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3章1‐1 究極の食材、納豆。

 ――流創学園アイドル課は厳しい。



 そんな風潮がある。

 実際何がどう厳しいのか。俺は内側に行くまでその真相を知らなかった。それはつまるところ、現在の世間的風習には語弊が生じているという事。

 では何が違ったのか。そもそも風習とは、端的に言えば集団が描く平均的印象。今回はその語弊の原因を探る為、原点に返り世間的視点から流創学園アイドル課を見てみる。

 あいつらは……なんか凄い奴ら? そんなとこか。そのスペックの高さからきっと、厳しいカリキュラムの中で生きてるんだろう。とでも思ってるのだろう。実際それは正しい――が、当たり前すぎてそれだけは正解と言えない。

 『そうですね。ではカリキュラムがどう厳しいのか?』この問いに正しい返答ができて初めて正解を送る事ができる。 

 この問、世間はどう答えるか……ガチガチのレッスン、ギチギチのスケジュール。そんなのが大半を占めて、俺の体感、正解率は1%を切ると踏んでいる。

 何故なら答えは、『カリキュラムがほぼ存在しない』だからだ。簡単な答えだが、この回答を出せる人間はそうはいない。難題などではなく、ただの捻くれた引っ掛け問題だからな。こんな問題正解できなくても気を落す必要はない。

 話を戻すが、カリキュラムが存在しないとは。これは決して教育放棄などではなく、それこそがこの学園が究極の教育と信じて止まない理念。カリキュラムが存在しない事がカリキュラムなのだ。

 まぁ、全くないと言うと語弊になるんだが……。具体的に掘り下げると、まず入学当初に最低限の知識を授ける。それでも結論は教えない。ただ種を植える。その種をこれから生きていく中で己の力で開花させる。その過程がまた己をも育てるから。

 これがこの学園の共通倫理。自分で考える。考えさせる。それが才ある者への教育。

 この手法はあくまで万人に適応していいやり方ではない。あくまで才ある者だから乗り越えられると信じ施す教育だ。 

 ランキングはその教育論を色濃く抽出してると言える。この学園でのランキングは、卒業後でも大きな糧となる。故にアイドルらは必死で上位を狙いにいく。

 そこでアイドル達は、上位に立つ為にはどうすればいいのか? と考える。ライバルは皆才ある者。並大抵のやり方で勝つ事はできない。でもこの学園はその為の手を貸してはくれない。故に自力で超えなければならない。それしかないから。だから考える。勝つまで考える。才ある者といえそこに安息はない。それが流創学園アイドル課。

 ちなみに俺がこの手の事に詳しいのは理事長が著者する本(計4冊)を、モチベーションが漲っていた時期に読んだからだ。今思えばあの本で学んだ事は為になってるとは思うが、要点だけまとめて書けばあの4冊分の内容も精々10ページ程度で済んでいたろうに、本にしたいからって引き伸ばしすぎだ。そんなに儲けたいのかあのおっさん。 


 ――とまぁ、この学園にはそんな『自分で考える』ギミックが散りばめられている。

 最近教えて貰ったのだが、今俺がいるこのアイドル課食堂。ここはビュッフェ形式となっていて自分で好きな食材を選ぶ事ができる。プロの料理人が取り仕切っていて料理のレベルが高い。おいしい。

 そんな楽園にもこの学園の手は回されている。今日は何食べようかな~なんてワクワク献立の考案……な訳なくて。入学当初に叩き込まれる教えの内の1つに食事バランスなる物が存在する。1日に必要な栄養素、許容カロリー、摂取法などを把握させられる。

 こうして食の知識が身に付く事によって、毎日自分で食事バランスを考え献立を組み立てる様になる。茶碗1杯のご飯、味噌汁から、ウィンナー1本、卵焼き1つ、デザートはどこまで許容するか。大まかでいい。栄養バランスも大切だが、重要なのはただ考える事。

