼女はその豊満な胸を両手でグッと持ち上げて言った。


「もう一回頭を開かせてくれたらお礼に私の胸を好きなだけもんでいい」

「髪は剃っといたほうがいいか?」

「乳揉むのと頭を開かれるのとで交換条件成立すんのは人としてどうなんだお前」


 なにやらアレスが冷たい目でこちらを見てきている気がするが知ったことではない。例え一度死んで異世界に転生してしまったとしても、積み重ねたDOU-TEIの熱いパッションはいつだって俺の心を少年の日のように強く突き動かすのである。



 ……そう、少し説明が遅くなってしまったが、不肖この俺事富士美壮輔は自身によって起きたビルの倒壊により死んだ……筈だった。

 俺が目を覚ますとそこは見知らぬ森の中で転がっていたのである。しかし何も分からないとはいえいつまでもころがっているのもどうかと思った俺は当てもなく森の中をうろついていたのだが、よく分からない謎のバケモノに襲われているこの二人に出くわし、颯爽と助けに入りそして……


「一撃で頭かち割られて死んだんだよな」

「あのね人のモノローグに介入してくるのやめてもらっていいですかねアレスさんよ」

「だってほんとに何の役にも立たずにいきなり出て来ていきなり死んだんだもんよ。相手も相当ビビってたぜ」


 妙である。俺の記憶には颯爽と登場した俺がアレスの喉元を狙った致命の一撃を身を挺してかばったアクション漫画みたいなかっこいいシーンがありありと克明に刻まれているのだが。まあその攻撃で即死したのは事実だが、もうちょっとこうなんかあってもいいのではないだろうか。と、そこで黙り込んでいたレイシアが口を開いた。


「嘘、役には立った。アレスはソウスケにかばわれてなかったら危なかった。それに魔物たちがソウスケにびっくりしたから私の魔導の詠唱が間に合った。ソウスケは恩人」

「レイシア……お前……」

「恩人だから頭開いていい?」

「いいけど乳揉みの時間延長だかんな。五分延長だかんな」

「いいんだ……」


 俺とレイシアのやり取りにアレスがげんなりとした顔をする。まあ確かに普通の考え方なら何言ってんだこいつとなるのは仕方ないだろうが、何しろ俺は不死なのだ。乳を揉みしだいていいというのなら多少開頭されるくらいは大目に見よう。一分もすれば傷もふさがるし不死にとっては大した問題では無いのだ。




 ……不死。そう、不死である。冗談みたいな話だが、どうやら俺は本当に死なない体を手に入れてしまったようなのだ。それは俺があの時何より渇望して、手に入らなかった物。何があっても絶対に死なない体。俺は前述のシーンでも、また最近レイシアに頭をかっぴらかれた時も、数分後にはけろっとした顔で起き上がったのである。

 これが、あの時の願いが通じたという事なのか、それならあの時の子供は……アキラは、救われたのか。気になることは山ほどあったが、大事なのは今の話だ。二人に聞いたところによれば、この世界はアルボアと呼ばれているらしく、魔物が跋扈し魔法が飛び交うファンタジーな世界であるらしいので、俺は自分の体について考えるのは一時放棄して彼女たちのパーティの一員として日々魔物退治にいそしんでいるのである。

 まあいそしんでいるとはいっても俺は死なないという事以外は平凡な高校生なのでもっぱら囮や偵察、肉盾などが主な仕事になっているのだが。……肉盾はいくらなんでも酷いんじゃないかとは思っている。でも俺だってRPGとかで絶対に死ぬことがない代わりに攻撃力が皆無なキャラとかいたら普通に盾にするのでそこはもう諦めているが。


 俺は水嚢を取り出してぐちゅぐちゅと口をゆすぐとぷぇっと吐き出してから二人に尋ねる。


「そういえばさ、今日中には例の洞窟に着くのか?」

「あー、そうだな……一昨日ヴァルサを発ってから、昨日エンリーケの麓まで来て野宿したから……このままいけば今日の昼頃には着くな。……頭開いてたりしてたら間に合わないとは思うが」

