3章3‐4 譲れないから。
鹿誠に言われて仕方なく、かこ――黄谷さんの部屋へ来た。嫌々。
ドアノブに手を掛けるも鍵は掛かっていなかった。ドアを引くとその瞬間、耳障りな泣き声。……まさかずっと泣いていたのだろうか。……泣こうが許さないけど。
部屋へ行くと、机の上で蹲って泣いていた。猫はそんなのお構いなしに寝ている。
ここまで近付いてもまだ私に気付いていない様だ。……仕方ない。
「――黄谷さん」
「っ!! ら、らいなちゃん!?」
「鹿誠がチャンスをやれって言うから、仕方なく来てあげた」
「え……うぅ……あぁ…………うわぁあああああ……」
なんでまた泣き出す。
「……これで落ち着いて」
ティッシュ箱を差し出す。
鼻をかんで、涙を吹いてから、ようやく落ち着いた様で。
「……はい。もう大丈夫れす」
「言っとくけど、謝ろうが許すつもりないから。信じてたのに……絶対に許せない」
こうして口に出すと再び怒りが湧く。
「……私謝るつもりなんてないです」
――はい? 何を言ってるんだのこの女は……?
「えっ、あれだけのことしといて謝らないってなに? 反省してないの?」
「日記を盗んだのは、本当に悪いことをしてしまったと思っています。ごめんなさい。……でもそれ以外のことは悪かったとは思っていません」
「なにそれ……。好な気持ちに漬け込んで、従わせるのが正しいってこと?」
「そうせざるを得なかったからです。らいなちゃんの生き方は間違ってます」
「前に言ってたじゃん、私の生き方を否定しないって」
「それはその生き方がダメだったからです。――いいですか、人には生きる以上のことなんて“絶対ッ"にないんです!! 命を削ってまですることなんて、何においても絶対に間違いなんです!!」
「人には人の事情があるの! 何も分かってない癖に首を突っ込まないで!」
「いいえ、絶対に突っ込みます!! らいなちゃんの命は、らいなちゃんだけのものじゃないんです。どうして悲しむ人達のことを考えられないんですかっ!!」
「それが私の決めた生き方なの! 私にとってはそれが正しいの! 好きだって言うなら尊重してよ……。そうやって一方的に自分の意思を押し付けるのなんて……友達じゃない……」
「そうですね……分かってます。覚悟の上です。でも、本当の友達じゃなくなっても……らいなちゃんには元気でいてほしいんです…………でも……でも実際……らいなちゃんと……離れるって……なる……と……うわぁぁぁ……やっぱやだぁぁぁあ!! ……黙って私の言うこと聞いてくださぁぁぁい……わぁぁぁぁぁ」
そうやっていつも都合悪くなると抱き付いて有耶無耶にする。やっぱり何もないんだ……。本当に変わってほしいなら、打開策を持って来てほしい。鹿誠はそうしてくれるって言ってくれた。……まぁ何が裏があるんだろうけど。
本当に私と黄谷さんは相性が悪い。お互いが頑固で譲れないから衝突し合う。今までは踏み込まずに瀬戸際にいたけど、いよいよ向こうから踏み込んできた。こうなったらもう終わりだ。関わらない方がお互いの為。もうこんなの引き剥がして立ち去ろう。
――離して。
なんでだろう。この一言が出てこない。なら力づくで引き剥がせばいいのに、身体に力が入らない。
……いや、なんでかは分かる。でもそれを認めたら負けだ。それだけはできない。なら、どうすれば……。
「……らいなぢゃぁぁぁん……おばあちゃんに……なっても……一緒にグミたべましょうよぉぉぉ……」
自分が嫌になる。黄谷さんはいい人だ。私なんかと関わらなければこんな泣いたりせずに済むのに……。やっぱりここは、引き剥がすのが黄谷さんの為にも……。でもそれだと同じだ。今度は私の都合を押し付けてるだけ。それは黄谷さんが絶対に望まないこと。あぁ、難しいな……友達って。
ひとまず、この状況をどう切り抜けるか考えていると、スマホの着信音が。黄谷さんの方だ。
「はい……もじもじ……」
『ああ、すまん。まだ取り込み中だったか』
鹿誠からのようだ。
「いえ……大丈夫でず」
『どう見ても大丈夫そうじゃないが』
「大丈夫でふ」
『……そうか。ちなみに柴崎もその場にいるのか?』
「いる」
『うおっ、随分と近くにいるな』
なんで離さない。
『一つ黄谷に許可を取りたくてな』
「……なんでしょうか?」
『ホール貸し切りでやる演劇に、柴崎を主要キャラとして出したい』
「わかりまじた」
即答か。折角の特権をライバルにも分け与えることになるんだから、少しは悩むべきだと思う。そもそもまだ1位を取った訳でもないのに気が早い。
でも、本当にエアコンを故障させたりするんだろうか。……本当だとしたら、頭がおかしいと思う。勝つ為にそこまでする普通? でもだからこそ、そんな鹿誠なら本当に私を変えてくれるかもしれない。
だって、鹿誠がマネージャーになってから、かこ……黄谷さんに笑顔が増えたから。だから私も……。いや、別に期待なんてしてないけど……。怪しいし、絶対なんか裏がある……。
『柴崎にも許可を貰いたい。もしホール貸し切りを勝ち取れたら演劇をやる予定なんだが、それに出演してもらいたいんだ』
「……大丈夫だけど」
『よかった。それじゃあ、今回も台本は俺が書くから、1週……2週間くらいあれば……いや、区切りのいいとこで小分けにしながら見せるのがベストか。とにかく、詳しい話はまた追々させてもらう』
「分かった」
演劇なんてして何が変わるのか……。何を企んでいるのだろうか。
『あぁ、あと、俺が柴崎のマネージャーになったことは伝えたか?』
「あっ」
忘れていた。
『……じゃあ今ので伝わったな。そんな訳で、これからは二人で色々してくことになるからよろしく頼むぞ。それじゃあ、また――』
電話が終わると同時に、ようやく黄谷さんから解放される。
「――だそうです。また同じ舞台に立つことになりましたね」
そうか。ひとまず仕事での関係ができたから離したのか。……やっぱり気にいらない。
「……仕事はちゃんとやる。でもあくまで私達は仕事仲間なだけだから」
「そんなぁ……」
また捕まりそうなので、この場を後にする。
このまま有耶無耶に関係を続けていてもお互いの為にならない。ちゃんと結論を出さなきゃ。でも、今はまだどうすればいいのかが分からない。
だから、この演劇が終わる時まで考えた上で、答えを出そう。