 この様に食堂もこの学園ならではの仕様となっている。

 てな訳で、今回は俺もそんな意識高い教育理念に乗っ取って、カロリー計算や栄養バランスを考えて朝食を選定しようと思います。おー。

 一度来てみたかったんだよな~朝食ビュッフェ。体育祭前の黄谷のトレーニングに付き合ってた時にアイドル課で泊まり込みした事があったが、あれはあくまで秘密のトレーニングなんで面前には出れなかったから食堂には行けなかったんだよな~。

 なので今日が俺のアイドル課食堂朝食デビュー日となる。今日は早朝からアイドル課に来ていたので折角だからと立ち寄る事にした。一応許可も取った。

 さて、ならば食事をセレクトする前に知識を付けねば……えーと……1度の朝食で700キロカロリーが目安と……必要な栄養素は、タンパク質、糖質、食物繊維か……。親切に解説しているサイトがあったのでザッと目を通してみる。

 タンパク質は筋肉量の増加、代謝の活性化などの効果アリ。卵、納豆、ヨーグルトなどから接種できますと。

 糖質は身体のエネルギー源。これを食べなければ力が入らないと。ただし、カロリー高めだから食べすぎ注意。ご飯、パン、麺類、などが該当します、か。これは意識しなくても摂取している物だな。へぇ~パンよりご飯のが消化いいから朝に最適なのか~。

 糖質制限ダイエットなる物が流行っていた時にある程度の知識は身に付けてはいたが、意識はしとらんかったな。だって炭水化物おいしいから。

 食物繊維か……聞いた事はあるが、どんな働きをしてくれるかはしらんなぁ。どれどれ……脂質、糖質、塩分を排出してくれますだと!? しかも、血糖値の上昇を緩やかにするだと!? チートじゃねぇか食物繊維! つまり二郎系ラーメンを食べてもこれで無効化できるって事か? ……まぁ流石にそんな甘い話はないか。接種できる食材はきのこ、海藻類、オクラ、納豆など……ってまた納豆お前か。それと玄米ご飯もおすすめ――あぁ、だからこの学園のご飯には玄米が入ってるんだな。

 よっし、これで俺も栄養素マスターだ! これで心置きなく朝食ビュッフェに挑める。

 カロリー詳細などは壁にポスターが貼ってあるのでそれを参考にしよう。

 ちなみにプロの料理人の人が来るのは平日の昼と夜で、朝はパートのおばさんが切り盛りしている。

 初の朝食ビュッフェだが、レパートリーは昼や夜の時よりは地味だが、それでも朝食にしては結構な種類があると伺える。うお~ワクワクが止まらん。時間に余裕がある訳でもないからさっそく参るとしよう。

 まず主食のご飯だな。これがなきゃ日本人は生きてけない。炊飯器を開けるとモクモクと湯気が立ち込める。グラムの指定はなくお茶碗1杯までなそうなので山盛りよそろう。

 主食は他にもパン類もあって、食パンやバターロール、クロワッサンまでも網羅していて魅力的だが、すまん、デビューはご飯と決めていた。

 ちなみにカロリーは、お茶碗1杯230――って高えなおい。高いとは聞いていたがここまでとは……。

 さっそく壁に当たり気が沈んでいたところに更なる刺客が。おい、これはまさかお茶漬けの素ではないか。……あぁ、やばい。これは食べたい。普段家庭料理に触れる事がないので中々食べる機会がないんだよな……。でもそうするとおかずと一緒にかき込めないし……いや待て……おかわりという手があるではないか。あくまでカロリーの制限は最初のチョイスだけ。つまり、おかわりなら問題はない。よし、後での楽しみにしよう。

 お供の味噌汁。これも外せない。味噌は地上最強の栄養食と言われている。黄谷も毎食飲めと太鼓判を押している。30キロカロリー、無いようなもんだな。具は豆腐とネギとワカメ、最高や。

 テンション回復でワクワクおかずコーナーへ。

 とりあえず取ると決めていた物から、納豆と卵焼き。カロリー計200か。本当は生卵にして納豆と一緒にかき込みたかったが、この食堂は食当たりを防ぐ為に朝と昼は生物を置かない。

