3章1‐2 ファイティングスタイル。
ルールに変更があります。
2週目以降は1時限目と6時限目がアイドル時間となり、1時限目が売り込み時間で、そこからグッズ購入可能時間となります。
記載忘れで、販売価格が原価を下回らない事と、100円単位での値段設定にする事を追加で。
5時限目。予定通りイベント説明を終え指定された教室へ集まる。
黄谷グループのメンバーはなんと9人。つまり買い手が190人もいるぜやったな! それを見透かしたかのように指定が狭めの教室なのが気に入らないが、元々7つの教室を用意してて人数順に埋める予定だったのだと思うとしよう。
現在、説明時間はおよそ15分、移動も兼ね計20分程しか経過しておらず、グッズ考案が始まる6時限目まで時間が結構余っている。で、この開いた時間をどうするのかというと、まず光栄のアイドル応援タイムが行われる。名目通り、アイドルがスクリーン越しに応援してくれるというもの。その後は5時限目終了まで役割を決めつつグループでの雑談タイムとなる。おまけで向こうが用意してくれた茶菓子付き。人数が少ないので結構多めに食べれそうだ。あっついお茶を入れながらどれから手を付けるか思考中。
面子はいつもの電子工作部5人……ではなく3人。朝霧って奴と誰かがいないな。まだ過去の軋轢が残っているのだろうか。気にしなくていいのにな、数字になるんだから。残りは俺と瑛介で5、その他が4人で9人。2人程見ない顔も混じっているな。新規のファンか、それともミーハー生徒か。この学園の生徒は全員が熱狂的なアイドルファンという訳ではないからな。
「まだかなぁ……かこむちゃんの応援」
はぁ、気楽でいいなぁ。まぁ俺もそんな気込んでる訳ではないが。そんな瑛介の役割は書記、兼、売込係だ。ここの様な少人数グループを想定しているからか係の兼用が許されている。
「今回は鹿誠殿がいるからこの勝負貰ったモン!」
「だな。鹿誠様がいれば勝ち確ブリ!」
「……俺と並ぶ双極の騎士だ。その力は語るまでもない……ブラ」
「やめてくれ」
ハードルを上げるな。てか、なんでこんな神格化されてんだよ。
現在この場が人外魔境と化しているのは、黄谷が公認したファンにはヒョウモントカゲモドキの
色の種類名が与えられ、ファン同士の集まりとなるとこうした臭い馴れ合いの場となる。
「そんな事言いって、とんでもない秘策を持ってるエプよねぇ」
「悪いが、その手のグッズとかに関してはまだまだ疎いんだ。期待されても困る」
「またまたぁ~。そうやっていつも僕達の予想を超えてくトパよ!」
「いやいや本当だからな」
「……そう蔑むな。お前の力は俺がよく理解してるブラ」
さっきからお前は誰なんだよ。こっちは会話すらした記憶がないんだが。
……ハードルを上げられると困るんだよなぁ……うーむ、今の内に言っておくか。
「……あのさ、期待なされてるとこ悪いんだが――」
そう言い掛けたとこで教室のスクリーンに映像が写し出される。そこには黄谷が映っていて、何故かパンチンググローブを付けてファイティングポーズを取っていた。
『えーと……えと、い、いよいよグッズプロデュースイベントが始まるひょも! 景品は確かに魅力的ひょもけど、何よりみんなにはこのイベントを楽しんでほしいひょも! みんなが考えた面白いグッズを手に取るのを楽しみにしてるひょも~! それじゃあファイトひょも!』
ファイティングポーズの意味は? なんか面白い事考えてたけど、カメラを向けられて日和ってしまったのだろうか。まぁ詮索は止めておこう。
「もおおおおお、漲ってきたもおおおおおん!!」
「トパってきたトパアアアアア!!」
