3章2‐1 宮本武蔵見参!!
――時は遡り、6月上旬。グッズ考案イベント初日の翌日、土曜日の昼。
黄谷と打ち合わせの為に食堂で昼食を取っていた。
土日は平田さんが休みの為、若干味は落ちる。それでも若干で済んでいるのは平田さんが献立を決めパートの人に指導を施しているからだろう。後は作ってくれている方々への気遣い。
今日は土曜で起きた時間も遅く、まだ食欲も湧かないので胃に優しい八宝菜をチョイスした。豚肉によく餡を絡めご飯とかき込み、現在は豚肉が無くなったので海老やイカと共に野菜を口に運ぶターンだ。
……だが、折角の食事が集中できん。その原因に視線を送ると……コイツ、バレてないと思ってんのか?
宮本武蔵。ではなく1年の宮本さつき。この前はただ宮本って苗字だからと玩具にされたんだろうな。
先程からコイツから視線をひしひしと感じる。それも今回に限らず最近ずっとだ。俺の偵察だろうか。だとしたらこんなポンコツに任せた1年マネージャーも阿保となる。敵対意思を持っているそうだからそれだと助かるが。……いや、阿保すぎても逆に厄介か。
不気味な視線を受けながらも、デザートのヨーグルトを流し込み、ごちそうさまでしたを済ませたので、食器を置いて黄谷が来るまで席で待とうかと思ったが――折角だし少しつついてみるか!
悪しき好奇心を原動に宮本の元へ。俺が自分の元に来るのを察したのか、慌てて食事をしているふりをしているが既に完食済み。もう逆にわざとポンコツを演じている気がしてきた。
「……さっきからこっち見てるが、なんか用か?」
これならボロ出して1年マネージャーの正体を吐き出すんじゃないだろうか。とにかく探りを入れるに越した事はない。
「――ふぁっ!? ふぁい? ななな……なにもないですよ。見てなんてないですから」
「嘘つけ。絶対見てたぞ」
「どっ、どうして見る必要があるんですか?」
知らずにこのワードチョイスをしているんだろうが、そんな会話が面白くて笑いそうになる。
……やっぱコイツ面白れぇわ。天性の笑いを生むキャラだ。どんどん弄りたい欲が湧いてくる。――駄目だ。堪えろ。先輩の威厳を見せねば。
「1年のマネージャーとやらに偵察でも任されたか?」
「ち、違いますよ。ただ――」
「違うって事は他の理由で見てたって事か」
「ッ!? ……尋問誘導なんて、聞いてた通り卑怯な男ですね」
お前が阿保なだけだろ。おこがましい。
「で、1年マネージャーの正体って誰なんだ?」
「そりゃ――って、その手には乗りませんよ!」
一瞬吐きかけたな。本当に心配しか勝たんぞ。
「……んで、別の用事ってなんなんだよ」
「うっ……えっ、えっと……それは……」
俯きもじもじとしだす。言葉の放流ができないダム。典型的なコミュ障だな。……うーむ、この感じどっかで見た事あるような気がするんだが、思い出せん。
こんなんで親睦会の時に一般生徒とどう会話してんだろうか。一応前に軽い下調べはしたが、演技の道を目指しているそうだ。宮本武蔵の物真似がやけに力が入っていたのはその為か。
――そうだ。それなら、
「話にくいのなら、前みたく宮本武蔵になったらどうだ?」
「……た、確かにそれはアリですね……いや、でも刀が……」
形から入るタイプなのね。
「食事の時は刀はどっかに置くだろ」
「成程……そういう設定なら……では、ちょっと待っててください」
「はい」
宮本は食堂の隅へと行き、しゃがみ込むと、スマホを両手で持ち、画面をのめり込む様に見つめる。
「……私は宮本武蔵……伝説の2刀流の剣豪……今日は……朝の訓練を終えて、お昼ご飯を食べた後で……」
小声で言ってるつもりなんだろうが聞こえてるぞ。
演技するに当たってルーティーンがある様だ。
「だから刀を置いて――いや、宮本武蔵が刀を一時でも手放す筈がない。取り返さねば!」
すると急に立ち上がり食堂を飛び出していった。……どうやら俺は選択肢を間違えてしまった様だ。
――10分後。中々来ないのでプリンを食べながら待っていると。
勢いよく扉が開けられ、
「待たせたでござるな、文空殿!」
昼時という事もあり人が増えてきたが、その全員が視線を送る。その視線に理性を取り戻しそうになるが、それを振り切りズカズカと俺の元へ。
侍の衣装に着替え、腰には2本の刀を携えている。どうやら衣装室へ行っていたようだ。よく見ると髪型がロングから一本結びになっている。恥ずかしいから近寄らないでほしい。
「廊下で話そうか。お前の食器は片しといたから」
「かたじけない。了解したでござる」
キチ……頭のおかしい奴と廊下へ。
「……で、なんの用なんだ?」
ここまで運ぶのにどれだけ時間食ったんだろう。プリンも食っちまったよ。
「あ、そうでござったな」
「忘れてたのかよ……」
何をするつもりだったんだよ。
「御恩をお返したいと仕ったでござるよ」
「……恩?」
仇しかない気するが。
「これを返したかったでござる!」
「ん、ああ、そういや渡したままだったな」
ハンカチ。前に鼻からミルクティーを出した時に渡したやつだ。律儀に洗濯までして……って、下になんかあるぞ、小さい箱……?
