EX2 流創カードゲーム 後編2。
――いよいよ販売日当日。
直前までバタバタしていたが、万全な状態で迎えられたといっても過言ではないだろう。
対戦動画は編集の一部を学園の人に手を借りたりして無事に終え、予定通り水曜日アップできた。視聴者の反応も好評で、そのお陰か学園掲示板はこの話題で持ち切りで、専用の掲示板が開設されたりもした。同時に問い合わせも多く、瑛介と共に1つ1つ丁寧に嫌々対応した。これは後々学園の方で専用のチームを作り引き受けてくれるそうだ。有難い。
そんな反応からか、売り場をグッズ室から空き教室を1つ手配し、そこで販売する事になった。その為前日に慌てて売り場を設営。その場で開封ができる様に机と椅子を配置(対戦は禁止)、瑛介が作成したポスターを貼ったり、モニターを設置し動画を流したりし内装も鮮やかに。在庫が見えぬ様にカーテンで区切るなど無駄な拘りを折り込み、前日に取り急ぎとは思えない仕上がりとなった。
そんなこんなで非常に疲労困憊したが、無事にアクシデントもなく木曜日に販売を迎えられた。
販売は放課後。夏休み前の惰性登校期間なので直ぐにその時は来た。俺と瑛介は特別に帰りのHRをキャンセルできたのでダッシュで売り場へ。お手伝いで来てくれたグッズ科の人と最終打ち合わせをし、瑛介が提案した謎の円陣を組んで持ち場へ着く。俺はレジをする瑛介に商品を運ぶ係だ。で、助っ人のは臨機応変に手の足りない方をカバー。
俺は柄にもなく大変な方を引き受ける事にした。本当はレジが良かったんだがな。この学園には独自の決済システムがあり、基本は自分のアイフォンで決済を行い月末に請求分を支払う形となっている。ネットで決済できてしまう為、グッズ室も無人で慣れてしまえば決済に手間も掛からない。今回はQRコードを読み込み、購入画面を見せてその商品を渡すだけなので、めっちゃ楽……なんだが、俺に接客が不向きなのは自負している。そこは無駄に喋りが上手く顔も広い瑛介に譲るべきだろう。
で、俺の仕事は瑛介の言う商品を運ぶといったもの。これもそんな大変という訳でもないが、如何せん種類が多い。一応ブースターパック1人5箱まで、スターターデッキは各1種1つまで。反響の大きさから購入制限も設けているが、それだけではない。
ちなみにFカードだが、これらの1ボックス、又はスターター1つにつき11枚プレゼントという事になっている。つまり、スターターを3種買うだけでも33枚。そんなにいらないと思うだろうが、色が違うだけだが各アイドルをイメージした7種類が存在する為、複数購入しても問題はない。当然種類は選べないが。
後はサプライのスリーブ、プレイマット、デッキケース。それらを各アイドル7種。アイドルを間違えん様にせんといかん。
しかし、サプライはそれだけに留まらない。カードゲームに詳しい奴からアドバイスを貰ったのだが、キャラクターが記載されたスリーブを傷付けない為のスリーブが必要なそうで。もう阿保かと。しかも外側でなく内側から傷付けない物も必要と。外側の物をアウター、内側をインナーといい、これらがまたややこしくしている。
それらを運ぶ時に落したりせぬ様に籠に入れてレジと倉庫を往復する訳だ。最早完全に仕事だ。1円にもならない。やる気なんて毛頭湧く筈もないのだが……今俺は妙に緊張し、そして、ワクワクしている。自分の考案した物が手に取られ、どんな反応が生まれるのか。作物を収穫する農家もこんな気持ちになるのだろうな。
腕を組み目を閉じて時を待つ……普段やかましい瑛介も緊張しているのか静かだ。
HR終了のチャイムが響く。これは俺達にとってのホイッスル。間もなくしてダッシュしてきたであろう生徒らが売り場へ駆け込む。
☆
「ふぅ~~~疲れたね~~~」
「…………」
「大丈夫? 生きてる?」
「……あぁ……」
無事販売を終えた俺と瑛介は部室へ来ていた。俺はあまりの疲れに床に横たわっている。
現在17時位だろう。時計が見えない。見る気もない。販売が12時前から始まったのを考えると結構な時間働いていた訳だ。
常に立ちっぱなしだし、エアコンこそ効いているが人口密度が高いから暑くて体力も奪われていった。途中助っ人の人が扇風機や水を持ってきてくれなかったら熱中症不回避だったろう。
