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1‐6 解説なんて要らないだろ。

 ――あれ……あれから部室で寝てたのか……。

 ぼやける目を擦り、辺りを見渡し状況確認すると、


「っ!?」


 目の前に黄谷が座っていて、こちらを見つめていた。


「わっ、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんで……だひょも!」


「……さっきのままでいい」


「あ、そうですか……」


 しゅん、とする黄谷。いつものキャラが戻っているという事は元気を取り戻したようだ。

 俺は固まった体を伸ばし、大きな欠伸をした。

 窓を見るともう外は夕暮れで染まっていた。時計を確認すると針は17時18分を指していた。もうとっくに部活動終了時間を過ぎているな。勿体無い……。

 というか、


「なんでここに居るんだ? 用があるなら起こせば良かっただろうに」


「気持ち良さそうに眠っていたので、起こしちゃうのは悪いなぁ……と思いまして。起きるのを待っていました」


「それは悪かったな……って、いつからいたんだ?」


「16時前くらいでしたかね。試験が終わった後に、ちょっと用事を済ませてからすぐ来ました。一旦連絡をしたんですけど、返答が来なかったので、そのまま来ちゃいました。そしたら、文空君がいたので……」


「1時間も待ってたのか……」


 あまり起こされるのも好きじゃないし、その配慮はありがたいが、1時間も黄谷の前で寝ていたという事か。マヌケな寝顔を存分に見られたんだろうな。


「あの、では、改めまして……資料の件の方はありがとうございました」


 そう言って黄谷はぺこりと頭を下げた。


「俺なんかに頭を下げないでくれ」


「いいえ。この資料が戻ってきたのは文空君のおかげなんです。なんてお礼を言ったらいいか……」


「別に大した事はしてねぇって」


 裏では大した事をしてたが。


「そんな事ないです! 私一人じゃどうしようもなかったのに、それを解決しちゃうなんてやっぱり文空君は凄いです!」


「だからそんな大した事……」


 ん、やっぱり?


