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EX 鹿誠文空の休日。後編。

「……ふぅ〜……」


 店を出るなり大きな溜息が漏れる。

 18時52分。外はすっかり真っ暗……という訳でもなく、夕陽が最後の抵抗をしている。日が伸びたな……夏が近付いている証だ。

 綺麗な夕暮れ。しかし、そんな絶景を眺める事もなく顔が下を向く。

 無事プレゼントを購入する事ができたが、とにかくもう疲れた。こうなる事は分かってはいたが、ここまで来たからにはいっそって気持ちが働きここまで来てしまった。

 到着に1時間は掛かった。それが意味する事。それは帰りも1時間掛かるという事。

 本当に馬鹿だったと思う。ここに来るにしても日を改めて電車に乗るなりして行けば良かったものを。何が運命じゃい。ただの後先を考えない思考放棄じゃねえか。

 長距離自転車を漕いだから足がパンパンだ。歩く度にズキッと痛む。もう歩きたくない。

 ……これは筋肉痛確定コースだな。最近は走りのトレーニングをしていたんだが、あれだけの距離には流石に耐えられんか。でも体育祭も近いしいいトレーニングになったのかもしれない。これも後々に好転へと転んでくれるといいが。

 さて、それより問題なのはこれから帰宅しなければならないという事。

 とりあえず帰路をマップアプリで調べてみると……1時間6分か。これならいけそう――と思ったが、車でかよ!

 じゃあチャリだとどうなってしまうんだ……押し寄せる絶望。

 何か楽に帰れる手はないだろうか。どっかの駐輪場にひょんもり号を置いて電車で帰るか――いや、それだと明日の休みが潰れてしまうし、恐らく明日は筋肉痛が悪化するだろうから、地獄を見る事になりそうだし、ナシ寄りのナシだな。

 ……う〜む。他に手も思い付かない。このひょんもり号を捨てればいくらでも手はあるんだが……やはりそれはできん。折角出会えた相棒と1日もせずお別れだなんて悲しすぎる。色々とこれからの用途も考えているしな。

 しゃあない……。覚悟を決めるしかなさそうだ。こうなりゃ無の境地。無心で只管にペダルを漕ぎ続ける修羅と化そう。

 ではいざ尋常に――と啖呵を切ったはいいが、まだ慣れぬ新品の自転車の鍵に手間取るのであった。




           ☆




 ぬわぁ~~~疲れたぁ~~~。帰りの記憶が飛ぶ程ひょんもり号のペダルを踏み続けた。本当にもう足が張り裂けそうだ。何故だか背骨も痛い。

 21時48分。約3時間近く漕いでた訳だ。本当に阿保かな。

 しかし、まだ自宅に到着した訳でなく近所のスーパーでひょんもり号を停める。晩飯を確保する為だ。飲食店に行きたいとこだが、今はもう帰ってさっさと身体を横にしたいので、ここで適当に買う事にした。運命だとか馬鹿みたいな考えはとうに捨てている。

 痛む足を引きずりながら自動ドアを潜る。同時に広がるスーパー特有の匂い。野菜とダンボールが混じった物だろうか。意見は分かれるだろうが、個人的にこの匂いは嫌いではない。

 まぁ青果コーナーに用はない。今は刺身が食いたい気分だ。サーモンに醤油とワサビをたっぷり付けて食べたい。

 ……あぁ、想像してたら腹減ってきたな。夜遅いから売り切れたりしてないといいが。

 期待に胸を膨らませ鮮魚コーナーを覗くと、


「ふぁっ!? 半額ぅ!?」


 なんとここに来て思わぬサプライズ。油の乗った美味しそうなサーモンの刺身が半額で置かれていた。しかも1だけ。まさか、俺を労う為に残っていてくれたのか? こんなもの運命と言わずしてなんと言うのか。

 ここに来て再びふつふつする運命力。……こうなったら最後まで追求してやろうではないか。

 他にもマグロの中トロやアジ、甘エビなども陳列されていた。勿論半額で。……うーむ、どれも魅力的だが全部という訳にもいかん。

 なんたってこのスーパーには惣菜コーナーや手作りパンコーナーもある訳で、そこの商品にも半額シールが貼ってあるかもしれない。

 半額商品は狙って買える物ではない。様々な要因が重なってこそ出会えるというもの。冒険の匂い。運命力に身を任せる旅として相応しいフィナーレではないか。

 ならば最後の冒険。楽しんでやろうではないか!




