3章4‐1 そこは仲直れよ。
――舞台は代わり、府中競馬場。正門前。
一人の男がいた。清々しいくらいに足取りが軽い。同時に頭の中も軽かった。描いているのは帰路のみ。思考の再開は自宅でしよう。それまでは何も考えない。足を前に出すだけでいい。
年齢27歳。会社員。特技などはなく、趣味は貯金と家での海外映画ドラマ鑑賞。休日はそれか高校以来の友人と遊んで過ごす。自分から遊びに誘うことは滅多になく、誘い待ちが基本。故に独身。
彼には座右の銘という程でもないが、心に染みついた信条的な物があった。
それは『人生は必ず収束する』というもの。悪いことがあっても良いことがある。逆もまた然り。幸、不幸は最終的に平等に収束する。
彼の人生体験の中で特別を探した結果、次第にそれが信条となっていた。
特に欲も持たず、アラサーに手を掛けるまでに至った彼は、気付けば趣味の貯金はその額、500万円を越えていた。このままらせて眠らせておくのも勿体ないしと、その使い道を上司に相談してしまった。それが悲劇の始まり。
無欲な人間なんていない。ただ知らなかっただけ。一度味を知ってしまったら、その刺激からは早々に抜け出せるものではない。
それは恋のようなもので。数多の知識を身に付け、分析を重ね、仕事中もそのことで頭が一杯になる程に焦がれた。
しかし、その練磨の中で、結局彼は最後まで気付くことができなかった。
賭けにおいて、収束を求めることがどれだけ膨大なリスクかを。
収束を信条にまで昇華させるその心は、ただ損という概念を拒絶する弱さに過ぎなかったことを。
――彼は空になった。
これを戒めにまた0からやり直そう。そんな再起すらままならないのがこの世界。人は生きる為には様々な負債を抱えなければならない。負債を軽くする為に負債を背負う。彼にはこれからそんな負の渦での生活が待ち受けている。目を閉じたくなるのも無理はない。
今はそっとしておくべきだ。まだまだ先は長い。少しずつ。時が次第に負債と共に憤りも和らげてくれるはずだ。
だから、今はそっと――
「おい、ちょっと待てよ。――お前、負けただろ? へへっ」
なーんてさせて貰えない彼は、チンピラの中年に声を掛けられる。自分の運のなさに溜息が漏れる。ただの愉快犯と判断し無視し強歩を再開する。
「待てって――」
中年は馴れ馴れしくも肩を組み、逃げようにも無駄に力が強く、振りほどけそうもないので仕方なく相手をすることに。
「……なんですか?」
100%の不機嫌込めて言う。
「だーから、いくら負けたんだよ?」
「…………」
「なぁあ~、いくら負けたんだよぉ~?」
思考を止めることで包み隠してた物が尾を見せ始める。心臓が痒くなる。
この包みが剥がれたら、きっと崩壊する。彼の心は既に限界に達している。だから放っておくべきなのだ。触れぬが仏。
しかし、この中年はだからこそ彼に迫る。
「負け券持ってるんだろ~、え~と、ここかな~……」
「やめてくださいって――」
「おっ、ほら、あったあった。どれどれ…………ほ~お、ちゃんと勉強してんねぇ……でも、元が馬鹿だから全然叶ってねぇの。ふへへっ、あーおっもしれぇ~。いいねぇ~こういう負けるべくして負ける奴――」
崩壊。彼は全身に力を込め掴み掛かろうとするが、それよりも先に、
「おら、これが欲しいんだろ? ほらほら~」
目の前に提示される紙の束に、理性が蘇る。同時にその理性が甘い願望と苦い現実を提示する。まだ期待はしない。
「おぉ~食い付いたよ。いいねぇその従順さ。あからさまなのより、こういうある程度の知性を持った犬の方がおもしれぇんだよなぁ。……歴があるっつうの?」
「……さっき180万負けた男が言えたことじゃないでしょう。同類ですよ」
「それは取材料だ。損失じゃねぇって」
「そう言って何千万失ってますよね? いい加減学びにならないことを学んでほしいんですが」
