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漢之広矣

漢之広矣、不可泳思。

江之永矣、不可方思。

  ――『詩経』国風周南・漢広

 漢の広きは、泳ぐべからず

 江の永きは、いかだすべからず


   漢水はあまりに広く、あなたのいる対岸まで泳いで渡ることはできない

   江水はあまりに長く、あなたのいる場所まで筏で行くこともできない


********




 陰麗華いんれいかは困惑を隠さず、ただ、震える両手を膝に置いて使者の顔を見上げていた。人妻らしく黒髪は真ん中で分けて後に流し、捩じって背中で緩い髷を作り、漆塗りの地味なこうがいでまとめているだけで、正面からだと何の飾りもないように見える。化粧も控えめで紅もさしていない。黒い襟のついた深みのある臙脂えんじ色の深衣に、帯も飾りのない地味な黒いもので、衣もだいぶ着慣れて古び、くったりと身体に添っている。ただ、長めにした深衣の袖から、ときどき覗く白い指に、キラリと銀の指環ゆびわが光る。装飾らしい装飾は、それ一つだけだ。あまりに質素なので、はじめ、傅子衛ふしえいは主君の奥方の侍女かと思った。だが間近に接すれば、清楚な装いが彼女の美質をさらに引き立て、ふとした仕草からは滲み出るような色香さえ感じた。

 南陽一の美女と騒がれたその美貌は、戦乱の中の侘び住まいにも衰えていなかった。


 「……今、何とおっしゃいました?」


 まっすぐ自分を見上げてくる黒い瞳が、驚きに見開かれて動揺で大きく揺れる。けぶるような長い睫毛に縁どられた、大きな瞳。抜けるような白い肌はやや青ざめ、桃の花びらを思わせる唇が、小さく震えるように動いた。

 陰麗華の聞き返す言葉に、傅子衛ふしえいは自分が主君の奥方に見惚れていたことに気づき、はっと我に返る。コホンと咳払いを一つして、苦笑した。――年甲斐もない。

 その微笑が、壮年の武将の厳しい雰囲気をいくらか和らげ、陰麗華を少しだけホッとさせたことを、本人は気づかない。傅子衛は目の前で呆然と佇む女に向かい、もう一度繰り返した。


 「皇帝陛下よりの命を受けて、お迎えに参りました。南陽に住まう陛下の家族を洛陽宮にお連れせよとの、ご命令です。陛下の奥方の、陰麗華さまと、その兄君の陰次伯殿」

 

 陰麗華の隣に座る――当時は椅子ではなく、しょうと呼ばれる短い脚のついた低い台に、ムシロのような敷物を敷いて座った――兄、次伯が「ええ? 僕も?」と間抜けな声を出す。慌てて口元に手を当て、ゴホンと咳ばらいをして誤魔化してから、もう一度確かめるように言った。


 「その――皇帝陛下ってのは、劉文叔のことですよね? 麗華を迎えに来たってことですか? 妻だから? 二年も音沙汰無しで放っておいて、今さら?」

 「左様。陛下におかれましては、この二年は河北にて銅馬その他の賊の征伐に暇もなく、ご妻女に便りすら送ることができず、長くご心痛であらせられた。今、ようやく洛陽を落とし、都を定めることができたのです。すぐにもご妻女を迎えよと、某に自らご下命なさった。本当に、この二年間の陛下のご苦労と言ったら……」

 「しかし! 劉文叔は昨年、河北で別の女を新たに娶ったのでしょう?! 真定王の姪を!」


 しみじみと言う傅子衛の言葉を遮り、陰次伯が苛立たし気に叫んだ。その言葉に、陰麗華ははっと鳩尾みぞおちが冷えるような気分で、思わず居住まいを正す。 


 劉文叔と陰麗華は確かに結婚した。二年前、更始元年(西暦二十三年)の六月末のことで、陰麗華は十九歳、文叔は二十九歳だった。しかし、その十月初めに文叔は劉聖公の命で河北平定に向かい、文叔からの便りも途絶えた。そして、翌更始二年の夏には、劉文叔が河北で結婚したという噂が陰麗華の耳にも届く。信じたくなかったけれど、兄の陰次伯と幼馴染の鄧少君が、さまざまの伝手を辿って調べた結果、真実であると結論づけた。