 現時点でもう460キロカロリーか。残り240って少ねぇな……まぁやれるだけやってみるか。



 ――こうしてチョイスを終えた俺は卓へ着く。

 主菜に選出されたのは、ウィンナー2本、鮭の切り身1枚。副菜にフレッシュサラダ、オクラのお浸し、ひじきの煮物。デザートにプリンとヨーグルトとなった。

 合計カロリーは700キロカロリー以下となっている筈だ。途中オーバーする危機が訪れたが、そこで俺はあえてカロリー計算を止める事によってそれを阻止。これにより無事目標カロリーを維持する事に成功。

 本当はもっとゆっくり選びたかったんだが、周りにいる教師らの圧が強く、そそくさと選んで撤退した。朝の大人ってどうして余裕がないのだろうか。俺もいずれはこうなるのかねぇ……。

 まぁ先の事なんて気にせず、今は目の前のご機嫌な朝食だ。

 手を合わせ、


「全ての食材に感謝を込め――」


「何図々しく朝飯食いに来てんのよ。しかも独り言とかキッッショ」


「なんじゃテメェ、オラ」


 腹黒アイドル赤宮の横槍が入る。こいつ朝食とか取るんだな。


「いくらマネージャーだからって、図太すぎじゃなーい」


 はぁ……爽快な朝が台無しだ。


「ふん。ちゃんと平田さんの許可も取ってるわい」


「なんで連絡先持ってんのよ」


 平田さんはこの食堂の料理長。平日の昼と夜に現れたった1人でこの食堂を回す化け物だ。

 何故か知らんが絡まれる様になり、いつの間にか連絡先まで交換していた。


「お前には関係ないだろ。さっさと帰れ。食欲が失せる」


「ほーん。じゃあ相席といこうか。流創アイドルの有り難み分からせてやんよ」


「はぁ? なんでそうなんだよ。嫌がらせなら止めてくれ頼むから」


「アンタ周り見えてないの。朝は人が集中するから混むのよ。でもアンタがいるなら誰も来ないし、変なのに絡まれずに飯食えそうだからここにする事にしたわ~。まっ、1番の理由は嫌がらせだけどねー☆」


 あぁうぜー……。初めて女を殴りたくなった。なら俺が席を変えるか……いやそれだと負けた感じがして嫌だし、ここは俺も機転を効かせるか。

 ――てな訳でカメラで赤宮をパシャリ。


「ちょっ。何勝手に撮ってんのよ!?」


「いや~折角有難い流創アイドル様と相席で朝食取れる訳だしな。ファンのみんなに自慢しちゃおっかねぇ~」


 この画像が広まれば、悪い噂が流れる事間違いなしだろう。まぁ学園側に何されるか分からんから実行はしないし画像も保存しないが。


「うっわ、性格終わりすぎでしょ……。どんな生き方したらそんな歪むのよ」


「おっっっ前だけは言われたくないわ」


 最悪の空気の中で朝食が始まろうとした時、後方から更なる刺客が現る。


「あらあら~相変わらず仲良しなのね~」


「「どこがだよ!!」」


「ふふっ。朝から元気ね~。お母さんも負けてられないわ!」


「いいえ。気分最悪です」


「私もでーす」


 魂の宿る万力プレスこと橙田。ヤツはこの空気を感じ取れないのだろうか。それとも和ませに来たのか。

 更に刺客はそれだけに留まらず、


「なんでアンタがいるのよ。朝からの不のオーラ浴びたくないんだけど」


「もうそれさっきやったから止めてくれ」


「マネージャーだからって、ちょっと勘違い――」


「だから止めろと言ってるだろ」


 3年後に頭抱え込む痛女、緑沢。朝はさっぱりが定番だろうに、何故にも胃がもたれそうな罵声を浴びねばならんのか。


「まぁどうでもいいけど……私達はあっちにでも――」


「それじゃあ折角だしお母さん、文空君の隣座っちゃおうかな~」


「なんでだよっ!?」


 こちらの返答も待たずに隣へと座る橙田。同時にジャンプーやらそんな感じの匂いが朝飯の湯気に混じる。別にこの匂い自体は嫌いじゃないが、食事中には勘弁してほしいな。はぁ……折角の朝食ビュッフェデビューが。