「あえて馬鹿みてぇな負け方してんだよ。敗者の心情を知る為にな」
「心が壊れてるのに、何を感じてるんですかね……」
後方から現れた女性。目を奪われる様な美貌。この中年の付き人だろうか。あまりに不釣り合いな組み合わせに良からぬ考えが過るが、今はそれより目の前のことが最優先だ。
「んで、ほしんだろ~こーれ」
「……く、くれるんですか?」
「ああ。でも勿論タダじゃやんねぇぞ。見せろ。負には負けの成りがある。その負けを構成する全てを見せろ」
「分かりました……。で、それはどうすれば?」
本当に情けない話だ。とことんコケにされているにも関わらず、今この中年からは光が溢れている。その姿はまるで仏。縋るにはこの上ない存在だが、その実ただの子鼠。これぞ正しく知らぬが仏。
「決まりだな。――んじゃ、お前ん家どこ?」
「え、家に来るんですか?」
「たりめーだろ。一晩世話になるぜ」
「えぇ……わ、分かりました」
背に腹は変えられない。
「あっ、その前にコンビニ行こうぜ! 好きなモン買ってやんよ!」
「っ……まさか今日も飲むつもりですか!? 明日は流創学園に出向くんですよ?」
「だいじょうぶだって。明日には抜けてっから」
「はぁ……また鎌田さんに怒られますよ」
北島克也46歳。職業、映画監督。座右の名は『長者の万灯より、貧者の一灯』。
勝ち組の住まう流創学園へ出向く――。
☆
7月上旬。無事ホール貸し切り権を勝ち取り、本格的に舞台の話は進む。
「らいなちゃ~ん」
「……なに、黄谷さん」
「ん~かこむって呼んでひょも~」
「黄谷さん」
「ふぇぇぇ……」
どうやら二人は仲直りできなかったようで……。なんでだよ。あの流れは仲直るやつだったろ。原因は黄谷が謝らなかったからだそうで。まさかあの局面で謝らないとは……思ってた以上の頑固者だったようだ。
黄谷の言い分も分からなくはないが、大袈裟すぎると思う。芸能界でやっていく以上、多忙は仕方ないことだろうし、別に常にフラフラしてたり、風邪を引いているという訳でもあるまい。
それを押し切ってまでも介入したいのものなのだろうか……。今後の黄谷はそれを貫くのか。割り切るのか。
そして、今日は舞台に向けて黄谷と柴崎に演技指導が行われる。そんな今回の演技監督は学園専属の人ではなく、有名な映画監督が本番までみっちり指導してくれるそうで、その人は理事長知り合いで、誰なのかは来てからのお楽しみと教えてくれなかった。
俺は有名人だとかどうでもいい人間なのだが、いざ会うとなると緊張するな……。変に気を使わされそうで疲れそうだ。まともな人間だといいが。
まぁ、それはさておき、辺りを見渡す。エアコンのカメラの一件。あれ以来、常に警戒心を高めている。一年マネージャー。奴がいつどこから攻めて来るか分からない。この舞台だって狙われる可能性が十分にある。
この舞台が終わるまでは、些細な違和感もすかさず追及する必要がある。気が休まらない時間が続くが、かといっていつまでもこんな防衛を続けるつもりはない。
高咲考案の夏休みイベント。そこで本当に奴の正体が炙られれば、その瞬間こちらから攻める方向へシフトする。奴は退学させることになるだろう。いつ牙を向いてくるかも分からない奴を生かす理由はない。
もし高咲が失敗した時の手は考えてはいるが、面倒臭いので高咲に期待したい。頼むぞ。
「あっ、さつきちゃんだ!」
噂をするとなんとやら。宮本を監視に使っているのだろうか。先程からちょくちょく通り掛るふりをしながら、扉窓からこちらを観察している。
偵察をしているつもりなのだろうか……。そもそも、稽古の様子を観察して何になるというのか。
疑問が止まない。一番の謎は、冷静に考えてこんなヘンテコを使者として遣いに出すか? という話。
逆に捕縛されて情報を吐き出されるリスクだってあるだろうに、こいつを使う理由があるとしたら何がある?