「いや~それにしてもめっっっちゃ売れたね」
「だな……」
カードゲーム舐めてた。具体的な売り上げはまだ数えてはいないが、25箱あったカートンが残り3箱位になっていた。おかしいだろ……どんだけここの生徒金持ってんだよ……。俺の想定だと最初はスターターが売れて後からパックがじわじわ売れていく算段だったが、まさかいきなりここまで売れるとは……。恐らくだが、大反響のあまり売り切れを焦った生徒が続出する現象が起きたのではと踏んでいる。マネーは後払いだからブレーキも緩いしな。
カードに限らずサプライの売れ行きまでも良好で、藍坂、柴崎の物は売り切れるのまであった。
故に引っ切り無しに客は押し寄せ、始終働く羽目となった。
ブースターに関しては明日にでも売り切れるだろうから速重版を依頼した。数は300ボックス程。向こうが言うには2、3週間でできるそうなのだが、まだ要望通りの数作れるかは分からないそうだ。正直これは手痛いミスと言える。購入できないせいで、その空白の期間中にモチベーションが失せる、なんて事があるからだ。対策は勿論打つ。とりあえず急遽特番を増やす為に黄谷と緑沢にアポを取った。とにかく再入荷までモチベーションを尽きさせない事が重要だ。
だが、夏休みには高咲考案のイベントも始まるので、そう時間を割いてもいられないのだが……。
「噂には聞いてたけどカードゲームって凄いんだね~」
「だな~」
「でもようやくこれから夏休みだ~~~」
「……夏休みも色々やるから頼むぞ~」
「え、聞いてないんだけど」
「忙しくていう暇もなかったからな~」
「なかったからな~じゃないんだよ。……まぁ、内容次第だね」
「まずは大会だろ~」
「大会か~面白そうだね。なんのデッキが勝つかな」
「最初は様子見でスターターデッキのみにしようと思ってる」
カードが出回ってないと格差が生まれてしまうであろうから、最初は平等にいく予定だ。
「そうなんだ。それなら僕が行く必要はないんじゃないか?」
「実況に黄谷を呼ぶ予定だ」
「行くよ。任せな」
「後はまだ触れてない層を引き込む為に体験会とかな~」
「それは僕――」
「こなきゃ解雇な」
イベントとなると対戦用に机や椅子を運んだりしないとだから人手が必要だ。
「それはあんまりじゃないか」
「どうせお前なんて毎日登校してんじゃねぇか」
「土日は流石に行かないけどね」
「イベントないもんな……」
いや、そうじゃなくて、と言おうとしたら――
「――あ、そういえばまだ反応見てないね」
「あっ、そういやそうだな」
疲れのあまり忘れていたが、ユーザーの反応は楽しみの内の1つだ。学園掲示板は家では見れんから今しか見れないから今見んと。
「……えっ、嘘!? もうパート2いってるんだけど」
「マジかよ!? まぁ、あれだけ売れりゃあそうなるか……なるのか?」
掲示板は1000回書き込みされると次のスレッドへ以降する。最高でも199人の規模でパート2だなんてどれだけ白熱しているんだ。
「パート2も327とかいってるよ」
「うわっ、で、どうよ反応は?」
今はスマホを見る気力もない。
「……全体的に好感触だね。あ、文空褒められてるよ。一人でこれ考えたのなら凄いって~」
「それ程でもあるな」
まぁ、この掲示板は匿名ではあるものの、学園側には誰が書いてるか筒抜けなので批判的な書き込みをする生徒はほぼいないんだが。
「やっぱり最初は僕の予想通り青松橙田黄谷が強いって言われてるね」
「想定通りだな」
「分かり易くシンプルで強いからね」
青松のF加速によってFを増やし、橙田の高コストカードで握り潰すデッキだ。
そこに潤滑油の黄谷が上手く機能している様だ。黄谷の特性、ドロー。ドローはカードゲームにおいて非常に重要な役割を担う。だからこの特性を黄谷に当てた。
こう見ると黄谷はスターターデッキにいないってだけで相当優遇されているな。
「他にはなんかあるか?」
「後は、青松緑沢黄谷をちょくちょく見るね」
「青松も人気だな」
「マナ加速は強いよ~」
F加速からの破壊。これもシンプルに強い。
やはり初日はシンプルで強いデッキに注目が集まる様だ。