「文空君なら――」


 黄谷が何かを言いかけた瞬間、耳を劈くような破裂音を響かせ扉が開けられた。


「おいっ文空っ!! よくもこんな汚れ役を押し付けてくれやがったな糞野郎!!」


 うるさいなぁ。


「お疲れさん、どうだったよ?」


 俺は英雄の帰還を労う。今開放されたのか。馬鹿みてえだな。


「お疲れさん、じゃねーよ! というか、何かこむちゃんと二人きりでいい感じになってるんだよ! ぶっ飛ばすぞテメェ!」


 キレるとこそこかよ。


「まあ、そう怒るなよ。引き受けるって言ったのは自分だろ? 英雄さんよ」


「うるせぇ! まさか、こんな時間まで拘束されるなんて思ってもなかったんだよ!」


「ドンマイ。まぁ過ぎたことじゃないか」


「そんなんで許すかぁ! 全然反省してないだろ!」


 する訳ないだろ。早く帰ればよかったと後悔はしているが。


「瑛介君、怒らないでください。文空君は私の為にしてくれたんです。攻めるなら私を攻めてください」


「いや。当然の事をしたまでさ! 気にしないでくれ!」


 切り替えが早すぎだろ。


「まぁ、一度落ち着いて座れよ……」


「椅子が無いけど?」


「…………」


 そうだったわ。


「譲れよ?」


「やだよ。ならさっさと帰れ」


「すみません。私が勝手に座ってしまったせいで……」


「いいや、僕の事なんて気にせず座っていてくれていいから」


「ですけど……」


「ノープログレムさ」


「それなら、お言葉に甘させてもらって」


 変態め。黄谷が帰った後に舐め回しでもするんだろう。


「それで……文空君。聞かせてください。どうして私の資料は返ってきたんでしょう? あの2回目の放送はなんだったんですか?」


 ふと思い出したかの様に黄谷が問う。

 まずい。これは面倒事の匂い。


「すまないが、もうこんな時間だ。帰らないと……」


 俺は立ち上がり、自分のバッグに手を伸ばそうとしたが、瑛介に腕を掴まれ阻止される。


「あそこまでさせたんだ。せめてしっかり説明くらいしてもらわないとね」


「離せ。これから用事があるんだ」


 せっかくいい感じに締まったというのに。


「はいはい、寝るのは用事にならないからねー」


「俺からすれば大切な用事なんだよ」


 睡眠を冒涜するのは許さん。


「さっきまで寝てましたよね?」


「ほう……僕が大変な思いをしている間に、随分と呑気なものだねぇ……」


 瑛介の腕を掴む力が強まる。余計な事を言いやがって。

 二人の視線が俺へと向く。はぁ……面倒だが、説明しなきゃ帰れそうもないな。

 しゃあないなぁ……渋々俺は椅子に掛け直す。すると瑛介の拘束も解けた。



 ――そんな訳で過去を振り返る。


「寒い中待たせて悪かったな」


 あの後、一旦黄谷を廊下で待機させた。瑛介とだけで軽い打ち合わせをしたかったからだ。そして、黄谷にも僅かだが役割がある。


「いえいえ。それで、町田君が凄い勢いで飛び出して……」


「気にするな。それよりも連絡先を聞いてもいいか?」


「えっ、あ、はい。分かりました。それじゃあ、ふりふりで……」


 ふりふりってなんだ……。というか、それ自分のスマホじゃねーか。アイフォンの方のチャットアプリのつもりだったんだが。

 いや、そうか。アイドルは普通科生徒との連絡先交換は禁止だったな。だから自分のスマホなのか。アイフォンだと学園側にバレるリスクがあるしな。

 自己完結を済ませながら速攻でふりふりをググり、準備を終え、互いにスマホを振り連絡先の交換を終える……ん、なんだこの怪獣のアイコンは。

 そして、無事人生初の家族以外の女の連絡先が登録される。


「よし、それじゃあ行くぞ」


「何処へ向かうんですか?」


「放送室だ」


「えっ!? 誰にも知られたくないって……」


 この作戦は校内放送を利用する。それを黄谷は窃盗について放送してしまうのかと思ったのだろう。


「安心しろ。そこんとこは抜け目なく考えてある」


「……分かりました」


 やけに素直だな。スムーズに進んで助かるが。



          ☆



 部室から放送室まではそう遠くなくすぐに到着した。

 扉をノックし中へ入ると、中には放送委員の生徒が1人いるだけだった。先輩だが、これならやり易い。

 俺はその先輩に声を掛ける。


「あのー、すみません。アイドル新聞部の者なんですけど、この黄谷にお願いしていた資料を本人が無くしてしまったみたいなんで、校内アナウンスで届出の呼び掛けをしたいんですが」


