11 確かな感覚
潤が家に来ていた。
「昨日のことは気にしてないよ」
「俺は最低な野郎だ。君を見てると本当にそう思う」
「まだ話す準備ができてないのかな。ごめん。じゃあ俺は帰るよ」
帰り際、潤は棚にぶつかった。
「これは?」
落ちた物を触って言う。
「っ……! それはっ!」
俺は慌ててそれを取った。
「大事な物?」
「あぁ、うん。そんなとこ」
「そっか。じゃあね」
目がほとんど見えていない潤は、納得して帰っていった。ここに置いてたのを忘れていた。処理しないと。
翌日になると、今度はカフェの店主が来た。
「今日はどうしたんですか?」
「いやぁ、普段世話になってるからさ、お祝いにと思って」
そう言ってワインをテーブルに置く。
「俺、酒は飲まないんですよ」
「そんなこと言うなって、お前ももう二十歳だろ」
他愛のない話をして店主は出ていった。
更に翌日、俺はカフェの前を通る。何やら人が集まってる。何かあるのか? 気になって近付いた。
「来たぞ」
「お前……悪いことは言わない。犯罪には手を出すな」
「え? 何のことですか?」
「足を洗ったらここにいていい。でもやめないようなら……悪いんだが」
まさか、バレた? いやそんなはずは……。
「明日また家に行く。その時までにやめるんだ」
カフェを離れて、その日の夜、俺はあれを持って外に出た。この場所を覚えておこう。土に埋めたら帰る。
約束の日、店主がやってきた。
「俺を疑うんですか? 俺は何もやってません」
「そうだな、確かに怪しいものは何もない」
「ですよね」
その時潤も家に入ってきた。
「俺、実は見たんだ。目の見える友人に確認してもらった」
潤は手に持っていた物を見せる。それは土が付いた、乾燥した草が入った小袋だった。
「太陽が、何か埋めてるとこ」
俺はその場に崩れた。
「もう、言い逃れはできないな。悪いんだが、他の人に悪影響だ。出ていってくれ」
二人は俺を置いて帰っていった。
もう終わりだ。いや、終わらないんだ。家を失って、ホームレスとして惨めに霞を食って生きていくんだ。
今日中に支度を済ませる。翌日にはまた店主が来て、出て行かないと警察を呼ぶと言われた。
餞別として一万円渡され、俺はこの家を後にした。
しばらく歩いて、とりあえずホテルに泊まる。
日中は指示された場所へ葉っぱを運んで金を受け取る。
夜には販売人に会う。タバコを吸うスーツの男は葉っぱを入れた小袋を出す。
「……」
「どうした。受け取れ」
「俺、大切なものを失いました。それもこれも、こんな仕事始めたからだ」
「いいのか? 辞めれば稼ぎがなくなる」
「こんな物なければ……」
「家を追い出されたんだろ。それでホテルに泊まってると」
「っ、なぜそれを……」
「嫌なら辞めればいい。お前の代わりはいくらでもいるんだ」
結局俺は小袋を受け取った。
ホテルに戻ったら、小袋をライターで燃やした。これが大麻のにおいか。くせぇ。
こんなんで何か変わるのかよ。どうせやることもない、もう寝よう。
また次の日の夜に販売人に会う。
「依頼したものが届いてないそうだ」
「……」
「捨てたか? まぁいい」
小袋を受け取ると、もう一つ取り出してきた。
「念のためもう一つ渡しておく」
二つ共受け取って帰る。今度は日中に燃やした煙を吸った。特別いいにおいでも効果があるわけでもない。
吸引から一時間ほどか。なんだか全身の代謝がよくなって、体が軽い。これなら何でもできそうな気さえする。
それから俺は大麻にはまっていった。支払いが自己負担になってもやめられなかった。
忘れられないんだ、あの感覚が。こんな俺でもここにいていいと思えるのが。