「ちょっと、なんでこんな奴の隣に座るのよ?」


 ごもっともだ。是非ともあっちに行ってくれ。


「いいじゃない、沢山の人と食べた方が美味しいわよ――それよりさぁ、文空君、これ見て」


 こちらに寄ってスマホの画面を見せ付ける。緑沢はもう駄目と悟ったのか、ため息を付きその隣へと座った。


「どうかしらこの衣装? 男の子の意見も取り入れたいから、素直な感想がほしいの」


「あーこの前言ってた……」


 画面には橙田が描いたであろうアイドル衣装のラフ画が表示されている。まるでプロが描いたかの様な画力でデザイン云々よりそっちに関心が向く。こういった技能を当たり前とするのが流創アイドル。


「あゆみちゃんに着せるからには変な衣装にできないでしょ」


 前の高咲が作った仕事、卒業生の先輩のライブに着る衣装のデザインの依頼だったか。あれは1度取り下げられたものの、それからまた復活したそうだ。緑沢も同様に。

 ……これで、俺が睨む奴の狙いがより確信へと近づいた訳だが――


「ねーえっ、ちゃんと見てる?」


「えっ、ああ済まない」


 別の事に意識が向いてるのを察知したのか橙田が再び詰め寄る。俺が悪かったから指を鼻をつまむ形状にしないで下さい。


「こーんなまともな人生経験無さそうなボンクラに人並みの感性が備わってる訳ないでしょ。聞くだけ無駄っしょ」


 黙って飯食ってたかと思えば、少し隙を見ればこれだよ。


「仕方ないでしょ。一般生徒の子達に見せる訳にもいかないし、こんなのでも参考にするしかないのよ」


 こんなの?


「ぷふふ……こんなのだって」


 本当にもうコイツらさぁ……。


「あっいや、それはあの……そういう意味じゃなくてね……アレなのよ?」


 言い訳が思い浮かばないなら喋るな。


「はぁ……まったく……」


 俺はプイッと顔を背け、納豆のパックを開ける。空気がどんよりして無言の時が流れ始めるが、こちらとしては好都合。不機嫌な朝食を取るとしよう。

 ――だが、そんな空気はどこ吹く風に吹き飛ばされる。


「おー文空じゃねーか! なんでいんだよ?」


 思わず舌打ちしそうになるのを抑える。折角訪れた安息の間に騒がしい青松を投入だなんて、和室でゆっくりお茶を啜ろうとこでバーベキューを始められる様な物だ。


「……済まない。俺はこれから朝食を取るんだ」


「んーなんだ? 機嫌悪そうだな。コイツらになんか言われたのか?」


「も~ゆいかちゃんったら。人聞きの悪い事言わないの」


「そうよ。コイツは私達に囲まれて鼻の下伸ばして照れてるだけよ」


 もうツッこむの疲れた。


「文空はそういうヤツじゃねぇだろ。どうせみつなかみゆきがなんか言ったんだろ?」


「2人共、ちゃんと誤りなさい」


 お前もじゃい。


「……ったくよぉ、お前らいつも言ってんだろ。悪口も立派な暴力だって。アイドルは人を愉快にするモンだろうが」


 やばい。初めての味方に心温まって泣きそうだ。


「いうてコイツも性格終わってるっしょ。おあいこっしょ~」


「いやっ、それはまぁ……そうだけどよ」


 頑張ってくれ。負けるな。


「でも、文空は本当はいい奴なんだよ」


「それじゃ~あ~お母さん達はいいトコないってコト?」


「そんな事ねぇよ! ただ悪りぃとこはちゃんと正すべきだって思っただけだ」


「……本当にそうかな~。すぐにわるいコトって決め付けて否定するのはどうかと思うの」


「な、なんでだよ?」


「例えば、みつなちゃんは確かに口が悪いけどね。実はこういう子ってね、本当の自分を曝け出して否定されるのが怖いからって自己防衛の為に尖った行動をしちゃうの。覚えといて、これが典型的ツンデレ女の心理なの」


