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23 明けない夜はない

 番号で呼ばれる生活二日目が終わった。


 午前中に警察署を連れ出されて、青と白のシマ模様のバスで数時間。検察庁に着いた。


 他の人と一緒に同行室という部屋に押し込まれる。鉄格子と小窓があって、中には壁を背にして座る木のベンチ。奥まで座ると背筋が伸びて窮屈だ。

 トイレもあるみたいだ。


 一人ずつ呼び出されて部屋を出ていく。一人が戻ったら次の一人。

 その一人が帰ってくるまでに数十分。硬いベンチのせいで尻が痛い。いったいこの退屈で窮屈な時間はいつまで続くんだ。腰まで痛くなってきた。


 やっと俺の番が回ってきた。移動した部屋は同行室よりも広かった。

 検察官からの取り調べが始まる。


 あっちから質問があって、俺は刑事に言ったことをまた言うだけ。同じことを言うだけで、取り調べが終わった。


 ここにいる全員が取り調べを終えると、留置場に戻されるらしい。一部は残って、裁判所へ向かう。俺はその一部だった。


 同行室を更に小さくしたような部屋で待たされる。意外とすぐに俺の番が回ってきた。

 部屋を移動したら、俺をここに連れてきた警官は出ていく。裁判官ともう一人と俺の三人だけになった。


 裁判官から俺の名前、個人情報の確認がされる。「黙っていることもできる」と黙秘権があることを伝えられる。


 次に、俺が署名と押印した書類を裁判官が読み上げていく。


「何か言いたいことはありますか?」

「……ありません」


 そう答えると、もう一人の男がペンを走らせる。書記だったみたいだ。

 弁護人が選べるとも伝えられた。


 私選弁護人は自由に選べるけど金がかかる。国選弁護人は金がなくてもつけられる。


 俺の勾留が決まった。まだ留置場で生活しなきゃいけないらしい。




 弁護士との面会。俺は弁護士とか知らないし、国選弁護人だ。

 取り調べは俺にとって不利な書き方をされたりするらしい。そのために署名前にしっかり確認して、ちょっとでも違えば署名拒否すればいいらしい。


 そんなこと今更言われたってなぁ……。

 これから起訴が待ってるから、そこでなるべく刑を軽くするためにもちゃんと確認するようにした方がいいだってさ。


 鉄格子の部屋に戻る。

「はぁ……」


 デッドオーバー、いるんだろ。だったら俺を脱獄させてくれよ。ずっと座ってると尻は痛いし、寝るにも床が硬すぎる。


 横になっていると、デッドオーバーが薬を持ってやってきた。例によって体の一部を可視化して。いや、一部不可視化と言った方がいいのか。


「我が来る度、お前の姿は消えている。しかし瞬時に可視化させることで違和感がないようにしている」


 この作業があるから、監視の目を盗む必要があるそうだ。一瞬見えなくなるってことは、光ったようにでも見えるのか。

 まぁ、とにかく常時ついてるわけにはいかないという話だ。


 脱獄なんてして、デッドオーバーと行動を共にし続けるのか。もしデッドオーバーが急にいなくなったら?

 その時は……諦めがつく。諦めて、刑をまっとうする。


 それじゃあ今そうすればいいんじゃないか? 確かに床が硬くて退屈ではあるけど、飯も三食付くし、夜は早い時間から眠れる。


 どうせ出てっても何もすることがない。だったら……こんな俺にも普通に接してくれる人がいる鉄格子の中が、お似合いなんじゃないのか。




 晩飯まで何もなかった。布団に入ったら、電気がついてるのに落ち着いて、すぐに眠れる気がした。疲れてるのかもしれない。


「起床ー!」


 今日も元気な声で目が覚めた。こんな朝早くから起きて、大変そうだな。

 自分も自分で、よく眠れたみたいだ。人って慣れるんだな。


 留置場でも風呂は入れる。運動の時間の後に、三人くらい同時に入る。

 三人は同時に入れる湯船。ここでゆっくりしてると洗う時間がないから、みんなすぐに上がる。


 男共が入った汚れた湯にまみれたままで上がるのは嫌だ。全身を濡らす程度でさっさと上がって体を洗う。石けんとシャンプーは一応用意されてる。


 体を拭くタオルなんだけど……バスタオルじゃなくて、普通のタオル。しかも体洗うのに使った濡れたタオル。絞って拭くんだが、先輩たちは当たり前のように拭いてる。


 汗かいたみたいにじっとりしたままで服を着る。この時期ならいいけど、冬だと寒いだろ……。


 午前中に取り調べがあった。刑事が詳細に情報を聞いてくる。

 でももう話すことも大してない。だからほとんど世間話だ。


 午後になると健康診断があるといって部屋を出された。身長体重と血圧を測ったら、簡単に触診されて終わった。また硬い床の部屋へ。


 デッドオーバーは毎回取り調べが終わった後、監視の目がない時に現れる。なんであいつは俺の声に応えないのに、薬は持ってくるんだ。

 まぁそれで助かってるからいいけど。




 次の日、精神鑑定を受けることになった。簡易鑑定といって、すぐ終わる検査らしい。

 精神科の病院に連れていかれると、席に着いて医者と1対1で話す。


 医者は丁寧な自己紹介をすると、すぐ本題に入った。

 検察官に話した時と同じように、質問を受けて答えていく。

 そして何度も同じ話をさせられる。俺の過去の話はもう飽きたよ。


 医者は黙々と何かを書いていく。まぁ、簡単な検査だし、こんなもんか。


 また次の日には、本鑑定が決まったらしい。弁護士によると、3か月ぐらいかかるし、留置期間は減らない。




 精神科に住み込むことになった。個室の外では警察官が立っている。別に俺はどこにも逃げないっていうのに。

 精神異常者を隔離する施設にぶち込まれて、警官に監視されるなんて。


 どっちかというと、俺が何か異常行動しないかと見張ってるんじゃないのか。まったく、俺は全面的に罪も認めて、逃げも隠れもしてないっていうのに。

 犯罪者だからって、心を無視してるんだ。


 精神鑑定は、また心理テストみたいなのをやらされる。簡易鑑定の時とは違う医者だから、同じテストに同じ質問。本当にもう、うんざりだ。


 たった1回、しかも俺は杏珠にいいように使われただけで、ずっとクソみたいな人生だ。恭弥は俺の心を踏みにじって、人の上に立って、それで平気な顔して生きてる。

 この違いは何なんだよ。


 犯罪者はみんな、すぐ刑務所に入って、刑期が終わるのをただ待つだけだと思ってた。それが実は、たらい回しにされて、雑巾みたいな扱いを受ける。しかもこの鑑定の間、刑期は減らない。まだ刑期すら決まってないしな。


 こんなクソみたいな扱いを受けるなら、最初から犯罪なんてやらない。でもこれは経験してみないとわからないことだ。じゃあ意味ないんじゃないか。

 つらくてどうしようもなくなって、それで自分を保つためにあの女を刺したっていうのに。更にこんな仕打ちを受ける。


 本当に更生なんかさせる気があるのか? 味方のいない俺に、全員が冷たい目を向ける。味方がいない、だったらどうでもいいからって、捨て身の犯罪行為に出る。

 そんなこともわかんないのかな。

 犯罪者以下のゴミばっかりだ。

 そりゃあ、再犯も減らないよ。

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