「うぅ……なんて有難きお言葉ブリ……感激のあまり録音を忘れてしまったブリ……」
「今の録画したやつなら……そのデータ、どうにかして奪えないトパかね……」
「……我が主の為、この刃振るおう――」
楽しそうで何より。
他もこんな感じに賑わってるんだろうか――。
・藍坂グループ
『……私はあなた達に期待をしていないし、そもそも景品に興も湧かない。だから勝手にすればいい。けれど、私の権威に泥を塗る様な真似は許さない。以上』
「「「――御意」」」
「ななみ様はこうは仰っているが、我々とてななみ様の名を背負っている以上、敗北は許されない。全身全霊を尽くし、なんとしても勝利を献上するぞっ!!」
「「「おーーー!!!」」」
・青松グループ
『よっ、お前ら! 今回のイベントもよ、勝ち負け気にせず楽しんでくれよ――って言いてぇとこなんだけど……やっぱり勝ちてぇんだよな。だからよ、楽しみながら勝ちにいってくれ! 頼んだぜ!』
「……最近ちょっと変わったよなぁ、ゆいかちゃん。なんというか、向上心強めっていうか……」
「なんか心境の変化でもあったのかね~」
「――好きな男でもできたのかも」
「「「!!!???ッッッ???!!!」」」
「いいやいやいや、そそそそんな訳……」
「……そういえば、最近ちょくちょく鹿誠文空と話してるとこ見る様になった気が……」
「――あっ……あっ、俺もなんか……最近ヤツと話してる時だけ、なんか雰囲気が違うなぁって……気のせいかな」
「「「…………」」」
「――ん? いや、冷静に考えて有り得ないだろ。だってアイツ、超空気じゃん。まっちゃんと真逆だし」
「ふっ、確かに。俺アイツの存在、かこむちゃんのマネージャーになって初めて知ったもんw」
「はっはっはっ、俺もだわ。アレとゆいかちゃんじゃ、水と油だわな」
「どうせ気遣ってあげてるだけだろ。ゆいかちゃんは優しいから、ああいった人間程に手を差し伸べるからな」
「そうだな。それじゃあ、あんなの忘れて、最強のゆいかちゃんグッズ作っちゃいますかー!!」
・柴崎グループ
『』
「……来ませんね」
「……まぁ、いつもの事だけど、まさか顔すら見せてくれないとは……」
「で、でも俺、逆にやる気漲ってきたわぁ~。逆に勝たせたくなったというかさぁ……な?」
「ふっ、俺もだ。こうなったらなんとしても1位を取って、あの奇跡の笑みを生で拝めてみせようじゃないか! ほらお前らも、ホールでこの笑顔を生で見たいだろ!!」
「「「うおおおおおおおおおおッッッ!!!」」」
・緑沢グループ
『おい豚共ッ! 何ボケッと豚面引っ提げてんのよッ! そんな暇あったら1秒でも足りない脳味噌絞り倒して、私の為に働けやッ! いい? 1位以外絶ッ対に認めないから。できなかったら、お前らの肉の筋という筋を砕いて豚カツにしてやるから、覚えてなさい!』
「……相変わらずみつな様の言葉は痺れるぜ」
「この全身に雷が走るこの感覚は、他じゃ味わえねぇよ……」
「それにしても、カツサンド絶品だったなぁ」
「差し入れしてくれるだけでも有難いのに、わざわざ手が汚れない様、サンドにしてくれたんだよな。ああ……油が身に染みるぜ。豚に生まれて良かった……」
「そのギャップもたまらねぇんだ……ペットとしてこれからも全力で尽くさせて貰うぜ!」
・橙田グループ
『お~いみんな~やずるママだよ~! いい子にしてましたか~』
「「「はーーーい!!!」」」
『……ふふっ、みんな元気でいいお返事ね~。さ~て今日は待ちに待ったグッズイベント日だけど~、今回は、ママからみ~んなにおねだりしちゃおうかな~! 何がほしいかは……わ・か・る・よ・ねっ?』
「「「わかってまーーーす!!!」」」