だが、これからは予想もしなかったデッキが現れるのだろう。所詮高校生二人の試行回数では限界がある。直ぐに試行回数は抜かれ新たな発想が生まれる事だろう。それもまた楽しみである。同時に不安でもあるが。
「あーそうだ。カードの出回りはどうよ?」
全国展開のカードゲームと違い販売数が圧倒的に少ない上、カード単体での販売がないからな。組みたくてもデッキが組めない人間が現れる事を懸念していた。
「あ~確かにカードのトレード募集多いね」
「成程。トレードか……なら専用の掲示板を立てて貰うか」
「確かにそれはアリだね。僕がお願いしとくよ」
スレッドは学園側しか立てられないので要望を入れる必要がある。
「あーあと、流創黄谷を当てた奴はいるか?」
「自分で見ろよもう……あ、パート1の方に写真上がってるね。レス沢山付いてるや……祝う声から怨嗟の声まで、まるで人気者だね。名前晒されてるし……あっもう1人いたね、こっちも凄いや。でも、掲示板を見る限りは2人だね」
目論見通り大きな注目を集めている様だ。これで黄谷の人気にどれだけ影響があるのかどうか……。
「後1枚はまだか……それとも誰にも明かしてないのか」
「僕なら自慢しまくるね」
「だが奴らは3枚しかない事を知らない」
「やっぱ流石に3枚はやりすぎじゃないか?」
「いやこれでいい」
「ちなみに再販売分の中には何枚あるんだい? 300ボックスだから2枚かな」
「1で~す」
「おいおいおいおいおいおいおい」
「どうせこの感じなら売れるだろうしええやろ」
「そういう問題じゃなくてだね――あっ、前から気になってたけど第2弾の流創レアは誰なんだい?」
「それは大会の景品予定」
「はははっ、そりゃいいや」
無料でかつ平等な塩梅。正直最初が黄谷なら後は誰でもいい。
「もう1度言っとくが、お前は大会だけじゃなくて、生徒との対戦も禁止だからな」
「分かってるって……でもさ、僕考えたんだけど、僕達開発と対戦できるイベントとか開いたら面白そうじゃないか?」
「……アイドルならまだしも、俺達になんの需要があるんだよ……」
自己評価高くないと思いつかんだろその発想。
「そっかぁ……というか、お腹空いたね。そういえばお昼からなんも食べてなかったね。今日は頑張ったしアイドル科食堂でも行こうか」
「……んだよ藪から棒に。言い忘れてたが、飯なら頼んである。今日は奢ったる」
色々働いて貰ったから特別だ。俺も疲れで空腹を忘れていた。
「頼んである? 奢りってまさか……前みたくまたコンビニに取りに行かされるやつ?」
「そんな事あったな。安心しろ今回は来てくれる」
「ここまで配達に!? ――いや、まさかこの3つ目の椅子って?」
「そのまさかだ。お、もう届いた様だ。これからこっち来るってさ」
「やったああああああ」
飛び上がる瑛介。どこにそんな元気が残ってる。
――数分して。
「お待たせしましたー! ピザお待ちどう様です!」
出前館で注文したピザ。鉄板のコーラ付き。更に黄谷の要望でサラダ3つ。
この学園の生徒は出前禁止だが、アイドル科とその関係者であれば、裏口の受け付けの人が受け取ってくれるので黄谷に持ってきて貰った。
「うおー待ってました! 3枚もあるじゃないか! 僕お腹空きすぎてへそが背中貫通してるよ」
「どういう構造じゃい」
俺も身体を起こしてピザとの臨戦態勢に入る。
「かこむちゃんも一緒に食べるのかな?」
「はい! 私もピザ大好きです!」
「それは楽しくなりそうだね! で、何頼んだの?」
「えーとこれが、テリヤキチキンで、これがなんか美味そうだった肉のやつ、で、これが黄谷のリクエストのエビマヨだな」
「エッビマヨマヨエビマヨ~」
懐かしいなおい。
「うわ~いい匂い。ピザなんていつぶりかな~じゃあさっそく」
「いけません!」
「えっ、あ、行儀悪かったね」
「最初はサラダを食べるんです。いきなり重い物を食べると身体がびっくりしちゃいます」
俺も怒られたわそれで。
「あ、そっちね。身体を気遣ってくれてありがとね」
「それにまだ乾杯もしてません」
黄谷はそう言い頼んでもないのに持ってきてくれた紙コップと紙皿を広げる。相変わらず気が効く。
俺も働かねばとコーラをコップに注ぐ。
「黄谷はどうすんだ?」
黄谷は炭酸が苦手なので飲み物は持参するよう促したが。