「はー? はーい? 意味分かんないんですけどー? これが私の素なんですけどー? 他人を罵るのが楽しくて仕方ないんですが? おいっ、そこの干物、頷くな!」


 心理学的根拠もあり、納得のいく見解だった。


「みつな……そうだったのか」


「違うわよタコ!」


「そっ。だから勝手に自分の考えを押し付けないで、相手の身になって理解してあげるのが、真の愛ってやつなのよ」


「成程……ありがとな! 勉強になったぜ!」


 学んだ事が頭から漏れない様にする為か、腕を組み黙り込む。取り込んだ物を噛み砕き、飲み込んで糧とする行程に移る。食事前に別の食事。

 青松は変わろうとしている。王になるという壮大な目標を掲げる様になってからは、この様に一度立ち止まり物事を捉える素振りを見せる様になった。まだまだ迷走している様だが。

 橙田もそんな青松を気遣って……と見せかけて、ただ上から物を言われるのが気に入らなかっただけ。と洞察できる様になるのはいつになるやら……。

 それにしても人の資質か……朝食に気を取られていたが、そういえばこれから6月のイベントの詳細発表だったな……。


「ねーねー私はー?」


「え、みゆきちゃんはね~その~ね~」


「ぷふっ」


「おらクソ干物、もっかい干すぞコラ」


 いやー愉快愉快。これでようやく快く朝飯を取れるってもんだ。


「わ~文空君、モテモテひょもね~!」


「どうも」


「みゆきちゃんがみんなとご飯食べてるなんて久しぶりひょも」


「どっかの誰かさんが勝手に隣座ってくるパターン抜けばそうかも」


「みゆきちゃんの隣の席予約ひょも! ご飯取ってくるまでバリア貼るひょも!」


 魔術に覚醒した黄谷は朝食を取りに走る。


「ふふっ、賑やかになってきたわね~」


「なんで満席になるのよ……」


 不服そうに鮭の皮を齧る赤宮。さっさと食べて離席したいのか食事のペースが早まっている。

 俺もさっさと朝食タイムに入りたいが、その前に時計に目を移す。8時手前。イベント内容発表の時間か。タイミングがいいんだか、悪いんだか……。仕方ないが、朝食はそれに目を通した後だな……。


「どうしたんだよ? 食欲ないのか」


「いや、そろそろ来る頃だと思っ――」


 噂をするとなんとやら。通知音が一斉に響く。


「わっ、びっくりひょも」


「こっちがびっくりしたわ」


 後方から来た黄谷も急いで席に付き、一同はアイフォンに着目する。アイドルも通知が届くタイミングは一定なんだな。

 周りも静かなのはありがたい。んじゃ、内容を――





 ―6月アイドルイベント―



 ・アイドルグッズプロデュース対決!!


 このイベントは、アイドルファン同士で集まり一丸となりグッズを考案していくイベントとなります。



 ~ルール説明~


 1.まず一般生徒は1人のアイドルを選択します。1度選択したらもう変更はできないので慎重に決めましょう。


 2.本日5時限目にイベントの解説があります。その後、選択したアイドル毎に指定された教室へ移動し、グループ内でそのアイドルのグッズを1つ考案して貰います。またグッズにする物には条件があるので事前に把握しておくこと。

 

 ・1つ1000円以内で作成できる物。

 ・販売価格は100円単位で、原価を下回らない値段にする事。

 ・必ずそのアイドルが写っているか、又は強く連想できる物である事。

 ・製作に時間を要さない物、具体的には1週間後に直接販売できる物。


 グッズ担当の教師がいます。最初の段階での判断は難しいでしょうから些細な事でも積極的に相談しましょう。


 3.グループ内で各々担当役割を決めて貰います。

 役割については以下参照。


 ・グループリーダー(前回定期テストでの最高得点者1名)