『それじゃあ、ママ楽しみに待ってるからね~! ――あ、そうそう。別に指示って訳じゃないんだけどね……おしゃぶりとよだれかけとカラカラはダメだからね~』
「「「………………」」」
「――どうする。我々の手の内が完全に読まれてたぞ……」
「……流石は我がマザー。3週分笑談で過ごすのは不純という事か」
「まさか……これも我が子らの成長、教育の為なのか?」
「ッ!? そうだったのか……我々を想って……はぁぁぁ、漲る……滾る……」
「我々はまだまだ上に往ける――」
「いくぞ、我れらが母の為――」
・赤宮グループ
『おっはもーにん☆ みゆきーだよー☆ 今日はグッズイベントの日だね~。みゆき~は~1位の豪華景品が欲しいから~みんなに頑張って貰う為に~~~。――今から30秒以内にこのあつあつたこ焼き6個を完食しちゃいま~す! はい、じゃあよ~いスタート! ふーふー、はむっ――ぐわっつ! ……こんなんできる訳ないやないか~い! てな訳でみんながんばってね~、ばいばいき~☆』
「どんな訳やねーん!」
「相変わらずみゆきーのユーモアは光ってますなぁ~」
「……う~ん、でも最近なんかキレが落ちてきてるというか……」
「スベってるとこもまた可愛いんじゃ~」
「そのコンスタントさの中にある異質さがいい」
「流石同士ら。分かっておられる。では、もう身体張ったギャグなんてしなくても我々はできるって事を示すとしましょうか――」
☆
6時限目。黄色い声援を受け、室温の高まった教室にていざグッズ企画が始まる。
「みっなさーん、おはようございまーす! かこむちゃんグループ担当の花田ちゃんでーす☆」
「うわっ」
素で声出た。グループ毎に担当教師が付くとは聞いてたが、なんでコイツなんだよ……。チェンジで。
「いよっし、SSR!」
「あーこれもう勝確ブリね。ありがとうございましたブリ」
「……フンッ。誰だろうが構わんが、俺達の足だけは引っ張るなよ……ブラ」
そうか、他の奴からしたらこれは当たりなのか……。世の中は広いな。
「分からない事あったら聞いてね! 詳しい事は分からないけど! ――あ、あと、わるいコト企んだらダメだからね!」
何故俺を見る。
「ふっふっふっ、ご心配無用だモン……我々には頼もしいリーダーがおりますモン!」
「我らが救世主様がいるトパからねぇ」
皆が揃って俺に期待の眼差しを送る。……飲み込みそうになるが、ちゃんと吐き出さんとな。
「……悪いが、今回俺は加担する気はない。お前らの方で好きにやってくれ」
一瞬にして空気が凍る。予想だにしてなかったのだろう。
「……どういうつもりだ鹿誠?」
「どうもこうも、言葉のままだ。黄谷も言ってただろう。皆に楽しんでほしいと。そんなイベントに俺がしゃしゃって皆の楽しみを奪う訳にはいかない」
「で、でも、大きな景品が賭かってるんですよ? 僕達の事なんていいですからやっぱり鹿誠様が――」
「別に何もしない訳じゃないさ。代わりに書記の仕事は俺が引き受ける。とりあえず今は様子を見させてくれ」
「で、でも、我ら何も考えてないですぞ」
「そんな筈はない。本当に黄谷のファンであれば何かしらは思い浮かべている筈だ。それを吐き出せばいい。そういう場だろ」
「……見損なったぞ鹿誠。お前は何よりも主を優先する男だと思っていた」
「勘違いしていただけの話だろ。ほら、時間は有限だぞ」
何もしない事を示す為に煎餅を齧る。塩味が利いていて美味い。
「ふーん、それは返って好都合じゃないか! それなら今こそ僕達のかこむちゃん愛をぶつけ合って、こんな干物より僕達のが優れてる事を証明しようじゃないか!」
「そうですな! 我々のかこむ愛があれば1位なんて余裕だモン! やりましょうぞ皆々様方!」