「私は自前のお茶で」
黄谷は食事中にジュースは飲まない主義らしい。
全員の手に飲み物が渡ったのを確認し、
「それじゃあ、今日の勝利を祝って――」
「「「かんぱ~~~い!!!」」」
そんな訳で、何に勝ったか分からない祝勝会が始まる。
「サラダどうすんの? 3つあるけど?」
なんか3種類あったから全種買っといた。
「俺はなんでもいい」
「じゃあかこむちゃん決めちゃってよ」
「ならみんなで分けましょう! 私は全部食べてみたいです」
「そうだね。じゃあドレッシングかけちゃおうか」
「へーい」
各自サラダを一つ担当する。俺は一番面倒くさそうなシーザーサラダ担当となる。
ドレッシング、クルトン、粉チーズを入れ、掻き混ぜる。俺が作業を終える頃には2人は待機状態だったのでそれぞれ3等分に分ける。
そんな作業をしながら思う……リア充っぽい。こうしてるだけでなんか妙な充実感がある。同時にこんなんで充実感を得てしまう自分に虚しさも感じる。
「う~ん! ピザ屋さんのサラダっておいしいですね!」
「無駄に高いだけある」
「このツナサラダ美味しいや。僕これ1番好き」
……にしても、無駄にデカいなこのサラダ。複数人シェア前提なのだろうな3つもいらんかったか。
さて、ある程度サラダも食べたし、メインディッシュに移るとするか。
「よーし、じゃあピザ食べようか!」
「そうですね! エビマヨエビマヨー!」
各自好きなピザを取る。俺は勿論テリヤキチキンをチョイス。子供の頃から好きなピザで、ピザを食べる時は大体これだ。
空腹で仕方がないので豪快に頬張る。
「ああ、うめぇ……」
テリヤキソースとマヨネーズ。この組み合わせによって化学反応が起こり地球が創成されたのは有名な話だ。そこに柔らかいチキンの旨味が加わり人を美食の沼へ引きずり込む。
「エビマヨも美味しいひょも~! 文空君も食べるひょも!」
美食体験を共感したい黄谷はエビマヨを皿に乗せ此方へ。最初はテリチキに染まりたいが、そんな期待の眼差し向けられては仕方がない。
「……うん、これも美味ぇな!」
海老とマヨネーズの相性の良さは縄文時代に発見されたと言われる程古くから存在する。美味くない訳がない。
「ですよねですよね! ほら瑛介君も!」
「ありがとう! どれどれ……」
――それから黙々とピザを食べ、半分程消化したであろうタイミングで黄谷が切り出す。
「いや~それにしても凄い人気でしたね。教室の外まで行列ができててビックリしちゃいました」
「来てたのか」
「ええ、気になってたので、遠目で……」
「流石かこむちゃん、開発者の視点を持ってるね」
「――あっ、いいえ、そういう訳じゃ……」
「寧ろそうなって貰わないと困る」
「え!?」
「追い風だぞ。流れが来てるんだ。これだけの注目を集めてれば最新情報の特番なんかは特にデカい仕事になる。だからこれからもこっち側で続けてほしい」
「わぁ、私でいいのであれば大歓迎です! 私あの撮影からも面白くて続けてるんです。此方からお願いしたいくらいです!」
「それは良かった。……で、向こうでは緑沢以外誰がやってんだ?」
みんなやりたがってるってスターターだのパックをぶん取られたが……。
「ななみちゃん以外みんなやってますよ! お昼ご飯の後に食堂でやってたら怒られちゃいました」
「藍坂はやらんだろうなぁ……でも以外だな。それ以外全員なんてな」
まぁ継続して続ける奴は少ないだろうが、最初の内は仕事も振り易そうだ。
「みんな自分がデザインされてるカード使うのが楽しいんですよ!」
「そういうもんなのか……」
アイドルは自己愛性強そうだし、まぁ納得の解釈ではある。
「そうだ! かこむちゃんをこのカードゲームの第1アンバサダーに任命しようよ!」
アンバサダーで、広告大使みたいなもんだよな。確かにそれはアリだ。
「いいんですか? そんな私なんかが……」
「寧ろ、君にこそ相応しいよ」
「ああ、是非とも引き受けてくれ」
そうなればより特別扱いがし易くなるではないか。ここ一番のナイスアイディアだ瑛介。
「では、不束者ですが……よろしくお願いします!」
こうして、俺達の流創カードゲーム道が始まるのであった。
――次回『無事クソ環境化!! 禁止カード爆誕!!』に続く。