 それぞれの生徒の意見をまとめ、最終決断を下す者。強い決定権があり、リーダーの意見には逆らえません。

 ですが、学園側が望むは、生徒1名々の意見を汲み取り、皆が納得できる結果へ導きけるリーダーであってほしいと願ってます。

 ・書記係 グループの意見をまとめ記録する。

 ・集計係 売上金の集計などの金銭に纏わる事を担当する。

 ・宣伝係 グッズ広告の作成などの宣伝をする係。

 ・監修係 グッズの外見などを担当する係。

 ・売込係 他グループへのアピールの時間が儲けられますので、その時の売り込みを担当する係。

 ・応答係 グッズに対する質問や意見、感想を聞き受けまとめる係。


 各グループ必ず1係に1人は配属している事。


 4.グッズが決まったら、グループリーダーはグッズ担当教師の元へグッズアイディアを記載したプリントを提出し、審査を受け、販売許可を貰って下さい。許可を貰うか、又は制限時間到達で解散となります。

 もし時間内までに決まらなかった場合はリーダーとグッズ担当教師2人で決めて貰います。


 5.企画から1週間後、そのグッズは全2年生徒が購入可能となり、購入に辺り学園側から、3000円相当に値する3000ポイント(以下P)が配布されます。そのPでのみグッズの購入が可能となります。但し自分の担当するアイドルのグッズの購入はできません。また、アイドル1人につき1000Pまでの利用となります。グッズの購入は1時限目後からその日の昼休み終了までとなります。購入忘れがない様に注意しましょう。


 6.以上の事を3週分繰り返して貰います。その間、1週毎に3で決定した担当の変更が可能です(リーダーを除く)。2周目以降は1時限目と6時限目がイベント時間となり、1時限目は各グループの売込係によるグッズアピール時間となります。


 7.そして、グッズ売り上げにて1位を獲得したアイドルには以下の景品が贈呈されます。


 1週目 流創食堂新メニュー食レポ動画撮影。

 2週目 新アプリ広告担当就任。

 3週目 ホール1日貸し切り。そのアイドルの望む要望を極力叶えます。



 ~あなたの発想で、推しのアイドルに豪華景品を献上しちゃいましょう!!~




 ――これが今回の企画の要項となる。

 やはり毎年2年が6月にやるイベントは同じみたいだな。

 ルールをザックリまとめると、

 同じアイドルファンで集まって相談し合い、グッズを1つ考案。

 1週間後に3000円相当のポイントで他グループが考案したグッズを購入可能(1アイドル1000ポイントまで)。

 売り上げ金トップのアイドルには景品が貰える。それを3週繰り返す。


 長ったらしいルールだが要点はこんなもんだ。学園側も生徒ら全員が熱心に目を通すとも思っていないだろうから、イベント前に説明を受ける時間が設けられる。

 この学園は毎週金曜日の5、6時限目はアイドル時間≪タイム≫と言われ、アイドルに纏わる授業? が行われる。

 一読を終えたので周りを見渡すと、他の奴らはまだ画面を吸い付くかの様に見つめていた。やはりイベントとなると目の色が変わる。真剣勝負だからこそひりつくのだろう。あ、いや赤宮は納豆ご飯かき込んでたわ。