 つまり、陰麗華は裏切られ、捨てられたのだ、と。


 文叔との結婚は戦乱を理由に、略式のものであった。礼法どおりの六礼りくれいを修める余裕などあるわけもなく、立ち合い人も兄と、媒酌人の鄧偉卿のみ。官衙やくしょも機能しておらず、実は届も出していない。――届け出るべきおかみ自体が存在しないも同然だったからだ。結婚していないと文叔が言い張ったら、陰麗華には反論もできないくらい、あやふやなもの。


 だから、それを理由に文叔は河北で新たな結婚に踏み切ったのだろうか。新しく妻となった人に、自分(陰麗華)のことをなんと説明したのだろうか。


 陰麗華は無意識に、膝の上に重ねた左手の、薬指にはめた銀の指環ゆびわを右手で撫でた。――初めて文叔と結ばれた証に、彼が麗華の指にはめた銀環。文叔のことは思いきろうと決めたのに、どうしても外せなかった指環。


 二年も音沙汰無しで放っておいて、ようやく離縁を言い渡しに来たのかと思ったら、「妻」の陰麗華を迎えに来ただなんて。


 ――新しい奥様がいるのに、わたしを洛陽に呼んでどうしようというの。


 傅子衛の方は、陰家側の反応をある程度予想していたのだろう。全く動じることなく、嘯いた。


 「確かに、陛下は河北で郭氏を娶られましたが、陰氏との婚姻を破却してはおられません。ですから、ご妻女はまだご妻女のままですぞ?」

 「それは――」


 陰次伯も陰麗華も、息を呑んだ。


 「……わたしは、てっきり正式な離縁の使者だと思っていたのですが……」


 辛うじて絞り出すように陰麗華が言えば、傅子衛は余裕のある笑顔を陰麗華に向ける。


 「陛下に離縁のお心積もりはないと存じますが」


 その確信に満ちた言い方に、兄妹は困惑して顔を見合わせる。


 「妻が二人というのは、礼にもとると思われますが……まさか、うちの妹を小妻めかけにするつもりですか?!」


 南陽の諸家は早くから孔子の教えを奉じ、一夫一婦を尊んでいる。男が小妻めかけ御婢(ぎょひ)(性的な奉仕を行う女奴隷)を持つのは珍しくはないが、正妻は一人だけだ。


 「妻」とは「斉」。夫と対等な、ひとしい存在と言う意味で、一人の夫につき、一人の妻しかあり得ない。金と権力にあかせて幾多の妾を蓄えようとも、「妻」はただ一人で、重婚は認められない。


 嫡妻の権威が強いだけでなく、南陽の豪族たちは網の目のような姻戚関係を結んでいて、南陽郡全体が親戚みたいなものである。つまり諸家は対等であって、夫婦はお互いに尊重されるべきだとの、共通認識が固くつちかわれている。もっと言えば、南陽でも有数の富豪である陰氏が、かつての列侯家の分家の三男坊であった劉文叔に、特に折れて陰麗華を嫁に出したのである。それを二年も放置し、不実にも新たな妻を娶って、さらにこの上辱めるつもりなのか。

 

 どちらかと言えば大人しい、書生肌の陰次伯が色をして詰めよれば、傅子衛は苦笑いして首を振る。


 「小妻めかけなどと……ただ、古来、天子は六宮りくきゅう(*1)を備えるとは、これも孔子の教えにございます。いずれ、洛陽宮にも後宮を備える必要はございましょうな」

 

 その言葉に陰麗華は絶句する。


 天子。六宮。――女である陰麗華はそこまで経書に通暁しているわけではないが、かつて、平和だったころの長安の都では、天子がたくさんの女性たちを掖庭こうきゅうに蓄えていたと聞き知っている。時の天子・王莽に反旗を翻した南陽の豪族たちは、劉文叔の族兄である劉聖公を皇帝に推戴すいたいしたが、聖公は皇帝になるや否や、後宮に女をかき集め始めたのを思い出す。