「これはちょっとしたお礼のクッキーでござる。甘い物が好きと存じ上げているでござるが、間違いないでござるよな?」
「……いや、確かに好きだが……そもそもそんな礼をされる様な事してないだろ。寧ろ怒るべきなんだが?」
まさかずっとこれを渡す機をずっと伺ってたのか? しかもこれ校内には売ってないだろうからわざわざ買いにいったんだろうか。
「拙者のせいで文空殿のハンカチを汚してしまったのだから、当然の儀でござるよ」
……コイツいい奴だな。キチガイとか言ってごめん。
「ま、まぁ、ありがとな。後で大事に食べさせて貰う」
「此方こそありがとうでござる。喜んで貰えた様で何よりでござる!」
満面の笑みを見せる宮本。……やばい罪悪感が凄い。
「そういえば、前に取り合ってみるとか言ってたが、それはどうなったんだ?」
そのせいか対話の意思が湧き初めていた。
「……それは……即答で断られたでござる。すまぬ」
「いやいやいいんだ。取り合ってみようとしてくれただけ有難い。だから気を落さないでくれ」
「仲良くしてほしいでござるけどね……」
「そもそも、奴は何故俺を恨んでいるんだ?」
「……それは……拙者も詳しくは知らぬのだが……も――」
「うわ~文空君、さつきちゃんと仲が良かったひょもね~!」
タイミング。
「お、お主は、黄谷先輩殿!?」
先輩の代わりの殿じゃなかったのかよ。つまり俺は呼び捨てにされてたのか。
「どういう経緯で知合ったひょも~?」
「いやまぁ色々あってな」
「ふ~んそうひょもか~」
どうでもよさそうだな。そんな黄谷は宮本を見付めだす。
「……な、なんでござるか?」
「…………ぅ……」
「あ、あの……って、うわぁぁぁぁぁ!?」
「もう我慢できないひょもぉぉぉ!! かわいいひょもぉぉぉ!!」
「ちょっ!? きゅっ急になんですか先輩? く、苦しいです……」
なんかの絞め技を掛けられる宮本。流石は台風の目、黄谷。宮本武蔵の人格が速攻で消し飛んだ。さながら俺は雑な橋渡し要因だったと。
「さつきちゃんがかわいいのが悪いひょも! というかなんで侍の恰好してるひょも? かわいい罪で逮捕するひょも!」
それにしても珍しいな。宮本とはそこまで面識がない筈なのに、ここまでベタ付くとは。コミュ障特有の第3者がいると気が強くなるやつか。
「……黄谷そろそろ離してやれ。窒息するぞ」
「うぅ……分かったひょも……」
絞め技から解放された宮本はすぐさま距離を置き、
「……はぁはぁ……まさか黄谷先輩を使って不意打ちとは。だから廊下に誘導したんですね」
「いや違うが」
こんなしょうもない事の為に手間なんて掛けません。
「問答無用! これで借りは返しました。これからは敵同士ですからね! それでは失礼します!」
律儀に挨拶を残して去って行った。何で俺が怒られなあんの?
「どうして怒ってるんですかね?」
「お前のせいじゃい!」




