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7 夕陽が照らすもの

「お……俺が……」

――恭弥を殺した……。


 太陽は涙を流しながらその場に崩れ落ち、手をつく。

 乱れた呼吸の音だけが聞こえる。

「うっ……うわああ‼」

 突っ伏して泣き続ける。


 ふと思い立ったかのように顔を上げ、立ち上がると、投げ捨てた刀を拾う。

「そうだ……お前のせいだ……お前のせいでこうなったんだ! お前さえいなければッ‼」

 距離を詰めて刀を振り回すが、その刀身がデッドオーバーに触れることはない。

 必死で出す声に嗚咽と怒りが交じる。


 落ち着いてきたところで、デッドオーバーが口を開く。

「無駄だ……一度失った命を取り戻すことはできない」


 太陽の手の中で刀が消えていく。

「くっ……! うあぁっ!」

 殴りかかると避けられて、勢いで倒れ込む。

 無様だ。

 恭弥ならそう言っただろう。


「うぅっ……!」

 倒れたまま大地に拳を打ちつける。何度も、打ちつける度に痛みを我慢する声を漏らしながら。


 静かに、何事もなかったかのように起き上がり、フラフラと歩き出す。

「どこへ行く?」

 呼びかける声が聞こえているのかいないのか、振り向くことなく歩き続ける。



 離れた場所で、崖を背にへたり込む。少し歩いただけで涙は枯れてしまった。

 いつの間にか眠っていた太陽が目を開けると、眠る前は西にあった夕陽が南へ移動している。

「恭弥……」

 自分の両手を見ながら呟く。

「そうだ……俺が恭弥を……」

 冷たい風が、すっかり乾いた頬を撫でる。


 小屋の前に戻ってくるデッドオーバー。そこへ同じく太陽も戻る。

「戻ったか」

 その声を完全に無視して太陽は小屋の中へ。


 洗ってかごに置かれたままの食器、積み上げられた本、二人分の布団……恭弥との生活の跡が残っている。

 冷蔵庫を開ければ、恭弥の手作り料理がある。

 そっと扉を閉め、布団を敷いて横になる。

「食べないのか」

 デッドオーバーは懲りずに声をかけるが、応答する気はないらしい。


 そのまま日をまたぐ。

 いつも付きまとってくるデッドオーバーがいない。

 唯一の生きる理由を失い、やる気を奪われた太陽は二度寝する。


 一時間もしない内に目が覚める。寝苦しさに起き上がり、水を飲む。

 外に出ると辺りを見回す。昨日まで厄介者だと思っていたデッドオーバーを捜しているのだ。

 しかし、姿は見えない。


 時間にして一時間、でこぼこの岩の上に太陽は座り続けた。

 ようやく現れたデッドオーバーと目を合わせ、隣に来たところで話す。

「俺を……殺してくれ」

「できない」

「……」

「しかしここには高い崖がある。良い場所を教えよう。来い」


 着いた場所は、海を見渡す崖の上。強い風が吹いており、高さは八十メートルはありそうだ。

 太陽は崖の端に立ち、下を見る。真っ直ぐ落ちても、途中で飛び出した岩に当たって止まることもない。


 このまま死ねば、もうこの夕陽も海も見られないし、風を感じることも、恭弥と二人で過ごした時間も思い出せない、闇の中に消えることになる。

 それでも、あの時恭弥が感じた痛みを、未来を失ったことを想うと、そんな迷いは小さいことに思えた。


 両手で押さえられたデッドオーバーのマントが風になびく。


 太陽は少し後ろに下がると、走って飛び出す。

 近付いてくる海に目を閉じる。着水の瞬間、全身が一枚の板のように硬くなるのを感じると、意識を手放す。


 海中から粒状の光が空へ還っていく……。

「良い飛びっぷりだ」



 暗闇の中、呼吸の音だけが聞こえる。

「俺は……生きてる……?」

 無意識に開かれた目が光を感知する。

 どこを見ても真っ白な世界に、一人だけでいる。

「お前は死んだ」

 何度も聞いた、あのドスの利いた声がする。

「これからお前は自由に、この世界で生きるんだ」

 視界いっぱいに光が広がり、眩しさで目を閉じる。


 再び目を開けると、見知らぬ街にいた。

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