 陰麗華はぞっと身震いする。劉文叔もまた、皇帝になったからにはと、後宮に女を蓄えるのだろうか。それが皇帝としての当然の権利だと、夜ごと違う女を枕席ちんせきに侍らせているのだろうか。


 陰麗華が露骨に眉を顰めたのを見て、傅子衛はしまったと思ったのか、コホンと咳払いして言った。


 「ま、陛下には現在のところ、そのようないとまはなく、皇帝となられた今も、自ら戦場に立っておられ、質素な暮らしぶりです。その陛下が、南陽に残したご妻女のことは本当に気にしておられて、一刻も早くと、それがしを急かされたのでござるよ」


 眉間に皺を寄せたままの妹を、兄の陰次伯が心配そうに見て、傅子衛に言った。

 

 「劉文叔はすでに、河北であらたな妻を娶った。〈二嫡無き〉は古来よりの定めです。天子の六宮で、三夫人、九嬪と言い方を変えたところで、正妻でないことには変わりありません。一度は嫡妻として娶ったわが妹を、後宮の一人に擬すなんて、我が家に対するひどい辱しめだ。私には耐えられない」


 妹の同行を拒否する兄を無視して、傅子衛は今度は陰麗華に向き直る。


 「陛下はここ二年、ずっと戦いの中に身を置いておられ、まともな便りも送ることができなかった。お二人の間には行き違いもあるようですが、どうかそこは、ご妻女にも理解いただきたい。ようやく、洛陽に身を落ち着け、家族を迎え入れることができると、再会を心待ちにしておられます」


 戦乱で夫婦が引き裂かれるのは、古来、よくあること。巡り合わせがよくなかったと、陰麗華も諦めている。だが。

 兄、陰次伯が言った通り、《二嫡無し》――正妻が一人だけ――なのは、孔子の道を奉ずる者ならば、絶対にゆるがせにできない人の道だ。劉文叔と郭氏との婚姻が正式なものであるなら、陰麗華との結婚はなかったことにするしかないと思うのだが。

 

 「このような戦乱の世のことですから、お便りがなかったことも、また新しい奥様もことも、仕方のないことと承知しております。でも――」


 陰麗華は長い睫毛を伏せ、視線を膝の上に重ねられた自分の手に落とす。


 「わたしは一度は劉文叔さまの妻となり、生涯を誓っていただきました。文叔さまが天子となられたからと言って、六宮に入り、数ある姫妾の一人にされることは、やはり受け入れることはできません」

 

 そう言って、陰麗華が目をあげて、まっすぐに傅子衛を見た。


 「きっと、文叔さまが二年前、河水を渡られた時、わたしたちは道を違えてしまったのでしょう。わたしは天子の六宮に仕えるに相応しい女ではありません。文叔さまにはどうかこのまま、お捨ておきくださいと、お伝えください」


 陰麗華の言葉に、兄の次伯が悔しさ滲ませた表情で頷く。だが、傅子衛は考え深そうな目で、周囲を見回しながら尋ねた。


 「……つまり、ご妻女は離縁を望まれるのですか? それは、もしやこの家の主である、鄧少君将軍と関わりが?」 


 陰麗華はぎょっとして、慌てて首を振る。


 「少君はただの幼馴染で……匿ってくれているだけです!」


 鄧少君は破虜将軍として育陽のまちを守っていて、今、陰氏の兄妹は彼のいえに身を寄せているが、要は居候いそうろうである。


 「陛下は河北に向かうにあたり、ご妻女を故郷の新野県にお戻しなさったはずです。新野県からは便りが途絶え、ご妻女の居場所はしばらくわからなかった。陛下は随分と心を痛められて……」

 

 傅子衛が言うように、二年前、陰麗華は故郷の新野県に戻ることができず、紆余曲折の末に鄧少君に保護され、そのまま育陽に匿われている。だが育陽に落ち着いてすぐ、陰麗華は事情を報せた書簡てがみを文叔に送っている。


