13 最初の一回
目が覚めたら朝食。そこで気付いた。働く必要もないし、何もやることがないんだって。
適当に入った店にゲームがあった。買ったゲームで時間を潰す。
午後三時。炙った草の煙を吸う。昨日と同じ時間に、同じキャバクラに寄る。
杏珠ちゃんがいる。でも他の客の相手をしているみたいだ。
杏珠ちゃんを指名する。
「あ、今日も来てくれたんだ」
甘い香りが漂う。胸元が強調されている。
「今日はさ、いっぱい飲んでよ」
「え? お給料入ったの?」
「実は……株で大儲けしました!」
「すごーい! 太陽くんって見る目があるんだね〜」
「俺の鑑識眼をなめるなよ?」
また酒を飲む。杏珠ちゃんは俺のそばから離れなかった。
「ねぇ杏珠ちゃん。今度の休みはいつ?」
「明日休みだよ〜」
「じゃあ明日デートしよっか」
「……うんっ」
襲ってきた眠気に身を任せる。
また起きた時には、外は真っ暗だ。会計は十万もいかなかった。所持金にはまだ余裕がある。
彼女、か。彼女といえば金がかかると聞く。今の所持金じゃ足りないかも。俺はバッグを買いに行く。
デッドオーバーと再会し、コンビニを襲う。前回は扉が不自然に開いたけど、運良く怪しまれなかった。
今回は客が入るのに合わせて侵入。
前回と同じ方法で、新品のバッグに入るだけ、金を詰める。持ってコンビニを出るんだけど、札束って重いんだな。
さて、この金だが……。持ち歩けば不審だし、ホテルに置いていくのも心配だ。
「見つかると面倒だろう。我が預かるぞ」
「……」
こいつに渡していいんだろうか。
「我が、お前と同じように人間の道具を使うと思うか?」
「……それもそうだな」
重いし、預けるとするか。デッドオーバーに金の入ったバッグを持たせると、闇に消えた。すぐに出てくると、バッグはなくなっていた。
「どこに置いたんだ?」
「いつでも取り出せるぞ」
そう言って手を伸ばし、空中でバッグの持ち手だけを引っ張って見せた。
異空間にでも置いてきたってことか。
用事は済んだ。今日のところはこれで終わり。ホテルで眠る。
約束のデートの日。時間になったら、杏珠ちゃんに会いに行く。もちろん事前に草の煙を吸う。
店に入ると、杏珠ちゃんが腕を抱いてくる。
「待ってたよ」
「行こうか」
二人だけで、店を出る。
「えっと、このあと何しよっか」
「決めてないの?」
「あぁ、いや。映画……とか?」
「えー、退屈ー」
「……だよね」
「でも、太陽くんとなら、いいよ」
特に見たいものもないし、適当にチケットを買った。
バカでかいスクリーンに、バカでかい音声。
ぼーっと見ていたら、杏珠ちゃんに手を握られた。手繋ぎから腕組みに変わって、俺のズボンに触れた。
「あっ、ちょっと……」
「シー」
人差し指を自分の唇に当てて、静かにしろのポーズを見せてくる。
いや、この状況で声を出すなというのは……。
杏珠ちゃんの手が、ポケットに入れられた。しばらくすると、手が服の下に潜り込んできた。
「あっ……」
あったかい。駄目だ、興奮するなという方が、無理。そのまま腹をまさぐってくる。
俺は立ち上がって、トイレに行く。この気持ちが治まるまで。
まだ早いだろ。初デートで、そこまでの関係に行くなんて、そんな上手い話があるか。
鎮まったところで、トイレを出る。出てすぐに、杏珠ちゃんが待っていた。
「大丈夫? お腹痛いとかない?」
「あぁ、うん。大丈夫だから」
映画館はもういい。
「さっきの、面白くなかった……よね?」
「そうだね」
次はどうするか。
「ねぇ、私温泉に入りたいな」
「……いいね」
シャワーで済ましてばっかで、久しぶりの湯船になるな。
男湯と女湯に分かれて入る。ただ願いを叶えてるだけだな。まぁ、彼女ってのはそんなもんだろ。
かけ湯してから入れって貼り紙に書いてたから、そうする。
先客がいなくなったタイミングで、あの男が出てきた。
「まだ様子見しているのか」
「こんなところまで追ってくるなよ」
湯気に紛れて、デッドオーバーが浮いている。
「あの女、お前に気があるんじゃないのか」
「どうだかね。売女だから仕事なんじゃないの」
俺みたいな何もない男に……いや、今の俺には金がある。
「女体に興味がないのか」
「他の客に見つかりでもしたら……」
俺はこいつのお陰で誰にも見られない。今なら覗き見し放題じゃないか?
いや、俺はそんな低俗なこと……。
二度と俺を好きになる女はいないかもしれない。
「一回だけだ」
デッドオーバーを連れて、高い仕切りの前に立つ。デッドオーバーが触れた場所に、穴が開く。
そこから女湯を覗く。
「いた」
杏珠ちゃんと、他の女性客もいる。でかい尻を丸出しで歩いている。見られているとも知らずに。
湯船に入る杏珠ちゃんが腕を動かす度、胸が変形している。あれが女のおっぱいか。柔らかそうだ。
覗き込んでいると、仕切りにトンネルのような穴が開いた。見るだけじゃなくて、触りに行けってことか。
「気をつけろ。お前から触ると、相手に勘付かれるぞ」
それじゃあ、あっちから触ってくるのはいいのか。
俺はまず杏珠ちゃんの前に座る。湯は濁っていて胸から下が見えない。杏珠ちゃんの体を、一瞬触ってみた。
反応がない。気付いてないみたいだな。それならこれでどうだ。杏珠ちゃんの腰に手を回し、撫でる。
少し驚いたみたいだが、やっぱり気付いてない。
杏珠ちゃんが温泉を上がって、脱衣所へ行く。俺も戻らなきゃ。
男湯でデッドオーバーと別れた。仕切りにあったはずの穴は塞がっていた。
服を着て外に出たら、杏珠ちゃんと合流。
「あっ、いたいた。帰っちゃったかと思った〜」
「ちょっと長風呂しちゃったかな」
「えへっ」
俺の手を、細く温かい手が取った。
「私のわがまま聞いてもらったから、次は太陽くんの好きにしていいよ」
誘ってるのか?
「……本当にいいの?」
「うん。私たちって……もう、付き合ってるみたいだよね」
杏珠ちゃんは俺の前に立って、そう囁いた。
シャンプーの香りが漂っている。少し水分が残って、湿っている髪が色っぽい。
俺たちは、いつの間にか密着していた。
「あっ、ごめん。つい」
「っ……」
杏珠ちゃんは顔を赤くしていた。
二人で歩いて、ホテルを見つける。怪しい電飾のホテルだ。受付を済ませて、部屋に入る。
初めて見た。巨大鏡と巨大ベッド。
杏珠ちゃんは服の端から下着をチラつかせ、ベッドに座る。俺はその隣へ。
「ねぇ。男と女、二人だけで、何が始まると思う?」
「それは……」
やる事は一つしかない。杏珠ちゃんは、俺を求めているんだ。
「太陽くんの愛で、私を満たしてほしいな」