 黄谷を連れてきたのは今の言葉に真実味を与える為だ。


「はい。そういう事なら是非」


 物分りのいい人でよかった。堅苦しい奴だと詳しい事情などを追求してきただろう。


「それじゃあ、自分がアナウンスさせて貰ってもいいでしょうか?」


「えっ……はい、分かりました」


 何故って反応だが、すんなりと了承してくれた。拒否されても放送内容を指示すればいいのだが、面倒なので助かった。この調子でいけば早く事が済みそうだ。

 先輩は自分の座っていた席を立ち、俺はその席へ座る。生暖かくて気持ち悪い……。


「この放送はアイドル科まで聞こえますよね?」


 アイドル科まで聞こえないと意味がないので聞いておく。というか、アイドル科以外に届ける必要がない。


「はい、大丈夫ですよ」


 先輩が指差した先に、アイドル科と書かれたテープの横のランプが点灯していた。


「このボタンを押したら放送できます。で、切る時はもう一度押してください」


 こちらの目論見も知らずに親切に教えてくれる先輩。少し罪悪感が沸いてくる。

 だが、この行動は人助けの為だ。悪い事をしているのではない。そう言い聞かせ一度息を吐く。

頭の中で台本を整理し、指定されたボタンを押すと、お馴染みのキンコンカンコーンの後にマイクのノイズが響く。

大丈夫だ。頭に描いた通りに言えばいいだけ――


『えー、アイドル科1年の黄谷かこむの資料をお持ちになっている生徒は、至急、黄谷本人、または、アイドル新聞部の部室まで届けてください。繰り返します――』


 用件を述べたので、ボタンを押し放送を切る。

 ふぅ……緊張したー。大事なことだから2回言ったぜ。

 俺がわざわざこんな役を引き受けたのは、この放送委員の人に頼んだらこの放送の効力は薄まってしまうからだ。

 少し不自然な内容だったが、ギリギリ落とし物と捉えられる放送だったろう。


「ありがとうございました。助かりました」


 俺が礼を述べると、黄谷も続けてペコリと頭を下げる。


「いえいえ、また何か困った事があったら、いつでも言ってください」


 ここまで紳士的なのは黄谷がいるからなのだろうか。視線も俺を捉えていないし。


「それでは失礼します」


 そう告げて俺達は放送室を後にする。

 すると黄谷は溜め込んでいた物を吐き出すかのように、


「あの、あんな放送で返してくれるんでしょうか?」


「いや……これだけじゃ無理だろうな」


 当然犯人がこんなんで渡すとは微塵も思っていない。ここから瑛介に与えた役割が重要になる。


「じゃあ、どうして……」


「まぁ、それは後で説明してやる。お前はもう自分とこ戻っていいぞ。後は俺に任せろ。資料についても後で連絡する」


「え、もういいんですか?」


「ああ。ただ、もうトレーニングルームやロッカーには近付くな」


「……分かりました。では、失礼します」


 律儀に一礼をして、黄谷は去っていった。その表情に先程までの不安な様子を感じられなかったのは気のせいだろうか。

 して、俺はまだ部室には戻れない。ここでやる事がまだ残されているからな。

 その時が来るまで窓から外の風景でも眺めてるか。放送室にはまだ用があるからな。

 窓を開けて腕を置いてゆったりと眺めようとするも、寒気が顔を撫で速攻で閉める。

 ……にしても、さっきの黄谷のキャラは衝撃的だったな。まさか敬語を使えるだなんてな。

 あの黄谷のままで活動するのであれば、俺は普通に応援してしまうかもしれない。

 それだけ、あの黄谷はインパクト絶大だったし……いや、そう在り続けてほしいだけか。

 明日からはまた通常営業で、あのぶっ飛びキャラへ元通りか。はぁ……憂鬱。


 そして数分後。目的の物を確認できたので、再び放送室を訪れる。



 ――これが俺の打った手。


「で、その後、帰る訳にもいかないからそのまま寝たって訳だ。以上」


「以上じゃねぇよ! 大事なとこ丸々抜けてるじゃねぇか!」


「そうです! 私が知りたいのは2回目の放送についてです」


「……表面上で起きた事で大体判断付くだろ」


「分からないからお聞きしてるんです。内容は確か……『1年、町田瑛介君。警察の方がお見えになりました。至急東口校門までお越しください』――みたいな内容でしたよね」


「よう覚えとるな。そうそう、確かそんなんだったな」


 俺がする必要もないから放送委員の人にやって貰ったんだよな。

 にしても、ここまで分かってて意図が読めないなんて、本当に純白人間なんだろうな。


「ふんっ。文空が口を割らないっていうなら僕が説明するよ」


「いや、もうとっくに部活動終了時刻だしーー」



 ーーそんな俺の抵抗もどこ吹く風で瑛介の状況再現が始まる。



 確かあの時、俺の取り返せるかも〜、なんて自信なさげの発言に対し、