          ☆




「今日は本当にご苦労であった。ありがとな、ひょんもり号」


 サドルをポンポンと軽く叩き、今日を戦い抜いた友を労う。本当に長い旅だった。明日空気入れてやるからな。

 苦楽の果、ようやく訪れし自宅への帰還。


「ただいま〜……おかえりなさ〜い……」


 ああ愛おしき自宅。過酷な旅だったからか懐かしさすら感じてしまう。

 明かりを付け、最後の力を振り絞り、手洗いや着替えを済ませ、先程買った荷物をテーブルに置き、ソファへ身体を委ねる――


「ぶわぁぁぁぁぁ~~~~~はぁ~~~~~~」


 疲労により蓄積されていた何かが吐き出ていく。


「ぷゃぁ~~~」


 はぁ、やっぱ横になるって最高だな。身体が産声を上げているのを実感する。横になるのは人間のあるべき姿。活動とは生への冒涜なのだと理解させられる。

 もうずっとこうしていたい。また活動をする自分が想像できない。きっと俺はこのままソファと一体化しオブジェとして生きていくのだろう。

 とりあえず今はとても身体を動かせる状態ではないので体力が回復するまでこのままオブジェになっていよう。



 ――それから30分程スマホを弄りながらグダグダ過ごし、ようやく食欲>怠さになったので身体を起こし、身体を伸ばして大きな欠伸をする。

 さて、晩飯の時間だ! ウキウキで買い物袋の中から品を取り出す。半額だからと結構な量買ってしまったが、果たして食べきれるだろうか……。

 購入品。まずは刺身をサーモンとアジで固め、惣菜コーナーにて2つ入りのコロッケ、かき揚げ、副菜にポテトサラダにマカロニサラダを選出、パンコーナーにてウィンナーパン、ガーリックフランスと、以上が今回のスタメンとなっている。うん……今見返しても買いすぎだな。

 普段は半額品なんて買わないんだがな。今日は運命力という謎の動機のせいで半額商品しか取らないキチガイと化していた。

 他にもこれらに付ける調味料に、なんか食べたくなったチー鱈、今日の自分を労うジンジャーエールを籠に投入した。

 さーて、今日を締め括るパーティの始まりだ!

 まずは己の労いも兼ね、ジンジャーエールを喉に流し込む。炭酸の刺激で喉がえずくまでグビグビと、


「くはぁーーー!!」


 これよこれ。疲れてる身体には炭酸が沁みる。社会人がビール好きな理由が今なら分かる。

 さて、食うか。この様々なジャンルが集う豪華なラインナップ。いうならば食のトライアスロン。完走を目指していざ――。

 まずは刺身から。無料で貰える小袋の醤油を3つ程刺身のパックの蓋へと出し、そこへ同じく無料のワサビを溶かす。

 豪快にサーモンを二切れ取り、じゃぶじゃぶと醤油の海へと浸し、口へと運ぶ……うぉ~〜油が乗っててうんまい! 何故、魚の油と醤油はこんなにもベストマッチするのだろうか。サーモンはスーパーで買える物でも十分に油が乗っているのが魅力だな。

 でもって辛くしょっぱいからジンジャーエールが進む。そして、リセットされた口内にまたサーモンを……ヤバイ、最強のローテーションを見つけてしまったかもしれない。これが世に出回ったら死人が出かねないぞ……。

 まだまだ食のトライアスロンは始まったばかり。ここでばかり体力を使うと後の感動が薄まりかねない。

 ここは切り替えて、アジもいってみよう。こちらは1つ1つが小さい切り身なので5切れ程をまとめて取り醤油の海へ投げ込み、更にその身に生姜を乗せて口内投入……ああ、青魚には生姜がよく合う……。こっちも買っておいて正解だった。

 こういった組み合わせを見つけてくれた人達のセンスには感謝しかない。

 ある程度刺身を堪能したので、次は惣菜ゾーンへと突入する。

 まずコロッケのパックを開封し、そこに購入したソースを大量に投入。別にこの行動は濃党だからという理由だけではない。この行動は半額というハンディギャップを無くす為でもあるのだ。

 揚げ物はどうしても時間が経過してしまえば衣が萎びてしまい、美味しさは損なわれてしまう。

 そこで衣にソースに浸し、元よりサクサク感が損なわれる食べ方をする事により、時間経過のデメリットを相殺できるのだ。同じ要領でかき揚げにもストレートのめんつゆを浸しておく。

 さて……コロッケの方はソースが中まで沁み込んだ事だろう。1口サイズに箸で切り口へ運ぶ――うぉっ、濃い。ソースが濃い。あまりのしょっぱさに咽せてしまう。慌ててジンジャーエールに救済を求める。流石にやり過ぎたか……と思われたが、刺激が忘れられなかったのか、身体はまた闘争を求めコロッケに手が伸びる。2口目、抗体ができたのか咽せずに飲み込む事ができた。そして美味い。

 ヤバイ……また死人が出そうな発見をしてしまった。自分の才能が恐ろしい。

 あっという間にコロッケを平らげ、かき揚げを……うほぁ、これもいい。玉ねぎと桜エビの風味が濃いめんつゆと争い、旨みという傷跡を舌に刻む。当然こちらもしょっぱいのでジンジャーエール……カァ〜。どうして身体に悪そうなムーブは癖になってしまうのだろうか。

 ……まったく、これじゃあまるでおっさんだな。――誰がおっさんじゃい!

