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十七
目が再び明りを捉える。
もうろうとした意識の中で、やっとのこと頭を動かすと目の前にはあの赤いバラがあった。
「オーッレ!」
心の中で、タンゴ調の掛け声を叫ぶ。
「エロい女から、野性的な女だね」
くだらないことを呟いたあと、また気を失いそうになる。
『おはよう』
バラの花に、そう言われてた気がして意識が戻る。
よく見ると周りの景色が、さっきまでと少し違うようだ。
そこは河原のある土手ではなく、真っ白な天井に真っ白い壁、白いカーテンに白いシーツで覆われた世界。
「夢の中と似た、白い世界だね」
白い霧に包まれた世界から、白色に包まれた世界に来た。
そして私に付き添うように、ベッドサイドのテーブルには、あの赤いバラが一輪凛として立っていた。
「おはよう」
私は、その赤いバラに親しみを持って挨拶をした。
だけどもう赤いバラは何にも言わない。
けれども少しだけ空いた窓から微かにそよぐ風が、彼の言葉を私に伝えた。
『おかえり』と。