「それは本当かい!? さっそく聞かせてよ!」


「……あ、いや。やっぱり嘘だわ」


 俺はあえて分かりやすい嘘を付いた。


「この期に及んでまだそんな事抜かすか、甲斐性なしめ」


「だって、このやり方は面倒臭すぎるし……」


 これは本当だ。面倒臭いのだ。正確には面倒な役が存在する。


「分かった。なら僕がその面倒な役割を引き受けるよ! それでいいだろ」


 待ってました。その役を瑛介に引き受けさせるのが狙いで鎌を掛けたのだ。


「本当だな?」


「ああ。だから早く言え!」


 よし、確かにやると聞いたからな。時計を確認すると、黄谷の試験まで残り50分程度。時間が押してるな。


「しょうがない。だがその前に、黄谷は外で待っていてくれないか。ちょっと黄谷がいると話しにくい事なんだ」


「……わ、分かりました」


 理由を問いたそうだったが、聞き入れてくれた様だ。このやり口を聞いたら確実に俺達を止めるだろうからな。

 黄谷が部室を出てのを確認し、さっそく作戦の説明に移る。


「よし、それじゃあ瑛介……」


 色々と大変な役だが、引き受けてくれるだろうか。


「おう! なんでも言ってくれ!」


 気合充分だな。これは期待できそうだ。


「じゃあ、学校を出た先でひったくりに遭ったって警察に通報してくれ」


「なんでッ!?」


 ほら、やっぱりそうなる……。


「そりゃ、校門の前となるとカメラが付いてるし、目撃者も多数になるだろ」


「そうじゃないよ! なんでわざわざ警察なんて呼ぶのさ。しかも、この件と全く関係ないじゃないか!」


「済まないが時間がない。説明は後だ」


「いやいやいや。そこはちゃんと説明してくれよ! そんなイタズラをしたらどんな罰が待ってるやら」


「ふむ。そうだな……部活に必要な機材かなんかを買出しに行く途中、バイクに2人乗りしてる輩にアイフォンをぶん取られました。追いかけていったところ、そのアイフォンは道端に捨てられていました。これなら疑われる事もないだろう。お前はただの被害者で終わる」


 アイフォンは学園の外を出ると、情報の漏洩を防ぐ為ロックが掛かり操作できなくなる様になっている。なので価値がないと判断され捨てられても何らおかしくはない。


「そうじゃないよ! もっと根本的な部分をだよ!」


 そう熱くなさるなって。まぁ、普通はなんの説明も無しに、こんな汚れ仕事押し付けられて引き受けよう、だなんてならないだろう。

 そう。普通の奴ならな。


「お前はアイドルの未来よりも、己の保身を優先する男なのか?」


「行ってくる!」


 流石アイドル基地外。さっきも肩書きがどうとか言っていたが、アイドルよりも自分が可愛いだなんて、こいつのプライドがそれを許さないだろう。


「それと、東口の校門に呼んでくれ。でもって、警察が来たらこちら側から伝えるから、それまでは駆け付けずに待機しててほしい。後の細かい辻褄合わせとかはそっちで上手い事やってくれ。頼んだぞ」


「了解! 僕を英雄にしてくれてありがとう相棒! それじゃ」


 そう言って瑛介は飛び出していった。頼もしい奴だ。



 ーーこれが事の全貌。


「以上が僕の活躍さ!」


 何故か得意気だがお前も共犯だぞ。それも実行犯な。さながらこいつが説明を要求したのはこの事を知ってほしかったからなのだろう。


「えっと……まさかですが、本当に瑛介君は警察を呼んだって事ですか?」


 顔が引きつっている。まさか本当に呼んだとは思っていなかったのだろう。


「いやそれは嘘ーー」


「事実だよ! この時間まで拘束されてたのが何よりの証拠だよ!」


 瑛介が即答する。そこは嘘と……いや、学校でニュースになるだろうし、後にバレるか。


「そんなぁ……わざわざそんな事の為に警察を呼んだんですか!?」


「バレない様に上手く立ち回って貰ったから大丈夫だ」


「そういう問題じゃありません! 私はてっきり嘘の放送をしたのかと思ってました」


 あー言わんこっちゃない。


「だから私を外で待たせたんですね……そんな事するなら絶対止めてました……」


「さーて、話を戻そう」


 まぁ、この話は流そう。

 未だに黄谷は結論に辿り着いてなさそうなので説明をしてやろう。ここまで話したならもう隠す事もないし、さっさと話すのが帰宅への最速ルートだからな。


「え、ちょっと待ってくだーー」


 何か言いたげな黄谷を振り切り続ける。


「2回目の放送の放送についてだったな。瑛介が呼んだ警察が来たという放送」


「それを聞いた犯人は焦ったろうね……」


 瑛介が取り次いでくれた。これで黄谷も言及できないだろう。


「ああ。犯人は1回目の放送で黄谷がアイドル新聞部に相談したと認知したからな。で、2回目の放送で瑛介が警察を呼んだとなれば、黄谷の資料のことで通報したと結び付けるだろう」


