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あぱれるわーるどっ!  作者: ひとみらくる
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◆まっすぐで、さみしい人

       ◆まっすぐで、さみしい人


 あぁ、今日も肩がこる。重たい身体。重たい現実。……性格も、重たい方かも。

 でも、名前は好き。私の、一ノ瀬麗華っていう高飛車な感じの重たい名前。大好きなお父さんとお母さんがくれた名前。私にぴったりでしょう?

 小さい頃からお金持ち。お父さんは祖父から譲り受けた小さな会社の社長。もとは、製糸工場だったのだけれど、若いうちに事業を拡大してアパレルを立ち上げた。アパレルの方の第一人者は、当時パタンナーをやっていたお母さん。パタンナーっていうのは、デザイナーの考案したデザインからお洋服の元となる型紙を作るお仕事。

 二人は同じ大学で出会ったの。お母さんは大学の被服サークルで活動をしていて、当時製糸工場の息子であるお父さんが資材を無償で提供していたんだって。お父さんの一目ぼれってやつね。

 そして、いつしかお父さんが製糸工場の社長になった。元請けの洋裁工場と提携して、個々で活躍していた大学の元被服サークルの面々を揃え、アパレルブランドを立ち上げた。言うなれば、お母さんを手に入れるために。お母さんも、嬉しかったと思う。自分の好きなことが出来る場所が、努力もせずに手に入ったんだもの。

 もともと経営の才能があったお父さんのおかげで工場の方も、アパレルの方も景気は上場。そして、まるで必然かのように二人は会社のみんなに祝福されて結婚し、私が生まれた。

 最初から何一つ不自由のない生活。優しいけれどしっかり者の両親。言葉遣いやマナーに関してはしっかりとしつけられた。両親に恥をかかせてはならないと、自分自身も努力した。勉強や運動、全てが上位にくるように。パタンナーであるお母さんの顔に泥を塗らぬようにと、センスもみがいた。学校では注目の的だった。手に入らないものなんてない、お金も友達も恋人も自分自身の価値さえ全て自在に操ることができる。私は特別。

 でも、幸せって長続きしないのね。

 恋人とはいつだって半年以上続いたことがなかった。不思議なの、こんな完璧な私に釣り合う人がいないの。くだらない男ばかり。世の中にはごまんと男がいるのにね。

 私の中でのトップは、お父さんとお母さん。本当に大好き。心から尊敬しているの。お互いを高め合い、常に前に向かって歩み続ける理想の二人。どんどん会社は大きくなっていく。社員からの人望も厚い、誰からも好かれる二人。いつか私も、二人みたいな、会社の人間全てを従わせる存在になりたいわ。

 でも、幸せって長続きしないのね。

 何かしらあの女。誰かしらあの女。あの女、あの女、女、女、女女女女女。

 私は品川区の実家から大学へ通っていたの。でも、あの日は何だか熱っぽくて授業を早退したんだっけ。その日も朝早く仲良く一緒に家を出る両親を見送ってから大学に行ったわ。だから早退して家に帰っても誰もいないはずなの。三人暮らしだから。でもね、鍵を開けて玄関で靴を脱いだら、お父さんの革靴の隣に見慣れないピンヒールを発見しちゃった。私のでもお母さんのでもない、派手なピンクのピンヒール。不思議ね、このとき本当は気づいていたのだけれど、足が勝手に動いてしまったのよ。お父さんの寝室へ。

 あ、気づいちゃった? 気づいちゃったわよね。そう、大好きなお父さんは簡単にお母さんのことを裏切っていたの。おかしいわよね。お母さんとあんなに仲が良くて、私の理想で、偉大な私のお父さん。私の、私のお父さん。

 でも、別に火が着くように怒りがこみ上げたわけでも、絶望の淵に立たされた気分になったわけでもいないのよ。ただただ、私のお父さんなのよって、ベッドの上で気持ちよさそうによがる泥棒女に念を送っただけ。

 あーあ、お父さん、会社の従業員だけじゃなくって、こんな泥棒女も従えてたんだぁ。

 私の願いはただ一つ。

 どうしたら私は、お父さんの一番になれるの?

 ……なんて思っていたら、いつの間にかお母さんが病気になって、早くに天国に行ってしまったの。悲しかったわ。辛かった。でも、私にはやらなくてはならないことがあるから、ここで立ち止まってはいられない。いつどこで湧き出てくるのか分からない泥棒女を排除して、常に私がお父さんの一番でいられるのか模索しなくちゃ。

 だから、お父さんにアパレルのお店に置いてもらえるようお願いをしたの。大学を卒業してから十一年間は看護師をしていたけれど、このままじゃいつまでたっても一番になれないし、少しでもお父さんに私を見てもらえるよう同じ所にいなくちゃね。お願いをして、簡単に一番人気のお店に配属してもらえたけれど、アパレルの経験はゼロだから、その店の一番にはなれなかった。そう、店長の座には別の女がいた。

 じゃあ、排除しなくちゃね。私が一番になるためには。

 簡単なことだったわ。少しいじわるすればいいだけのこと。弱いのね、人間って。簡単に壊せるのね。一つ分かったことがあるわ。優しい人間ほど脆いのね。

 こうして、いつだって私は一番になれるよう模索しているの。


 でも、最近なんだか上手くいかないわ。前代未聞の移動でやってきた二人と、佐倉夕凪とか言うガキのせいで。

 特に警戒しているのは、基本的に私に従順なくせに、たまに一矢報いてやろうと言うような鋭い眼光で見てくる佐倉夕凪。なんだか知らないけれど、もしコイツも私のお父さんを狙っているのだったら即刻排除よ。まぁ、ただのアルバイトにトップである私のお父さんと顔を合わせる機会なんて無いのだけれど。

 同じくらい、佐伯双葉や近衛ゆづきも警戒しているわ。なぜかは分からないけれど、最初から妙に仲が良いのよね、あの二人。ただ気の合う仲間って感じなのかしら。それだけならいいのだけど、基本的に行動はチェックしているつもり。

 なにか理由があるはずなのよ。とくに、近衛ゆづきが静岡県だったかしら、忘れたけどわざわざ遠いトコロから移動になった理由が。お父さんの第一の部下でアパレル担当の篠ヶ瀬部長からの指名ってきいていたけど、なにか引っかかるのよね。ま、あんな田舎の子どうだっていいわ。私の邪魔にはなっていないし、何よりも簡単に潰せそうだもの。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ◆まっすぐで、さみしい人 拝読しました。 前半のリアルな家庭事情が良かったです。 また、後半のちょっとしたとげとげしさも印象に残りました。
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