二
布団をたたみ、低く不快に頭を打ち鳴らす鐘に、一瞬”風邪だ。休める!”と喜んだのもつかの間、ちゃぶ台に放置されている犯人に気づき失望する。
そこに有った物はボジョレーヌーボー。
昨日会社の帰りに立ち寄ったお店にある、リカーショップの販売員にそそのかされて購入したものだ。
店員はこのワインを持って、こう言った。
「この赤ワインには、いま注目のポリフェノールが多く含まれており、動脈硬化や加齢による体調不良、カラダのサビ、つまり活性酸素を退治してくれる効果がありますので是非お試しください」
”お試しください”とはなんだ?薬か?
それにこの販売員が上げた効果効能は、未だ二十代半ばの私に何の恨みがあるのかと思い腹が立ち、どんな人なのか睨め付けてやろうと振り返ると、その途端販売員が言った。
「有難うございます!」と。
いきなり何を言い出すのだ。私は未だ一言も買うとは言っていないし、寧ろ買わないつもりなのに。
「それではどうぞ。お会計は右側奥のレジにてお願いいたしまぁ~す」
まだ学生なのだろう、販売員の女性は明らかに私より若く、肌もピチピチしていた。
そして積み上げてあるそのボジョレーヌーボーを、スッと私の方に差し出す。
その差し出し方は、明らかに相手が受け取ることを前提としたもので、ここで私が手を差し伸べない限り次の瞬間にはこのボジョレーヌーボーの瓶は販売員の手を離れ、床に落ちるだろう。
”食べ物を粗末にするとバチがあたります”
不意に去年亡くなった富山のお婆ちゃんの言葉が頭を過り、私は慌てて手を上げた。
そう。
瓶を受け取るために。




