15 ある男の決意
あのままやり合っていたら俺は負けて、今頃捕まっていたんだろうか。じゃあ、デッドオーバーに助けられたっていうのか。
俺はまた誰かの力を借りて……。
「二人の情事を見ることもできるが、どうする? お前の思い違いかもしれないしな」
いまいましい……他の男に、それも恭弥に抱かれるなんて。
しかし、デッドオーバーの言う通り勘違いの可能性も……?
「クソッ、見てやる」
あの女がどんな風に乱れてるのか、この目で見てやる。
透明になって、恭弥の会社に入り込む。
「なんで私まで巻き込んだの?」
「うるせぇ。こいつがいらねぇのか」
恭弥が百万円と思しき札束を見せつける。
それに杏珠……あの女は服を脱いで応えた。
「いい子だ。ほら、俺に奉仕しろ。この金額ならそれくらいしてもらわないとな」
情事が始まった。これ以上見る必要はない。
「いいのか。最後まで見なくて」
「あんな汚れた女に興味はない。あるとすれば……俺が手にかける時だ」
息苦しい室内から出た。
「どう処理する? 簡単に抹消することもできる」
「簡単に殺したらつまらない。楽になんてさせるもんか。苦しませて、苦しませて……泣き顔を拝んでやる」
「フッ。お前も男になったな」
まずは、朝になったらあの女の家に侵入する。
そのためにまたあいつらを見なきゃいけないのか。まぁいい。これから地獄を見せてやるんだ。
三十分後に見に行ったら、あの女……行為中にケツ叩かれて喘いでやがった。薬なしであれか。
最初は嫌そうにしてたはずなのに、いざ始まれば逃げるどころか自分から迎えに行ってる。
違う男に抱かれるのがそんなに気持ちいいか。マゾ女め。喜んでると思うと尚更イライラしてきた。
「男だけじゃ処理できないんだよ。分かるな?」
恭弥が言うと、男二人が集まってくる。
その後は他の男二人と順番にヤって、ようやく帰るらしい。夜遅くまで男三人と寝て、夜道を一人で歩くのか。
肝がすわってるというか、図太いというか……。
とにかく、俺は杏珠の家に侵入した。
シャワーを浴びてるけど、アソコの洗いは雑なんだな。
他の男のが残ったままで俺に会ってたっていうのか。不浄な女だ。
もう寝るみたいだな。
今日はもう眠るか。詳しいことは明日考える。
翌朝。
「我が拷問メニューを考えてやったぞ」
デッドオーバーが俺の前に現れて、提案をしていく。
・杏珠を縛り付け、恭弥の前で犯す。
・杏珠を亀甲縛りにして、街を歩かせる。
・バイブを仕込ませて、職場に送り込む。
「へぇ。全部いいな。でも、拷問っていう割に優しいんだな」
「なに、ここにお前のフレーバーを足すんだ」
朝の吸引。
しばらくすると効いてきた。
「来た来た。思い付いたぞ。あの女を苦しませる方法が……!」
「いい顔だ。ワルに染まってきたな。フハハ……」
俺は杏珠の部屋に来た。丁度着替えをしているところだ。形のいい乳が俺をたぎらせる。
見ていれば電話をして、服をめくりだした。
女の顔をして、電話相手に乳を見せつけている。この淫乱女……! ここまで落ちぶれていたとは。
「うん。分かった」
聞こえてきた声は、あの時俺を誘った声と同じだった。
そうやって誰彼構わず甘い声で誘ってるのか。
俺は女を知らない童貞野郎だって、そう言いたいのか。
教えてやる。俺の、男の恐さを。
家を出る女の後をつけていく。まだ相手は見えてこない。ここらで一発入れるか。
適当な曲がり角へ先行し、透明化を解除する。そして、そのまま歩いて杏珠の前に出る。
「えっ……」
ぷっ。杏珠の奴、驚いた顔してやんの。「なんでここに?」とでも言いたそうだな。
偶然を装ってと。
「ここ通るんだ……どこに向かってたの?」
「……関係ないでしょ」
それだけ言って、また歩き始めた。俺は再び透明になる。
「ぶはっ! あの女、俺に後をつけられてるとも知らずに!」
