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24 照らすものと照らされるもの

 毎日毎日、既に刑事に話したことを確認される日々。俺がどんだけ無価値に思われてきたか、思い出さないといけない。過去のことなのに、今まさに体験してるような錯覚に陥る。心が壊れそうだ。

 もう全員殺して、楽になってやろうかな。そう思うくらいには、人権を無視した扱いだな。


 俺にはそんなことを実行する力はない。無力で、無意味で、何のために生きてるかわからない。


 病院にいた期間は3か月。小さいことを何度も聞かれて、ようやく無の時間が終わる。

 その間、デッドオーバーはほとんど現れなかった。最初の頃は2日ごとに薬を持ってきたものだが。

 今はもう、薬なしでも気分が落ち着いている。




 最後の裁判が行われた。

 俺が被告であることを確認して、起訴状を読み上げる。

 罪名は殺人未遂、窃盗に、銃刀法違反。


 杏珠が死ななかったことは予想外だった。それに、刀を使ったことで明確な殺意があるということにされた。

 杏珠を刀で刺したことを認める。


 次に証拠品が提出される。目撃者がスマホで撮った映像があるらしい。


 最後に、判決が出される。

 精神鑑定の結果は心神耗弱。初犯で、被害者が一人だったことから、5年の懲役。これで一番軽いらしい。


 高い塀に囲まれた刑務所へと移送される。

 留置場の時と同じように身体検査を受けるんだが、更に詳しく見られる。まず両手両足を床につけ、自分で尻穴を拡げて見せるように言われた。


 こんな場所に薬物だとかを隠し持つ奴がいるんだとか。そんなこと思い付く執念がすごいよ。


 部屋に入れられる前に、頭は坊主にされる。入る部屋は、数人の受刑者が一緒に生活する雑居房。


 すぐ作業するわけじゃなく、お偉いさんが集まる場所で配役を決められる。


 夕食を取って、夜6時を過ぎると布団を敷いて寝ることが許される。


 9時に寝て、7時前に起こされる生活。トイレもほとんど留置場と同じで、陰部以外見られながらする。

 食事は冷えた弁当じゃなくて、他の受刑者が作った温かいご飯。


 1日の大半は工場での刑務作業。留置場にいた時はただ寝るしかできなかったけど、作業があるだけマシなのかも。


 面接もなしに、強制的にやらされる作業。これが一般企業だったら、変に上に見られて面倒くさいんだろうな。

 ここにいるのはどうせクズだから、変に責任感も持たなくていい。色々と諦められる。


 しょうもないクソみたいな人生でも、誰かのために仕事できるんだなって思うよ。


 自由時間とかに、しつこく罪名を聞いてくる奴がいた。言いたくないから適当に答えて、あとはひたすら耐えた。耐えたっていうか、どうでもいいから言わせたままにしておいた。




 特に問題なく過ごして、3年と6か月を超えた頃。この頃には少しだけ待遇がよくなった。テレビを見られる時間や、買えるものが少し増えただけだけど。


 精神鑑定を受けてた頃は、医者は俺を人とも思わない対応だった。何か言っても冷淡な反応しか返ってこない。

 それが看守は、俺のことを人として扱ってくれる。事務的な号令とかがほとんどだけど、普通に世間話とかもしてくれる。


 もしあの冷淡なほうが看守だったら、ここまで大人しくできてたかどうか。

 自分の惨めさに押し潰されて、駄目になってたかもな。


「面会だ」


 俺には頼れる相手がいない。知らない人じゃ面会は許されていない。

 そんな俺に、面会を申し込む人がいた。


「よう。久しぶりだな」

「……恭弥」


 後ろに1人、男をつれてやってきた。まだ会社やってるのかな。じゃあ後ろの男は従業員?


「久しぶりって言っても、差し入れしてやってたのは俺だけど」


 待遇がよくなってから、現金の差し入れがされるようになった。友人から、としか言われなかったけど、恭弥だったのか。


「どうだよ。気分は。ちゃんと反省してんのか?」


 変わんないな。


「はんっ。その調子だと、反撃できずに黙ってそうだな。お前らしいよな」

「……それで、話は?」

「ああ、お前を雇ってやるよ」

「……え?」

「そのために来たんだ。ちゃんと反省して、仮釈放までありついてもらわないとな」

「き、恭弥……」


 身寄りのない俺に、そこまで言ってくれるのか。昔の恭弥に戻ったみたいだ。

 なんでか知らないけど、涙が出てきた。


「被害者も、お前を許したいって言ってるよ。お前も、人を許す心があるだろ?」

「う……うん」

「必ず、出てこいよ。待ってるからな」


 この日から、少しだけ気が楽になった。

 入所してからデッドオーバーが全く出てこなくなって、ただ奴隷として無心に過ごした日々。そこに少しだけ希望が出てきた。


 数か月後に、仮釈放の仮面接が行われた。事前にパロール用紙って紙に色々書いた。

 これを書くのに、恭弥からもらった、会社名や住む家の住所を書いた手紙も役立てた。


 この面接は刑務官じゃない、保護観察官がするもので、お説教もある。


「被害者の当時の気持ちが分かりますか? 明日を生きるために仕事をしていて、突然その日常が奪われる。それで、加害者であるあなたは平然と生きているんですよ。被害者がどれだけ悔しかったことか」


 恭弥から受けた暴力や言葉に比べると、弱い。この程度で俺の心が揺さぶれるとでも思ってるのか。

 こんな安い挑発に乗って、みすみす仮釈放を逃す奴なんているのか。いるんだとしたら、そいつはどうしようもないな。


「本当に反省してるんですか?」

「はい。被害者の方には、幸せになってほしいと思っています」


 当の本人が許してるらしいし。別に俺はそんなに執着したいわけじゃない。もう過去のことだ。




 更に数か月。本面接といって、同じような面接を受けた。

 そして仮釈放が認められる頃には、刑務所に入ってから4年半が経過していた。

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