「……ククッ。面白い。今こそ俺の真の力を振るう時か。この命持つだろうか……フッ、元より主に賭けた命か。ならば天命で死するは本望!!」
「う、うおおお、新入りだからまだまだこの人らには付いていけないけど、自分も頑張るぞー!」
流石は瑛介。一瞬にして室温を元へ戻す。進行はコイツに任せといて問題はなさそうだ。だが干物って見識を広めるのは止めてほしい。
「よしっ、それじゃあ僕さっそくアイディアあるんだけどいいかな?」
「どうぞどうぞブリ」
「まず前提として、かこむちゃんの魅力を引き出すのは絶対だけど、それと同時にグッズの利便性も重視すべきと思うんだ」
「……彼女の魅力だけでは足りないと?」
「みんな魅力的。だから魅力だけで勝つのは難しいと思う」
「……成程。皆、眼に描く画≪まなこにかくえ≫は同じという訳か」
「はいはーい! だったら私、モバイルバッテリーがいいと思いまーす! 最近、調子悪くなちゃって丁度新しいのほしかったのよねぇ~」
「それ、完全に先生の都合エプ……」
「そもそも1000円までですから、収まりませんブリ……」
「あら、そんなルールあったのね、残念」
何しに来たんだよお前。
「そ、そんな訳で僕が考えたのは、クリアファイルケース――です!」
「クリアファイルケース? クリアファイルを入れるケースって事エプ?」
「そう。僕達アイドルファンが必ずと言っていい程対峙する宿命の内の1つ、それがアイドルグッズ収納! みんなも収納に悩んだりした事ないかな?」
「あぁ、確かに某≪それがし≫もグッズは段ボールの中に入れて押し入れに大切に保管してるモンねぇ。それで、愛でたい欲に駆り立てられたら取り出してるモン」
「自分は飾れるの物は飾って、後は机の引き出しに閉まってるブリね」
「いやいやお主、大切なグッズが埃被ったり、倒したりして傷が付いてしまったら大変だモンよ」
「――まぁまぁ、人それぞれって事で、みんなその問題に直面している訳だ」
「いや、でも収納グッズは市販でいくらでも売ってますし、わざわざグッズ化する程ではない様な気がしますが……」
「ふふん。そうだね。でも、もし収納グッズまでもが推しに染まっていたら素敵だと思わないかい?」
「――ッ!? 確かに、それは魅力的かもしれませんね……」
「その発想はなかったな。アイドルグッズをアイドルグッズで保管するなんて流石はアイドル神」
そういやコイツそんな風に呼ばれてるんだったな。当のアイドルからは変態呼ばわりされているが。
「……フンッ。ならばそのデザインは俺に任せて貰おう」
「うん! 佐々木君に描いて貰えるなんて大歓迎だよ。昨日上げてたかこむちゃんの絵も凄く良かったよ!」
「自分、尊すぎて涙が止まりませんでしたブリ。推し絵の供給本当に感謝しますブリ」
「推しをあんな風に出力できるの本当に羨ましいトパ。あ、あの素晴らしい絵、壁紙にしていいトパか?」
「……///」
嬉しそう。通称ブラックナイト佐々木。漫画家を目指してるそうで絵がとても上手い。当然監修係へとぶち込んだ。
「それじゃあ、とりあえず候補の内の1つに入れさせて貰うね……っと。それじゃあ時間は限られてるから、何かアイディアある人いたらじゃんじゃか発表してね!」
すっかりまとめ役となった瑛介はホワイトボードにキュッキュと記入する。
……素直に関心だな。少人数とはいえ、この変人共を上手くまとめ流れを作っている。俺には到底できない事だ。仮に俺が同じ様に再現してもこうはならない。そんなスキルを羨ましいと思うよ。……いいや、無理だと割り切り、欲する事すら止めたのに羨ましいというのは違うか。
