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3章2‐2 食堂は寝床じゃありません。

「ぷは~ごちそうさまでした~!」


 食後の杏仁豆腐を吸引し、満足げに食後の儀を済ます黄谷。俺もその間に杏仁豆腐を2つ食した。そんなに好きじゃなかったんだが、1つ吸引してみたら美味くておかわりしてしまった。不可抗力である。


「よし、それじゃあ始めるか」


「いや~それにしてもさっきのさつきちゃん可愛かったひょもね~」


 始めるかって言ったんだが?


「……それはよかったな」


「まさか文空君と仲が良かったなんてビックリですよ」


「誰かのせいで溝が深まったがな」


「プレゼントを貰える程にまで親密になっているなんて、私の知らないとこでいつの間に手を出していたんですね……」


 なんか怒ってね?


「これはプレゼントというか、お詫びの品というか……良かったら黄谷も食べるか?」


 こういう甘くてソフトな食感のクッキー好きだよ。


「結構です。それよりどうやって接触を図ったんですか? 動機はかわいいからですよね」


 動機の方にも?を付けてくれないか。


「俺はただ背後から刀突き付けられて脅迫されただけなんだが」


「なんですかその意味不明な動機は! たぶらかさないでください!」


「大真面目なんだが。しかも鼻から……それより、なんでそんな宮本の事好きなんだよ」


「そんなの当然かわいいからですよ!! あのなんかこう……似た様な物を感じるというか……」


 同じ7位だからか……というツッコみを抑えつつ。納得、既視感正体は黄谷だった訳か。確かによく似ている。親近感から同族と見做し、接触を図りたくなったのだろう。


「とにかく、俺と宮本の関係は他人に毛が生えた程度のもので、それがさっき誰かのせいで敵対関係になっただけだ」


「うーむ、それはそれで困りますね……。折角さつきちゃんに近付くチャンスができたと思ったんですが……」


「そのチャンスを自分で壊したんだよ」


「それは言い掛かりです。先程もいいましたがあれはスキンシップです!」


「いいか黄谷。俺が言うのも何だが、コミュニケーションってのは一方的な意思を押し付けるだけでは成立しないんだ。相手の身になってどうすれば受け入れてくれるかを考え、適切な振る舞いを心掛けられる者同士になって初めて成立するんだ。黄谷がさっきしたのはな、宮本からしたらただのプロレスリングなんだ。仲も良くない人間にいきなりベアハッグされたら怖いだろ?」


「……うぅ、ごもっともですね。このチャ……行いを反省して、ちゃんと謝罪してみようと思います!」


 本当に反省してますか?


「まぁいい。分かったならさっさと打ち合わせ始めるぞ」


「はい、そうですね。それと今日は遅れてしまってすみません。ひょもーにゃに餌をあげていたので」


「別に事前に連絡も来てたし気にしてないさ」


「それで、今日はなんの打ち合わせをするんでしょうか?」


「それは勿論、今回のイベントで1位を取った時の事だ」


「ええっ!? それは流石に気が早くないですか? 3週目のアイドルホール貸し切りの事ですよね?」


「それ以外何がある? まだ先の話とはいえ、3週目の結果発表から2週間ちょい程度しかないんだぞ。やる事によっちゃ遅すぎる。今から決めとくに越した事はないだろ」


 今回のイベントは勝つ。今考えている手は運次第で決行できるかどうか分からんが、抜け目なくサブプランも用意している。勝率は高いと踏んでる。


「……それはそうですね。ちなみに……いえ、何でもないです。それより、アイドルホールでやりたい事ですか……う~ん……」


「とりあえず思い立ったもん何でも挙げてくれ」


「急に言われても困りますねぇ……あ、私主催の爬虫類イベントとかやってみたいです!」


「――と言いますと、この前行ったやつみたいのか……。流石に生き物販売は無理なんじゃないか?」


「いえ、販売ではなく、私が好きな子達を集めてみんなに触れ合って貰うんです! 1度こういうのやってみたかったんですよね~」


「……それは現実的じゃないな」


「どうしてですか!?」


「まずアイドルホールでやる様な事ではないし、興味を持つ様な生徒もそう多くはないだろう。集客できないと結果には繋がらないからな。それにレンタルするとして、ここまで運ぶのにも生き物に結構な負担が掛かるだろ。環境の変化に強いストレス感じるって言うしな。だから倫理的にもアウトだ」