「……待て。もう監督が来る時間だから座ってなさい」
来る時間というかもう遅刻してる訳なんだが。
「軽いスキンシップ交えて楽しくお話するだけですよ」
向こうからしたら重いんだよ。
「そんなことしてる余裕あるのか。監督にどう自己紹介するか考えてるか? ここで芽を見せることができれば、仕事は今回だけに限らないかもしれないんだぞ」
「オッス、オラかこむ!」
「そうやってふざけようとして実行できた試しないでしょ……」
黄谷の気を逸らすのに成功した矢先、コツコツと廊下から足音が響く。小刻みなリズムを刻んでいることから、走っているのだろう。そりゃそうだ。なんせもう15分程遅刻しているのだからな。
有名監督だから忙しいんだろうが、事前連絡くらいはしておいてほしいものだ。
足音は次第に大きくなり、扉が勢いよく開けられる。
「――おくっ……遅れてしまい、申し訳……ありまっ……せん……はぁ……はぁ……」
「えぇっ、監督さんって女性だったひょも!?」
「あっ、いえ……わたっ……私は……付き……人……」
「まぁとりあえず一旦座ってください。お茶飲みます?」
「はい……ありが……ありがとうございます」
お茶を飲む姿にどこか気品を感じる女性。汗をかいて髪が乱れているが、それでも尚、色褪せないおしとやかさを醸し出している。スーツを着用しているし、まるで大企業の受付嬢をやっていそう。なんて例えが浮かびあがる。
お茶を飲み干し、落ち着いたようで、
「改めまして、付き人の槙島と申します。本日は遅刻してしまい本当に申し訳ありません」
「楽しく遊んでたから気にしなくていいひょも!」
「……電車が遅延してたせいですよね?」
まさかと思い今調べてみたが、案の定人身事故が起きていたそうで。
「ええ、その通りなんですが……」
「なら仕方ないですよ、気にしないでください」
「いえ、それだけならタクシーに乗れば間に合ったんです。でも監督は馬鹿なので、その事故現場に向かってしまい――」
「えぇ……」
なんだそれ……。理事長の野郎そんな頭おかしい野郎を呼んだのかよ。一気に不安が込み上げてきたぞ。
あまりの奇行に一同は言葉を失う。そんな空気の変化を感じ取ったのか、槙島さんはフォローに入る。
「あっ、ええと……一緒のタクシーで来たので、監督ももう来ると思うんですが……まだですかね……ちょっと見てきますね!」
さっそく打開を諦め逃げたな。監督連れて来てそのまま押し通すつもりだ。でも俺達の不安は拭えないぞ?
槙島さんが廊下へ向かうと、どうやら監督は割と近くまで来ていたようで、声が響く。
「ほら、なに呑気に歩いてんですか、仕事ですよ」
「いーんだよ。あんな奴ら待たせとけばよ~」
「良くないです。評価が悪かったら報酬減らされちゃいますよ」
「うっせぇな~」
会う前から印象が地に落ちてる人間って初めてかもしれん。
槙島さんに引っ張られながら、それは姿を表す。
「お待たせしました。これが監督です。ほらちゃんと挨拶してください」
「うっせーな。わーってるわ。あーあいあい。北島です。好きなもんは負け犬。嫌いなもんは勝ち犬。つまりお前らは嫌いだ。よろしくな~」
本当になんでこんな奴を呼んだんだ。嫌いなら帰れよもう……。
恰好もシャツに半袖の上着を羽織り、下は七分丈のジーンズととても仕事をしに来た人間の恰好ではない。
でも、理事長がわざわざ推薦する程だから、実力の方は確かなのかもしれない。それにしてもな人選だが……。
「……有名な監督とお伺いしたんですが、代表作とかって教えてもらってもいいですか」
知らない作品が挙がったら帰らせよう。
「なもんどうでもいいだろうが……」
「最近ですと、リターン・ダイブですかね」
「うえっ!?」
まじかよ……。最近バズってたやつじゃねぇか。
リターン・ダイブといえば、全5話の配信限定作品。内容は借金を抱えた負債者達が、賞金を求めデスゲームに身を投じる。というもので、ここまではありがちな設定だが、話が進んでいくにつれ判明する、実はこのデスゲームは参加者達の更生プログラムだったという真実。
