十三
私は、この人間くらいの大きさの死体にも見える黒い物体を流木と仮定して、さも大学教授か名探偵かのように浅瀬をパシャパシャと歩きながら声に出してみる。
「あなたは誰?なんでそこにいるの?」
口から出る言葉が妙に格好良く感じた。
「なるほどね。口に出して言うと自分に対して、より説得力を与えることが出来るものね」
などと調子に乗って、その感想も口に出す。
「まず、いま最も重要なのは、あなたの存在ではなく、ここが何所かということね」
『僕の存在ではなく、ここの場所?』
「そう。あなたがもし木なら、二人はこうして話せないし、人間なら死体か死ぬ寸前ってことになり、今の私にはなにもできない」
『……』
「と、いうことはあなたが此処に行くのか?何故ここに居るのか?」
『僕がどこから来たかとか気にならないの?』
「そうね。確かに気にならなくはないけど、あなたの居た場所や、あなたの名前なんて、今となっては興味にもならないわ」
『酷いな』
「だって、あなたは私を助けることも出来ないし、私はあなたを愛することも出来ないんだもの。仕方ないのよ」
『確かに。僕はもう動けないから良いことも悪いことも、なにもしてあげられないね』
「まだ生きている木や草花なら木陰を作ってくれたり、好い香りで癒してくれたりするのに、あなたに出来ることと言えば……」
『僕に出来ることと言えば?』
「あなたはもう、私たちの住む世界に居ないに等しいから、もうあなたが私に出来ることは殆ど残っていないの。可哀そうだけどあなたに出来ることを考えるなんて無駄なことなの」
『わかった。じゃあ、今もっとも重要な問題を考えよう』
「そうね。あなたは一体何日くらい流れていたの?」
『僕には、ついさっき流れて此処に来たのか。ズット何日も何か月も流れ続けていたのか全く分からない』
「そう、それは屹度あなたに時間の必要がなくなったからね」
『時間の必要が無い?』
「あなたは、この川と平行に流れていて死にかけている。私はこの川に爪先だけ付けていて未だ生きているってこと」
『僕が死にかけているって?!』
「そうよ。あなたは死にかけているだけで死んではいないの」
『死にかけている……。なのに何故僕は病院のベッドに居ないの?』