 そんな中、緑沢も読み終えた様でさっそく切り込む。


「グッズプロデュースねぇ……まぁ他力本願イベントだからどうでもいいわね」


 そうわね。今回はアイドルが加担する要素はない。


「私達はなんもしなくていいなんて最高ー! 毎回こんなんでいーのに」


「うふふ、私の子達はどんなグッズを考えてくれるのかしら」


 橙田のその言葉に真っ先にしょうもない発想が頭を過り、込み上げる笑いを抑える。

 よし、なんとか抑込――


「おしゃぶりやよだれ掛けじゃな~い。それ付けてライブ見に来たりして~」


「んっふふっ――わあああああ、んんんんんッ!!」


 やめて、鼻摘まれたら朝飯の味しなくなっちゃうから。

 それを見た赤宮は愉快そうに味噌汁を口へ運ぶ。あの野郎……。


「……このイベント不平等じゃねぇか? ファン多い奴が有利な気するが」


「そんなは事ない」


 赤くなった鼻を摩りながら補足する。


「あん? なんでたよ?」


「ルールにもあるだろ、自分のアイドルのグッズは買えないって」


「それは分かってる。でもやっぱ人気な奴程売れるだろ」


 流石に侮りすぎていたか。だがそれでも――


「ファンが多い程、グループ人数は増える。つまり買い手が減るって事だ」


「確かに……いや、でもそんな人数に大差がある訳でもねぇし……」


 妙に食い付いてくるな。納得がいくまで噛まないと気が済まないようだ。


「1人のアイドルに1000円まで。ここが肝だ。つまり、一般生徒は最低でも3人のアイドルに入れる事になる。しかも自分が1番推してるアイドル以外にな。となればアイドルの好み以外にも、グッズの有用性も購入の視野に浮き出てきたりもするだろ」


「なるほどな~。為になるぜ。人気だからって有利な訳じゃないんだな」


「でもそれだと推しのグッズ欲しさにあえて別のアイドルに付く奴が現れたりして~」


 赤宮の捻くれた横槍。俺は透かさずそれをキャッチする。


「ふん、馬鹿だな。そんな目に見えた穴を塞がない訳ないだろ。自分らが考案したグッズは無料で貰えんだよ。それに自分の推しを勝たせるイベントでわざわざ別のアイドルに行くかよ。このウスラトンカチハゲが」


「一言余計なんじゃ! てか、なんでそんな詳しいんだよ気持ち悪い」


「事前調査をするのは当たり前だろ」


「……いいわねぇ~そんなに熱心になって貰えて。羨ましいわ~」


 橙田はそう言うといきなり俺の頭をポンポンと叩き出す。


「おい、止めろ」


「うふふ。照れないでいいのよ~」


 どこが照れてる様に見えるんだよ。


「やめるひょも! 文空君は渡さないひょもよ!」


「ん~もしかしてかこむちゃん、嫉妬しちゃってるのかしら~」


「違うひょも! そうやって文空君を自分の物にしようとしてるのはお見通しひょも!」


「そんなことないわよ~。ね~?」


 そういって今度は席をこちらへ近付ける。からかっているのだろう。


「も~油断できないひょも」


「安心しろ黄谷。俺は他の奴に付いたりなんてしない」


「「くっさ」」


 赤宮と緑沢が見事にハモる。……確かに今の発言は臭かったかもしれない。

 恥ずかしさが込み上げてきたが、それを認めたら負けな気がするので誤魔化す様に朝飯に向かおうとすると、


「……あ、あのよ、話戻して悪りぃんだが、やっぱ人数が少ない分不利になる要素も多いんじゃねぇか? ほら、係分担も人が少ない分手間掛かるだろうしよ、人数多い方がいいもん考案できるだろ?」


 まだ消化を終えられていないようだ。今は別にいいがこれからも続く様なら面倒臭そうだ。


「……まぁ、そこは一長一短だな。物理的な面だと、役割において1人の負担は重くなる。だが創造の面においてはそんな事ない。人数が多いって事はそれだけ案が増えるという事。つまりその分難航するし、構想がまとまらずグッズのクオリティも落ちかねない」


「……やっぱ人生って奥深けぇなぁ」


 おっさんか。まぁそれだけじゃないが、これは説明しなくていいだろう。これ以上何かを詰め込んだらオーバーヒートを起こしそうだからな。そもそも今言った事も完全には理解できてないだろう。