 「育陽にいる事情については、何度も書簡でお知らせしているはずです。……離縁のことも、その中でお願いを……」


 劉聖公が長安に向かってから、南陽はいわば主不在の状態で、盗賊化した流民が跋扈し、情勢は不安定であった。鄧少君が宛と新野の中間にあるこの育陽に拠り、なんとか周辺の治安を維持している状態だ。


 目を伏せた陰麗華をじっと見つめ、傅子衛は言った。


 「さきほども申し上げましたように、陛下に離縁のお心積もりはござらぬ。離縁を望まれるのでしたら、一度洛陽に赴かれ、陛下にご対面の上、お二人で話し合われるべきです。ご妻女を洛陽にお連れせねば、それがしが陛下よりお叱りを受けることになりましょう」


 夫婦のことは夫婦で話し合えと言われ、陰麗華は溜息をつきたいのを堪える。


 陰麗華の意志はすでに幾度も伝えた。だが、劉文叔が何を考えているのか、全く返事がない。基本的に、妻からの離縁は夫の了承が必要である。離縁してほしければ洛陽まで行って自分で頼めと言うのは、ほとんど脅しではないか。


 (――逃げてしまおうか)


 ふと思ったことが、あるいは顔に出ていたのかもしれない。傅子衛は穏やかそうな笑みを浮かべたまま、とんでもないことを言い出した。


 「陛下はご妻女の安全のために、三百人の兵をそれがしに率いるように命じられた。万一、不届き者がご妻女を隠し立てするようなことがあれば、近隣からさらに兵を呼び入れ、全力で打ちかかるように、と。たとえ鄧将軍が不満を訴えても、容赦することは罷りならぬ――と」


 陰麗華も陰次伯も、息を呑んで硬直する。

 もしや文叔は、陰麗華と鄧少君の仲を疑っているのか。最悪、武力に訴えてでも、陰麗華を育陽から洛陽に連れ出せと命令を下したということだ。鄧少君と劉文叔だって、知らぬ仲ではないというのに。


 「誓って言うが、麗華と少君は何でもない!このいえにいるのは僕が、少君の仕事を手伝っているからなのと、麗華の身の安全のためで――」

 

 陰次伯が慌てて弁明し、陰麗華は軽いめまいを感じてこめかみに手を当てる。


 「ならば、迷うことなく洛陽に向かわれるべきでしょう。ここでご妻女が意地を張れば、鄧少君将軍のお立場にも関わり申す」


 陰麗華は観念した。麗華が抵抗すれば、直情的な鄧少君は陰麗華を守るために、本気で武力衝突に至るかもしれない。――これ以上、彼に迷惑をかけるわけにはいかなかった。


 「……わかりました。洛陽に赴き、わたしの口から、改めて離縁をお願いします」

 「麗華、僕も行くよ。……文叔殿には、僕からも文句を言う資格があると思うから」


 陰次伯も溜息まじりに言う。この二年、文叔との結婚を許したことを、後悔しない日など一日たりともなかった。皇帝だろうが何だろうが、一言言ってやらねば、気が済まない。


 その答えに、傅子衛は満足そうに微笑んで、明朝、迎えに来ると言いおいて、席を立った。自分も立ち上がって使者を見送り、陰麗華は溜息をつく。

 

 「お兄様、ご迷惑をおかけします」 

 