 1日だけの為に連れ出すってのも可哀想だからな。


「うぅ……そうバッサリ言われちゃうと傷付きます」


「まぁそれはそれで別の機会にでも考えよう。でも、そうやって無理そうでもやりたい事はどんどん口に出してくれた方がいい。何が実現するか分からないからな」


「それじゃあ、ひょもーにゃサーカスなんてどうでしょう! あのかわいさなら集客力抜群です!」


「真面目に考えて下さい」


 子猫に何させる気じゃい。


「もう、何でもって言ったじゃないですか」


「限度があります。次」


「……うーん、それじゃあ……そうだ! 舞台をやりたいです! さつきちゃんと!」


「欲望に忠実だな」


「恋愛物にしましょう! キスシーンもおっけーです!」


「宮本は抜きにして舞台か……無難だが、黄谷がそうしたいのならアリだな」


「いやいやさつきちゃんは絶対です!」


「この学園は先輩後輩との仕事は禁止です。欲望に負けて謹慎にでもなるつもりか」


「くっ、そうでした……でも何でも叶えてくれるって……」


「はいはい。で、演技に自信はあるのか?」


「はい! 幼稚園の頃の演劇で主役を張った事があります! じゃんけんで勝って」


「真面目に」


「うーん、やりたい事は頭の中にあるんですが、それを現実に反映するのが難しいんですよね。技能的な面で未熟ですし、恥ずかしさの壁を突き破るのも大変で」


「自信を数値化するとどんなもんだ? 上限100で」


 流創アイドルは漏れなく演技指導を受ける事になっているから素人ではない筈だが、


「……4……35位ですかねぇ」


「……じゃあ丁度いいのかもな」


「ええっ、折角のホールで私の下手な演技を見せるんですか?」


「やりたいか?」


「っ!? それは――」


 目を瞑り、思い描く。そこで何を視たかは黄谷みぞ知る。


「やりたいです! 大きな舞台でめいっぱいやってみたいです!」


「そうか。ならやるか。今からやるとしたら1ヵ月と1週間位か。短いが、高い目標があればより成長できる筈だ。例え上手くできなくても、その経験は必ず次に繋がる筈だ。無駄はない」