見返りを求めるなら飛び込め。命懸けであれば人は変われる。浮き彫りになっていくテーマ。それを体現する巧妙なゲーム造り。参加者が挫けそうな時に流された、参加者の母親がゲーム運営に我が子への想いを打ち明けるシーンには涙した人も多かったろう。
そんな評判からどんどんSNS上にて話題となっていく。だが、あくまで配信限定。いくら話題になっているとはいえ、それはニッチなものだった。
バズったとまで言われるようになったのは、最終話配信後だ。
「えっ、私……見てました……」
「へ~、どうだったよ?」
「……いや、その……ちょっと、悪趣味かと……」
「へっへっへ。楽しんでくれたようで何より」
そう、バズった。悪い意味で。言い換えると炎上。
その起爆剤となった最終回。困難を極めるラストゲームを仲間と力を合わせ無事に乗り越えた参加者達は、最初の頃とは打って変り顔付きが凛々しくなり、人間としても大きく成長し、後は目の前に置かれた賞金で借金を返済すれば、社会復帰が叶う。
エンディングは彼らの人生の再スタートの様子を見れる。そんな期待に胸を膨らませた視聴者達は、何故この作品が配信限定だったのかを知ることとなる。
希望に満ちた瞳で賞金に手を伸ばしたその瞬間、耳を裂く爆音。粉々に飛散する紙幣。無残に塵となった紙幣にただ立ち尽くす参加者達。理解できないというより、したくない。険しい道を突き進んだ末路がこれだなんてと、生存本能が思考を阻む。
それを見透かした運営の非道なる追撃。それはモニターに映し出された、机に向かい合うゲーム運営と参加者の母親。いや違うか。――かつて母親だった存在、が正しいか。それはある手続きの映像だった。その手続きとは、家族という関係の断ち切り。絶縁手続きだった。想いを告げるシーンもこの為の演技に過ぎなかった。
そう、このゲームは人間実験、及び、手の込んだ"処分"だったのだ。手を汚さない為に手を込めた。
落ちてもしぶとく生き延びるのなら、次は更なる高さから落とせばいい。それが、リターンダイブ。
運営は仕事を終えた。いい実験データが取れて満足したろう。もう工程はいらない。会場に残こるは力無くへたり込む参加者達。やがて彼らは不要となった肉体を処分する為、それを連想させる場所へ行くシーンで作品は幕を閉じる。
――そりゃ炎上する。犠牲者の出ないハートフルデスゲームと思わせてからのこの仕打ちだからな。この炎は瞬く間に大衆の目に付くレベルのキャンプファイヤーとなり、皮肉にも再生数ランキングにてしばらくの間1位へと居座らせてしまった。
俺もその時に見た口だが、普通に楽しめたな。所詮フィクションだし。
ただ、リアルタイムで追っていた人間の精神ダメージは計り知れない。黄谷みたく、純粋な感性を持っている人間からしたら暫くはトラウマになるんじゃないだろうか。
「あの撮影面白かったなぁ……。リアルな演技させる為によ、役者共に嘘のバラエティ組んでよ、自分が一番大切にしてんモン持って来させたのよ。で、それを目の前で爆破してやったの。いや~いい顔してたな~、うっへっへへ」
俺はあの作品を見た後、一つの仮説を立てていた。最終話までは心温まるシーンもあったし、実はこの作品を考えた人間は、これを反面教師とし、教材にしてほしいという想いを込めて世に放ったいい人なんじゃないかと。
まさか答え合わせできる日が来るとは思いもしなかった。大外れだったわ。ショック受けてる人間を心の奥底から笑ってる奴だわこいつ。
「その様子も配信して金にしようと思ったんだけどよ、ガチギレする奴ばっかでできなかったんだよなぁ」
そりゃそうだわ。
「あ、あれですよ。ちゃんと同じ物を複製して、それを爆発させたんですからね。アナタ達に危害を加えたりはしないので安心してくださいね」
あ、大丈夫です。既にもうフォローできる次元じゃないので。
無言になる俺達3人に負けじと槙島さんは続ける。
「あー。……で、では、次はあなた達の自己紹介をお願いします」
