十
「ケロ♪」
「ケロケロ♪」
「ケロケロケロ♪」
「ケロケロケロケロ♪」
「ケロケロケロケロケロ♪」
カエルたちが私の願いをきいてくれた。
カエルは触れないから苦手だけど、嫌いではない。だから、私もカエルの真似をして、カエル語で答える。
『ケロケロ(こんにちは)』
「ケロケロ」
返事を返されて嬉しくなる。
『ケロケロ(はじめまして)』
「ケロケロ」
『ケロケ、ケケロケ(私の名前は……)』
自己紹介をしようと思ったけど、はたしてカエルたちに名前の概念があるのかどうか不安になって名のるのを止めた。
だって
ケロ太にケロ男、ケロ子にケロ美。なんでもかんでもケロケロ語で済ますのには限界があるでしょう。だから名のるのを止めて、こう話した。
「ケロケロケ(お友達になりましょう)」
「ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロ♪」
思いもよらないカエルの大合唱にびっくりした。嬉しくて、とても楽しくなった。
そして、いつの間にかケロケロ語で「カエルの歌」を歌っていた。
ご機嫌よく歌っていると、その陽気につられたアマガエルが一匹ピョンっと私の前に現れた。
「きゃぁ~~~~~!」
不意に現れたカエルに驚いた私は叫び声をあげてお尻ふたつ分、後ろに逃げた。
途端。カエルたちの鳴き声は途絶えた。
急に静まり返った河原。
もとに戻っただけだけど。
『ケロ(ごめんなさい)』
カエルたちの返事に耳を澄ませているのに聞こえない。
『ケロ(ゆるして)』
「……」
彼らの返事が聞こえやすいように耳に手を当てるけど、いくら待っても返事は返ってこないまま。
「なによ!カエルのくせに」
急に、つまらなくなって大声で怒鳴る。
膝に置いた手の甲に、
ひとしずく
ふたしずく
「えっ。私、いま泣いているの?」
そう思い、手を顔に当てようとしたとき頭の天辺からバケツをひっくり返すほどの水を浴びた。
私は涙を雨から守るために手を顔にかざして言った。」
「カエルの、ばか。臆病者」と。