――それから様々な案が出るも、最終的に瑛介の物が採用された。ただし、クリアファイルケースは限定的だ、との意見があり、最終的にグッズケースという形となった。A4サイズのプラスチックの書類ケースに黄谷の手書きイラストがプリントされている。
お値段おひとつ500P。上限1000Pに合わせ2種類のデザインを用意する事となった。このイラスト、デザインの受け付けは土日を挟み月曜日の朝までなら受け付けて貰え、大体はアイドルが指定された写真を撮影した物か、学園のデザイナーにお任せした物が使われるが、漢佐々木。命を賭し2種類のイラストを描き上げ、無事審査も通る。ありがとう。お前の犠牲は忘れない。
高校生が描き上げたとは思えないレベルの高いイラストで、想像よりもかなり完成度の高いグッズとなった。売り込みも上手くいった様子で手応えアリだそうで、グループも大きく自信を持ち、いざ販売の金曜日。
結果、4位。
真ん中なので良くも悪くもない結果だが、自信を持っていただけに失望も大きく士気も落ちる。
戦略を練り、丹精を込めたデザイン。それらを用いても尚届かなければ路頭へ一直線。
考えうる敗因は、認めたくはないが黄谷の人気。人気があまり勝敗には関わらないが、逆にあまりは起因するという事。そして、何よりもライバルも同等、またはそれ以上のポテンシャルを有していたから。
今回1位を獲得したのは柴崎チームの『どこでもらいなちゃん』。ボタンを押す事で、柴崎の罵倒ボイスがいつでも何処でも聞けてしまう優れ?物。『これからの猛暑をひんやり乗り切ろう!』がフレーズで、それがなんとおひつ1000P。という一見ただのクソグッズだが、なんとこれ音楽プレイヤーの機能も搭載されており、終いには、未解禁柴崎の新曲収録。という禁じ手を打って出た。これが売れない訳なく……。
目を張るのは、その禁じ手だろうが、何よりその根本にある攻めた姿勢こそが勝因となったのだろうな。
1000円で音楽も再生できる代物、しかもSDカードを入れている事から本体はもっと安い事を考えると、それを見つけ出す根気。そして、あの柴崎に新曲を要求する勇気。それは自らも相応の熱気を帯びていたからこそ実現できた事。
このルールのギリギリを攻めた姿勢。俺個人も学ばせて貰ったし、他グループにも大きな影響を与えたに違いない。この影響が、これから先にどんな変化をもたらすのか。1回目から面白い結果となった。――ちなみに黄谷チームには、悪い影響となった。
2日目の企画タイム。空気が重い。陰気を吹き飛ばそうと互いを鼓舞し合い、無理矢理に室温を高めながら企画を進めようとするが、所詮は虚勢。前向きでも歩は進んでいない。自信を打ち砕かれ踏み出せる訳がない。俺はそんな様子ただ眺める。軽蔑の目を向ける者もいたが、そんなのは責任転嫁でしかない。己の無力さを噛み締めとけ。
1つ意外だったのは瑛介の奴だ。俺の行動を批難するかと思っていたが、何も言っては来なかった。もう諦めているのか、はたまた信用しているのか。まぁどっちでもいいんだが。
そんな中で出来上がったのは『かこむちゃんうちわ』だった。6月中旬、既に猛暑に踏み込んでいる事から需要が増し、安価で購入し易く、しかもここはアイドル学園だから応援グッズとしても使える……という至って無難な理由。
ふむ、実に面白味がなくつまらない発想だな。自信を無くし奇を衒うのを躊躇うのは仕方がないが、折角1回目で面白い物を見せて貰ったのに、そこから生まれるのがこれか……。良くて6位取れればいい方だろうな。
結果、7位。
まぁこれは仕方がない。何故なら大半のチームが暑さ対策グッズを出してきたからだ。実際最近、蒸し暑いから仕方がないのだが。更にはうちわを販売するグループに被りが出たからな。こうなればこの結果は寧ろ納得でしかない。