ここまで来てまだ無理矢理押し進める気なのかこの人……。強靭なメンタルの持ち主のようだ。
しかし、この白けた空気を切り裂き、先陣を切る戦士が一人。
「おっ……おっ……」
頑張れカコロット。
しかし、そんな勇敢な行動もすぐに砕け散る。
「知らねーよ、お前らの名前なんてよ。いいからさっさと仕事始めようぜ」
「ちょっと監督。仕事相手ですよ」
「だって嫌れぇなんだもん。生まれ持ったモンがいいだけでよ~、こんな楽な生活送れんだぜ。その癖に自分は苦労してます~みてぇな面しやがって。あ~いいよなぁ~、俺も楽に生きてぇよ。人がくれる餌だけで生きてぇよ~さぞウメェだろうな」
「待ってください! らいなちゃんはここだけじゃなくて、睡眠時間を切り崩してまで芸能活動をしてるんです! 知りもしないで分かった様なこと言わないでください! ――止めさせますけど」
「なんでお前がキレてんだよ……。やっぱ駄目だなお前は。柴崎らいなを見てみろ。当の本人は一切動じてねぇ」
「え?」
「ご無礼をお許しください。監督はいつもこうやって人を試すんです。本当に手腕だけはあるんです、この人」
「……ちなみに、その意図なんなんでしょうか?」
「沸点だよ。沸点。そいつの使い勝手が分かるからな。演技力なんてどうでもいーのよ。どうせ馬鹿舌しかいねぇんだからな。必要なんは如何に騙せるかだ。騙せる奴が金を生む。だから使われる。今回俺が教えてやんのは、そんな外側の演技――要は馬鹿の騙し方を叩き込んでやる」
……言いたいことは分かるが、捻くれすぎだろ。なんか嫌なことでもあったのか。それに、ここにいるのは純白人間の黄谷と実力派の柴崎だぞ。純水にラードをぶち込むような愚行に思えるが。
だが、理事長が用意した人間。ここはとりあえず見えない意図があると踏むべきか……。それに――
「理解しました。ちなみに……台本の方は、見てもらえましたか?」
「ああ、読んだよ。お前が書いたんだろアレ。如何にもガキが書きましたって感じ……逆に恥ずかしくねぇか、ああいうの。……手抜きだし」
「……時間がなかったので」
手浮きいうな。俺は素人だぞ。台本って書くの難しいんだよ。
内容に関しては客がほぼ学生だからいいんだよ。
「まっ、ボーナスの為だ。ちゃんとやってやんよ」
言い方……。さっきから本当に少しは言葉を選べよ。いい歳なんだからさ。正直色々心配だが、ギリギリ任せてよさそうなラインではあるか。いい加減そうだが、仕事相手をちゃんとリサーチしているし、台本にもちゃんと目を通している。
何より成果を挙げている人間がレールを組んでいる。だとしたら何を思おうと素人に口を挟む余地はない。
俺は席を立ち上がり、
「では、後はお任せします。2人をよろしくお願いします」
「おお、なんも言わねーのか。この手の奴って無駄に口挟もうとする奴多いから助かるわ~」
見届けたいのも山々だが、見てるだけって気を使うし苦痛なんだよな。中には煙たがる人間までいるから去るの安定なのだ。
「……二人はなんか買っておいてほしいものあるか?」
「私は特に」
「……カルピス」
「ちゃんとお水を用意してるので大丈夫です」
「水は不味い」
「カルピスだって割る前はお水なので実質カルピスです」
とんでも理論すぎる。柴崎は諦めてそっぽを向く。まるでカルピスとカルピスだ。互いに濃すぎる。本当にこいつら仲直りできるのだろうか。
まぁ……黄谷に内緒で買っておいてやるか。小さいやつな。
「んじゃあ、俺赤マルで」
「――ん? ……赤マル?」
赤丸ジャンプのことか? あれ当に名前変わってるだろ。
「学生に何買わせようとしてんですか!」
「……あーそうだったな。てか、まだ何も食ってねーからテキトーに食いモン頼むわ。あとコーヒー牛乳。雪印のな」
なんでお前のも買わなきゃいけないんだよ。いい歳こいたオッサンがガキにたかるなよな。
「では、私はサンドイッチとウーロン茶で」
アンタもかい。
3年の猫山先輩の名前を猫巻先輩に改名しました。すみません。