 で、それが何かって、結局のところ創造に数は関係ない。1をいくつ掛けたところで1にしかならないように。

 結局のところ最終的に物をいうのは優秀な人間がいるかどうかでしかない。そんな人間が大衆に紛れてしまえばそれだけその思想が薄まりかねない。

 まぁこれは極論で、人数の多さで足し算は起こるし、その個人しか持ちえない物もある訳で。ただ不用意に人数拵えればいいという問題ではない。という事だ。


「……どうしたのかこむちゃん? 何か分かんない事あったの?」


「う~ん、このイベントの意図が見えないひょも」


 意図。それを指すのは、このイベントの意味だろう。アイドルタイムはあくまで授業。遊びの時間ではない。毎回イベントには必ず意味。教育意図がある。

 黄谷は今回のその意図が気になっている様だ。


「そんなの想像力を鍛える為でしょ」


「そうねぇ……それくらいしか思い浮かばないわねぇ~」


 緑沢と橙田の考えは間違いではないが、正解ではない。

 俺はその答えを知っているがそれを言う様な無粋な真似はしはい。

 あくまで考える事が重要だからな。


「……う~ん、本当にそんな簡単な理由ひょもかね~。もっとなんか明確な意図がある気するひょも」


「はぁ? 他に何があるって言うのよ」


「……なんか役割が沢山あるのが気にならねぇか?」


「確かにそうねぇ……やけに細かすぎる気もするわね」


「なんかの技能を身に付けさせる為じゃねぇかって思うんだが……」


 そこまで見えてるなら後1歩だな。

 

「なんの技能よ? こんな下らない事で技能なんて身に付く訳でしょ」


「でもよ、こんな役割作んねぇでも、普通に話し合うだけでどうにかなりそうじゃねぇか?」


 先程から青松が鋭いとこを突いている。頭が切れるタイプではない筈だが、勘が鋭いのだろうか。

 こうやって観察していると様々な部分が見えてきて面白い。先程の橙田の言う様に、表面だけで人間を判断するのは浅はかだと思い知らされる。

 そして、そんな資質にフォーカスを当てる事こそが今回のテーマとなる。


「――ああっ! わかったひょも! 会社ひょも! これは会社での商品開発になってるんだひょも!」


 流石は黄谷。ポンコツな印象に反し頭の回転が早く、こういった場面において真っ先にその才が頭角を現す。

 そう、今回のイベントのテーマは、言うなら社会の予習。このイベントを通し己の秀でた部分を見つけ知る。やがてそれが社会に出た時にアドバンテージとなるからだ。

 資質は理解が早い程に良い。人は資質を認識した時からそれを伸ばし始めるからだ。もしかすればその体験によって望む進路が頭角を現す可能性もあるしな。

 だから1週間毎に役職を変える事ができる様になっている。3週目の景品だけ豪華なのは1、2回目は試行錯誤の段階としているからか。

 まぁあくまで学園側は回答を出してる訳ではないのでただの洞察になるんだがな。簡単な答えに見えても、前提がないと見えにくいものだ。


「あ~会社か~。言われて見れば確かにそうだな……すげぇなかこむ、よく分かったな」


「えへへぇ~それ程でもあるひょも~。でも、ゆいかちゃんがヒントをくれたお陰ひょも」


「確かにいい線いってたかもな。でも辿り着けなきゃ意味ねぇかんな」


「そっか~、役割の名前がちょっと幼稚だったのは、それを隠す為だったのね」


 そこが大きなヒントだったな。特に会計係、売込係は露骨だな。言い換えれば経理、営業だ。


「……だからどうしたって言うのよ。分かったとこで何にもならないじゃない。下らない」


 こいつは本当に他人を認めないな。友達いないんだろうな。


「すました顔してっけど、アンタ分かってたの?」


「ああ。今回のは分かりやすいしな」


「ふーん。随分予習バッチリだけど、なんか悪だくみでもしてんでしょ?」


「……人聞きの悪い事を言うな。今回のイベントは集団によるもの。1人の意思をそのまま通す事はできない。手の施し様がないだろ」


「どうかねぇ~」


「文空君頑張ってひょも~」


「ああ、全力で挑むが、1位の保証はできないのは許してくれ」


「ファンのみんなと楽しんでくれればそれでいいひょも!」



 ……済まないが楽しむ事はできそうにない。だが、勝利は献上してみせる。

 個人の能力が反映しにくそうなイベントに見えるが、視野を広めればいくらでもやり様はある。だから勝ちにいく。


 俺はアプリにて『黄谷かこむ』を選択する。

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