「……まだ1位を取れると決まった訳でもないのに、随分と実現的に話しますね」


「――ん、ま、まぁな。例え取れなかったとしても、演技力を身に付けるのは必要な事だろ? 1月くらいからドラマ撮るっていうし」


「確かにそうですが……で、演劇をやるとして私はこれからどうすれば」


「……とりあえずは適当に演技指導でも受けつつ待っててくれ。俺がなんか仕事を作っておく」


「分かりました!」



 ――それから休日明けの月曜日。放課後の食堂にて。

 この時間は平田さんが気まぐれで作ったおやつが置かれている。今日はマドレーヌだったのでプレーン、チョコ、紅茶味を1つずつ頂いた。お供にお紅茶を添えて。


「さっそく仕事を取ってきた訳だが」


「早すぎませんか!? とても助かりはしますけど……」


「今日の昼休みに取った出来立てホヤホヤだぞ」


 期間が短いのでとにかく場数を踏みたい。何事も数をこなすのは大切だ。これは才能など関係なく誰にでも言える事だ。数をこなす中でようやく才能が露見するのだから。


「で、それは一体どんなお仕事なんでしょう?」


「当然舞台だ」


「い、いきなりですか?」


「ああ。会場はさすまた幼稚園の体育館」


「幼稚園ですか!? 舞台というかお遊戯会ですね……でも確かにアリですね。幼稚園児様達が相手ならやり易そうですし、駆け出しにはもってこいですね!」


「だろ。ちなみに今週木曜日の選択授業の時間予定だ」


「急すぎませんか!? 後3日じゃないですか?」


「そりゃ時間は有限だからな。早いに越した事はない」


 幼稚園や保育園に流創の顔を使って手当たりで電話しようとしたが、それを相談したらお得意様がいた様で直ぐに取り次いで貰えた。


「それに台本とかどうするんですか?」


「まぁ、俺が明日までに作ってくるさ。幼稚園児相手だからまぁ適当で大丈夫だろう。15分程度の物だしな」


「台本ってそんな簡単にできる物じゃないですよ。本当に大丈夫ですか?」


「最悪適当な童話をそのままやりゃいいだろ」


「確かにそれなら大丈夫そう……なんですかねぇ」


「急がば回れだ。とりあえず、演技するに当たってもう1人位役者が欲しいところだが、誰かやってくれそうな奴いないか?」


「それならさつ――」


「同学年で」


「むぅ……だったら……」



「――話は聞かせて貰ったわ」


「お前は――」


「園児相手なら私の専売特許じゃない!」


「やずるママが一緒にやってくれるひょも?」


「ごめんね。私その日は空いてないのよ……」


 何しに来たんだよ。


「それじゃ~あ……みゆきちゃーん!」


「却下」


 だろうな。というか黄谷の声がデカいせいか内容が室内に丸聞こえじゃねぇか。これからはちゃんと会議室でも使った方が良さそうだな。


「そんな~。一緒にやろうひょもよ~」


「鬱陶しい。くっ付いてくんな! 私は用事があるんじゃあ」


 嘘だろうな。


「そんな~。じゃあどうすれば……」


 辺りを見渡す黄谷。この室内にいる残りの同学年は机で伸びてる柴崎くらいだ。つまり詰み。

 青松にでも協力を要請するか。アイツなら引き受けてくれそうだしな。


「らいなちゃ~ん! 一緒に幼稚園で演劇しないひょもか?」


 する訳ないだろ。あいつは学園生活しながら同時に芸能活動までしてる多忙人だぞ。そもそも多忙とか関係なく引き受ける様な人間ではない。


「……いいよ。いつ?」


 ほらな。


「え、本当ひょも!? 今週の木曜日ひょも!」


「その日なら大丈夫。台本は?」


「……まだ出来てないひょも」


「……分かった。じゃあ出来たら教えて」


「わ~い、ありがとひょも! らいなちゃん大好きひょも~!」


「なるべく早めに連絡するひょもね」


「待ってる」


「お~い文空く~ん。強力な助っ人が来てくれたひょもよ~」


「柴崎がやってくれる訳ないだろう。青松に連絡入れてみるから待っててくれ」


「いいよって言ってくれたひょも」


「それ位聞こえてるわ。あいつにそんな暇ある訳ないんだから、いいに決まってるだろ」


「いやだからいいって……」


 だからいいって拒否を示す時の言葉で……いや、あれ、ん?


「本当にいいよって言ったのか? あいつ意味を履き違えてるのか?」


「どうしちゃったんですか文空君? そんな不可解な事が起きたみたいな」


「えーと……すまん、調べてみたが、やっぱり『いい』って『いい』って意味だったわ。やっぱりあいつ意味を履き違えているぞ」


「文空君、冷静になって下さい……。確かに他の人から見たら信じられない事なのかもしれませんが――」


「すまん、ちょっと確認取ってみる」


「あ、ちょっと――」


 伸びてる柴崎の元へと駆け寄り、


「な、なあ、本当に引き受けてくれるのか……?」


「――チッ……」


 まさかの舌打ち。からの顔を背け拒否姿勢。最近、当たりが更に強くなった気がする。そうだ。これが柴崎だった。そう印象が強く根付いているからこそ信じられないんだが。

 しょんぼりしながら席へ戻る。


「らいなちゃんは寝てる時に話掛けられるのが嫌いひょもよ」


「……黄谷だってさっき話掛けてたろうに」


「あれは起きてたんですよ」


「いや、分からんが」


「とにかく、らいなちゃんはちゃんと引き受けてくれましたから、そっとしててあげて下さい」


「あ、ああ、分かった」


 現役で役者をもこなす柴崎が協力してくれるとなると百人力だが……だったらもっと本格的なとこにしとけばよかったか。

 まぁとにかくそうと決まればさっさと帰宅して台本を書かねばな。大方頭の中にプロットは出来上がってはいるが、なんか身が入ってしまうな。頑張ろう。

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