で、1位を飾ったのは橙田チームの『特選粉ミルク』だった。まさかのニーズに媚びないストロンググッズが勝利をかっさらっていった。
値段も1000Pのストロング設定だったが、これは俺も買ってしまった。予め言っとくが、乳児用ではなくスキムミルク的なのだ。
やり口も上手かったな。――いや、向こうは狙った訳でなく、『粉ミルクを売りたい』という強い執念が勝利を掴んのだろう。まず1回目の時点で粉ミルクを売ると決めていて、手が届く範囲内であらゆる粉上のミルクを、馬鹿だから自費で購入し、グループで試飲し選定した物を専用の缶に移した物となっている。
決め手となったのは売り込み時間でのアピールだったろう。『高級な絶品ミルク』こんなワードを出されれば飲んでみたくなってしまうのが人の常。このイベントの販売スタイルも追い風だった。普段高級食材なんてそう簡単には手が出せないが、今回のイベントでは無料みたいなもの。それならばと、心のブレーキは緩んでしまう。
こういった売り方は盲点だった。食を愛する物として持っていなければいけない視点だった。
飲んだ感想は、思ってたより普通のホットミルクと大きな差はないが、繊細かつ明確に違いを送り届けてくれた。コク、喉を通過した後の香り、舌触りの優しさ。些細ながら大きなインパクトが体内に刻まれた。ささやかながら長く失せない感動をくれた橙田グループリーダーにありがとうって握手しといた。とりあえず同じやつ買って部室に置く事にした。紅茶やコーヒーにも混ぜれるし、これで身体にいいのだから最高としか言い様がない。
――そんな訳で、いよいよ第3回目が始まる。ここが本番だ。どのチームも今以上に全力を出してくるだろう。
そんな大切な局面なのだが、当の黄谷グループというと、
「みんなドンマイドンマイ! 今までは茶番で、3回目で勝てばモーマンタイなんだから頑張ろー!!」
「「「…………」」」
現状空気は最悪。当然、7位だからな。醜態もいいとこだ。最早虚勢すら張れずに、スマホやメモを見て事前に戦略を練っています感を出してチャイムが鳴るのを待っているだけ。黄谷が言った楽しんでくれ、という願いは何処へ行ったのやら……。
何故こうなってしまったか、それは1回目にて真っ当に戦っては勝てないと思い知らされたから。だから奇、すなわち実力から目を背け、無難へと走った。無難は便利だからな。
それと、責任からの逃避。突出すれば責任を背負うリスクが伴う。だから自我をしまう。
そんなとこだろう――とまぁこんな批評めいた事を言ってはいるが、別に俺はこのグループが他より劣っているなんて思ってはいない。1回目で結果が振るわなかったのは、その場の流れが噛み合わなかっただけ。運が悪かった。現状を正しく把握し次へ活かせたのなら、1位だって取れたろう。
ただ1つの思い上がりがあった。他グループに無い物がある。他のアイドルと違い連続で7位。可哀想だから少しでも力になりたい。おせっかいという名の使命感が黄谷ファンの中にはある。
……お前らに何ができる? どうせ頑張ったとこで与えられる変化は微塵。気にせずただ愛でながら学園生活を堪能してればいい物を。それが身の丈にあった行動であり、黄谷の願いだろうに……。その役割は俺が担うのだから。
――だからあえて言わせて貰おう。『行幸』と。
このやり方は今までの流れ次第では実行できない可能性があった。とことん追い風が吹いてくれた。ここまで歩き易いならもう迷う理由はない。役目を果たすとしよう。
手を挙げて口を開く。
「今回は俺も参加させて貰おうと思う。さっそくアイディアがあるんだが、いいか?」