「聞いたかレイシア。おっぱいは惜しいが俺の解剖はこの依頼を終わらせてからにしてくれ」

「むぅ。……ギルドの依頼に遅れるわけにもいかないし、わかった」


 先ほどパーティの一員として魔物退治にいそしんでいるといったが、無論無償でそんなことをするわけではない。この世界にはギルドと呼ばれる互助組合がいくつもあり、俺達はそのうちの一つ、ヴァルサ冒険者ギルドに属している。ここは一言で言うと職業斡旋所というか、派遣業者みたいなもので、近隣住民から寄せられた多種多様な依頼が集められ、ギルドに登録した冒険者たちが日夜それの消化にいそしんでいるのだ。

 いそしむいそしむ言いすぎてなんかそう言う呪文みたいだが、まあ兎も角俺達はとある依頼のために拠点であったヴァルサの街を発って遠路はるばる西のラドマン山の洞窟に向かっているのである。


「にしたって、洞窟で何があったってんだろうな」

「それがよくわからんらしい。依頼人の話だとその洞窟はただの洞窟じゃなくって夏の間冬に降った雪を集めて食糧の貯蔵庫にしてたって話だが……貯蔵庫の様子を見に行った村人が戻ってこないから様子を見てきてほしいってことだ」

「……案外様子を見に行った村人が食糧持って逃げたとかじゃねえのか?」


 それもありそうだよなー、とアレスは剣を担いだ。二人に聞いた話ではあるが、この国もさほど裕福というわけではなく、特に今回の依頼のあった村のように国境に近い村では庇護を求めて隣国への脱出を図るものも少なくは無いのだとか。


「ま、食糧の貯蔵庫だからな。高位の魔物が食糧目当てで住み着いててもおかしくはないし、私たち冒険者ギルドに依頼するのも自然な話だろう」

「万が一が起これば危険。素人が手を出さないのは感心。餅は餅屋に任せるべき」

「言うほど専門家って程でもない気がするけどな……」


 レイシアの言葉に俺は苦笑した。ギルドに所属して日の浅い俺が言うのも何なのだが、冒険者になるような奴は一部の強者を覗けば英雄志望の馬鹿かそれ以外に食いぶちの無かったガキばかりである。身売りされることを恐れて飛び出してきた農民の子だとか、学が無くても誰にでも出来る仕事……つまり風俗で働くよりは、と冒険者を選んだ女達は結構見かけた。なんでもこの世界では風俗と冒険者は家督を継げなかったものや専門技能が無いまま働かなければならなくなったものが就く仕事として有名らしく、お世辞にも化け物退治の専門家とはいいがたいのが現状だ。

 それでもある程度の人気と信頼があるのは、、冒険者に与えられる等級の内英雄と呼ばれる上位二等級、白金等級と黒金等級の冒険者たちの活躍があるからだろう。ここら辺の連中はそれこそ吟遊詩人が詩を作って町中の広場で披露するようなとんでもない連中で、冒険者に憧れて入ってくる奴らは大体彼らのようになりたくて来るらしい。領主様たちしか守らないお抱え騎士たちとは違い、報酬さえ用意すれば助けに駆け付けてくれる彼らは、民衆にとってヒーローと呼ぶべき存在なのだろう。

 おそらくは今回の依頼もそういった実力者が来ると期待しての物なのだろうが……。


「俺達ってそこまで強いわけでもなくね? 死なないだけの俺に、近隣の領主の騎士の試験に軒並み落ちて冒険者になった落第騎士様に、危険な禁忌魔導の研究ばかりしてたら魔術塔を追い出された偏屈魔女に……」

「お前……へへ、様付けとは分かってきたな」

「……そう褒めないでほしい」

「照れんな。褒めてねえから」


 この二人のポジティブシンキングっぷりはどこから引きずり出されてくるのだろうか。それをちょっとばかり分けてほしいくらいである。


「まあいいや。二人ともそろそろ行こうぜ。できれば日の高い内に終わらせたいよ」

「それもそうだな」

「了解」


 こうして俺と女騎士のアレス、魔女のレイシアの三人は依頼のためにラドマン山の洞窟に向けて旅路を再開した。この依頼がとんでもない厄介ごとを巻き起こすことになることも知らないままに。

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