 兄に向かって頭を下げれば、兄も諦めたように首を振った。


 「お前のせいではない。だが――本当に皇帝になったんだなあ……」


 兄の言葉に、陰麗華も儚い微笑を浮かべる。


 「何て言うか、ウソみたいね。まあ、今時、自称の皇帝はあちこちにいると言っても、文叔さまはそういう人ではないと思っていたのに」


 陰麗華が愛したのは、南陽の、どこにでもいる普通の男のはずだった。まさか乱世の軍閥の首魁になって迎えにくるなんて、想定外だ。

 陰麗華は肩を竦めると、兄に向けて言った。


 「お兄様、わたしと小夏で出発の準備をするから、お兄様は少君に事情を説明してきて。………少君が怒り出さないように、上手く伝えてね?」

 「ああ……」


 兄は頷いて、そして少し心配そうに妹を見た。


 「麗華、まさか文叔の後宮に入るつもりはないだろうな?」

 「……文叔さまがまだ、わたしに気持ちがあるとは思えないの。確かに、すれ違いはあったかもしれないけど、少なくともこの一年は確実に、わざと放置したのだと思うから。昔の女を捨て置くのは評判に関わると思って、渋々呼び出したってところじゃないかしら。どのみち、一度は話し合いをしないといけないと思っていたから、洛陽には行くけれど、離縁してくださいってお願いするつもり」


 陰麗華はそう言うと、部屋の隅に控えていた侍女の小夏を呼んだ。


 「洛陽に出発するから、支度を。ここは仮住まいだったから、たいした荷物じゃないと思うけど」

 「はい、お嬢様」


 鄧少君に事情を伝えるために兄が部屋を出ていくと、二人で長櫃を開けて荷物の整理を始める。不要なものは処分し、最低限のモノだけを持って――。


 「これは、持っていきますか?」


 小夏が櫃の奥から取り出したのは、縫いかけの絮衣わたいれだった。真綿を入れ、細かい刺し子(キルティング)を施した冬用の肌着。――河北で冬を過ごす夫文叔が少しでも寒さや、矢や刀から守られるようにと祈りを込めて、麗華は何着も絮衣を縫い上げ、伝手を頼って書信てがみとともに文叔に送った。河北からの便りはただ一度、邯鄲かんたんまちから届いたきり、途絶えた。夫の裏切りを信じたくない気持ちと、裏切りもまた已む無しと諦める気持ちがないまぜになって、ただただ、女の情念のままに絮衣を縫い続けたけれど、いつしか便りを待ち続ける日々に疲れて、麗華は絮衣を縫うことも、書信てがみことづけることもやめた。


 自解いいわけの言葉が聞きたい気持も、裏切りの理由を知りたいという気持ちも、気づけば霧散していた。初めからなかったことにするというなら、それも受け入れようと――。


 一度だけ目にした黄河の土色の流れ。天地のきわまで二人を別つ、荒ぶる濁流。

 劉文叔はあの河の彼方に渡り、陰麗華を捨てた。捨てられた女に、いったい何ができようか。


 ほとんど完成に近い状態で放置された絮衣は、麗華の中でぷっつりと断ち切られた思いそのままのようで、いっそ切り刻んで捨ててしまおうかと剪刀はさみを手にしたが、この物不足の日々に、罰当たりなことはできないと思い返す。


 「――そうね、これはあと少しで完成するから、洛陽までの旅の間に仕上げるわ。最後のお別れの餞別には鬱陶しいし、皇帝はこんなみすぼらしいものは着ないかもしれないけれど、あの人に必要ないようなら、お兄様に差し上げてもいいし」


 麗華はその絮衣を裁縫道具と一緒にして、手周りの荷物に加えた。

 

 


*1 六宮…天子の後宮のこと。

『礼記』昏義

古者天子后立六宮。三夫人、九嬪、二十七世婦、八十一御妻。



陰麗華:南陽新野の人。元始五年(西暦五年)生まれ。

*『後漢書』は麗華を諱とするが、王莽が二字名を禁じて以来、諱は一字名が普通なので、麗華は字として扱う。

傅子衛:傅俊。潁川襄城の人。侍中。

陰次伯:陰識。陰麗華の兄。

鄧少君:鄧奉。南陽新野の人。

*鄧奉は字がわからないので、前漢時代の人、翼奉の字を拝借した。

劉文叔:劉秀。南陽蔡陽の人。舂陵しょうりょう侯家の分家筋。建平元年(西暦紀元前六年)生まれ。

劉聖公:劉玄。舂陵侯家の分家筋。更始帝。

小夏:陰麗華の侍女。

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