「ハハ、おもしろい。追跡を続けるぞ」
「うるせぇ! 言われなくてもやるつもりだったよ!」
「フッ。ああ、悪かった」
相手の男が見えてきた。その辺にいそうな普通の男だ。
杏珠は貼り付いた笑顔を見せて、小走りで近付いていく。
男の二の腕に抱き付いて、歩き出す。
「フー」
息を吹きかけてみたが、全く届いていないようだった。
「我の力を侮るな。お前の吹く息だけを現実のものとすることができる。他に、望んだ部位にも適用してやるぞ」
「はは、いいな」
スカートを履く女の脚に軽く息を吹く。
さすがにこれは違和感を感じないらしい。それじゃあ、今度はスカートをめくる。
「きゃっ!」
杏珠は短く叫んでスカートを押さえた。男の方は心配して「どうした?」なんて声をかけている。
男の前だからって高い声でアピールしてるんだな。まだ意識する余裕があるってことか。
さて、その余裕がどこまで保てるか試してやる。
「今日の、すごくキたよ。今回は僕の家でいいんだっけ」
「うん。約束でしょ?」
杏珠は上目遣いで返事をした。
誰も見てないからって、色んな男に色目使ってるんだな。本当に見境のない女。金のためなら簡単に自分を売るんだ。
そこに愛なんてない。
ついていった先には屋敷があって、二人で入っていった。ここが男の家? こんな男に気に入られてるなんて。憎たらしいが杏珠は体がいいからな。
服を脱いだ二人はだだっ広い風呂に行った。男は杏珠の体を撫で、後ろから抱きつくだけだった。
女の体が目の前にあって、触るだけなのかよ。もう何回も交わって飽きてるんだろうな。
風呂から上がった二人は、下着姿でベッドへ移動する。適当な話をしてから本番を始めた。
俺はその間に男の家を物色する。部屋が多すぎて落ち着かない家だな。高そうな物はあるかな。
金の仏像か。売ればいい値段がしそうだな。でも俺は金には困っていない。これは一時的に俺が持っておく。
「デッドオーバー、手袋はあるか」
「ああ、あるぞ」
俺もそんなに甘くない。指紋は付けないようにする。
他にも、刀が飾ってあったから武器としてもらっておく。
行為中の杏珠にこっそり触っていたら、喘ぎ声がでかくなっていった。
「いつもより激しかったね。どうしたの?」
「んっ、気持ちよくて。最近あんまりシてなかったからかな」
怪しむどころか嬉しそうに話す男に、杏珠は口から出任せを言った。
まるで違和感がない。いつも嘘をついているから慣れているんだ。
俺はこの口に騙されたんだ。許せない。絶対に復讐を遂げてやる。
服を着た二人。昼食は出前の寿司だ。
俺は二人の食べる姿を見ながら、デッドオーバーが用意したおにぎりを食べる。惨めだ。
俺はたった一人の女に翻弄されて、人生の全てを復讐に捧げようとしている。たかが売女ごときに付きまとって、壊そうとしてる。
こんなストーカーみたいなことをして、それでいいのか。他にするべきことがあるんじゃないのか。
こんな何もない俺が、フラれたくらいで他人の人生を壊してもいいのかよ。
生まれてから、大きなことをしたこともない。何もない……。
「太陽、どうした?」
デッドオーバーの声だ。
「どうって、何だよ」
「今更後悔しているのか? 涙を流して」
悲しむことだってないのに、俺は泣いているのか。
「ほら、これで拭け」
デッドオーバーに渡されたハンカチで涙を拭く。このハンカチ、いつも嗅いでるにおいがする。このにおいを吸うと、なぜだか落ち着く。
俺の前で、男女が笑っている。杏珠が、楽しそうにしている。
俺がこんな惨めな思いをしているのに、この女は心の底から笑っている。
俺を裏切って、ぶっ壊して、ヘラヘラと笑っているんだ。そうだ、この女の目的は金。こんな女に何を遠慮することがある?
心がない奴に制裁を。俺をこんな気分にさせた女に制裁を!
「落とせ……」
落とせ。地獄に……引きずり込んでやる!