「警察沙汰ともなれば、最悪退学になりかねないからね。折角この学園に入学したのに退学だなんて絶対に避けたい筈。流石は文空、性格が悪い」


 一言余計だがその通りだ。輝かしい将来が確約されているアイドル科の恩恵をみすみす手放すような真似はしたくはないだろうからな。


「警察が介入するとなれば、ロッカーの指紋を取ったり、本格的に捜査する可能性もあっただろうから、不安が広まってくばかりだったろうな」


 資料ごときで。と思うかもしれないが、この学園ならそれをやりかねない。

 なんせ、アイドルは宝だからな。この学園にいる人間ならそう驚く事ではない。

 故に、犯人が実際に警察が来たと聞いた時は精神的にも相当追い詰められていた筈だ。


「成程。そういう事だったんですね…………」


 ようやく意図を理解した様だ。この鈍さがなければ、この事件も防げたかもしれないな。

 そんな黄谷は何か考え込んでいる様子。単純に俺の行動に引いてるのか、それとも。


「それで、犯人はどうやって資料を返してきたんだい?」


 瑛介はその部分を知らないから気になっていたんだろう。


「最初に入れていたロッカーの中に入っていた」


「はい。2回目の放送から10分程経過した時でしょうか、文空君からロッカーを確認してくれって連絡が来まして、ロッカーを見てみたら中に入っていました」


 犯人があの状況下で考える事。それは何もなかった事にしたい。だろう。

 その為には資料を返さなければならない。資料が戻ってきてさえいれば、深い詮索をする可能性は大幅に低減するだろうからな。

 だが、直接返すなんて馬鹿な真似はしない。

 なるべく自然に、かつ、確実に見つけるであろう場所に置くと読んだ。で、見事にそれが的中。


「へぇ……よくロッカーに戻すって分かったね」


「自分ならどうするかで考えたら自然とそこだろうと思った。ロッカーに無かったら、ありそうなところを片っ端から探してもらう予定だった」


 正直、すんなりといき過ぎて驚いている。もっと色々な場所を探すだろうと思ってたし、別に黄谷本人が見つけなくてもいい。他人に見つけさせ、黄谷に渡してもらうなど、その方法は様々。

 なんなら逃げ切る、という選択肢だってあった。指紋まで調べるような捜査をする確証はないからな。だがその為には、日々いつバレるか分からない、という大きなプレッシャーに耐えうる強靭な精神が必要になるがな。


「相手の思考が読めてしまうなんて、エスパーみたいですね」


「文空はそういう類いの人間の思想に近いから波長が合うんだろうね」


「やめてくれ」


 だが、そこは否定できない。自分が普通の人間と違うというのは自覚しているし、黒い思想があってこそだろうからな。


「そんな事ないですよ! 確かに正当なやり方とは言い難いですが、元は私の資料を取り戻す為ですし、文空君は優しい人です!」


 本当にこいつは純白人間だな。まるで黒色が見えていない。だから陥れられるんだ。


「でさでさ、東口に呼んだのはアイドル課に近いからで合ってる?」


「ああ。実物のパトカーを見りゃ焦りが増幅するだろうからな」


 続く様に黄谷も、


「ロッカーの周辺には近付くなって指示を出したのは、私にいられると犯人は置きにくいからだったんですね」


「そういうこった」


「ははは。こんなクレイジーな発想が浮かぶなんて、やっぱり文空は面白いね」


「全部明らかになってスッキリしました……ですが、やっぱり警察の方を悪戯で呼ぶのはいけません。いくら取り返す為とはいえ、限度という物があります」


「そうだねぇ。常識的に考えて有り得ないね」


「…………」


 限度? 常識? お前らはそれでいいのか?

 このやり方をしなかったら資料は取り返せなかったんだぞ?

 お前らはこれからも自分が理不尽な目に遭おうとする時も、そんな限度や常識に篭って、それを受け入れるのか? しょうがないと言い聞かせながら生きてくのか?

 成程な。それが社会に順応してくって事か。


 なら俺は社会不適合者でいい。

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