一
目覚めの悪い朝。
まだ昨日の事を忘れられずに引きずっている、この嫌な気分。
営業会議で、嫌味を言われた。
新入社員の内定者がほぼ決まってから、吊し上げのような個人攻撃の会議が恒例行事化されている。
いわゆる”新陳代謝促進会議”
さすがに女子大を出て四年。営業として、さしたる成果もあげてない上に、もう四捨五入すれば三十。入社したての頃は全然営業成績が上がらなくても、チヤホヤされたのが遠い昔のよう。
最近では、漢字も計算もろくにできない、金さえあれば入れるナンチャッテ芸術大学出の後輩男子にも付け込まれる始末。
もう限界……。
昔やっていたドラマの挿入歌ではないけれど、戦う意思はないので、ほっといてもらいたい。人と関わりのない仕事ってないかな。
たとえば小説家。
明日は、新作の取材のためニューヨーク。みたいな人生に憧れる。
勝手な逃避行だとは分かっているけれど、想像の世界だけでも自分の好きなようにさせてほしい。
しかし現実は酷。
いつの間にか止めた目覚まし時計は、止めた後も容赦なく時を刻み続ける。
頻繁に離発着を繰り返す飛行機の騒音が、急ぐように促す。
頭の上に手を伸ばし時計を掴みあげ、時間を見ようとした瞬間、手が滑ってそれが落ちてくる。
ゴツン☆彡
時計は見事に私のおでこにヒットした後、転びながらジリリリリリリと再びベルを鳴らし始めた。
屹度、手が滑ったときに切ったはずのスイッチに手が触れてアラームが再び入ったのだろう。
それにしても、この痛さは何なのだ?
布団に潜ると、明るさや、少しの音から逃げられるものだけど、この痛さからは逃げられない。
布団に潜って痛さと格闘している。いや、起きるという現実から逃げようともがいている私にトドメを指すように隣人が壁を叩き、私は慌てて布団から出て時計のベルを消す。