 さて、塩分ばっか接種してるから気分転換に副菜のサラダでもいきますか。

 健康の為にと買った、ポテトサラダとマカロニサラダの封を開ける。

 ここで誰もが思うだろう。こいつらをサラダにカテゴライズしていいものなのか。栄養ないやろこいつらと。

 そう。この2人は身体に良いどころか、炭水化物に大量のマヨネーズなので、寧ろ悪い寄りの食べ物と言えるだろう。

 だが愚問。別に栄養バランスの為にこいつらを買ったのではない。健康の為に購入したのだ。

 こいつらはサラダを名乗っていいか怪しいだけで、食べ物としては至って優秀。しかも濃い物漬けで疲弊している状態時の間食となれば更に美味く感じる筈だ。

 健康的ではないという理由で食べたい物を避けるのもまた不健康だと俺は思う。

 美味という体験から得られる幸福感の接種。それすなわち健康なのである。

 別に最初は栄養バランスを考えて立ち寄ったが美味しそうだからと思考を放棄し、言い訳を駄弁ているのではない。

 さて、そうと分れば実食だ。無駄に開けにくいパックを開け、ポテトサラダを口へ運ぶ……ふむふむ、ジャガイモが潰しきられてなく食べ応えがあるな。シャキシャキとアクセントをくれる玉ねぎの風味が味を引き締めてくれている。後から来るブラックペッパーの刺激が憎い。

 成程。これは惣菜ならではだな。たまにコンビニの物を食べているが、これは全然違う。この手作り感は機械には出せまい。

 これからは惣菜のも選択肢に入れなくてはならないな。

 このまろやかさによって、口の中で調味料による塩分の暴力によって負ったダメージも洗い流された様で、口内に清涼感が訪れていた。

 思ってた以上の戦果。買って大正解だった。半額でいてくれてありがとう!

 して、マカロニサラダの方はどうかな。マカロニを上手い事箸で挟み食す…………ああ、癖になるなこの食感。マカロニの食感ってなんか謎の中毒性があるんだよな。そこにマヨネーズと野菜が合わさり、さっぱりまろやかで食べやすくなっていて、完璧な無限食と化している。

 こんなの中毒者が続出してしまうではないか。実は違法料理なんじゃないだろうか。規制される前に沢山食べておかなくては。

 ふぅ……さっぱりとした物を食べたらまた塩分を摂取したくなってしまった。

 ならば最後のパンゾーンへ行こうではないか。

 まずウィンナーパン。特大粗びきウィンナーと記載されていて、パンからもはみ出る程の巨大ウィンナーのインパクトに惹かれ、見つけた瞬間迷わず籠に入れていた。元値税込278円。これは期待が持てる値段だ。

 できればオーブンで温めて食べたいとこだが、温めに行く為に必要とされるエネルギーを数値化すると、現状俺の残エネルギーは3。対し必要エネルギーは8万5000。到底今の俺では無理なので諦めた。

 だがそれでもこのパンには莫大なポテンシャルを感じているので些細な問題だろう。

 巨大ウィンナーにケチャップと粒マスタードがかけられているのを見るだけで脳は確信する。『これ美味いやつだ』と。これがハズレなら『この世界は虚構』とか言う、世界に絶望したラスボスみたいな痛いキャラで生きてやるよ。


 ――さぁ、我に力を示してみろ……呼応するように勇者は剣を抜き一閃を振う。

 パリッ――。なんだと!? 時が経過しているにも関わらず鮮度が落ちてない。そんな事ありえるのか?

 勇者の一閃。我はそれを最大限の解釈を拡張し噛み締める。鮮烈に脳裏に焼き尽く、そこに至るまでの過程。

 長き旅の中。険しい道のりの中で磨かれていく己。紡がれてく仲間との絆。

 この一閃は、理解に至るまでには余りに過大過多過剰。

 やがて沸く敬意。その光はこの痛々しいキャラを浄化していく――。

 うん、やっぱウインナーパン最高だわ! これ嫌いな男なんていないだろ。

 香ばしくパリパリなウインナー、味を整え口当たりを滑らかするケチャップとマスタード。このコンビネーションが織りなす1口は正しく主人公。王道な味だ。

 学園の売店のも今度買ってみるか。いつも混んでるから避けてたんだよな。そっちもパン屋さんが作ってる物だから期待値は高そうだしな。

 でもって、ガーリックフランスに関しては明日に食すとしよう。これにマーガリンを塗って食べるのが美味えんだ。染み出すニンニクオイルとマーガリンの相性は抜群でな。楽しみだ。

 別にまだ満腹という訳ではない。体感6分目程度。だが――今まで食べてきた物は全て完食には至ってない。つまり、このトライアスロンは2周目に突入するのだ。




          ☆




 暫く食休みを挟んでから入浴を終え、髪も乾かさずに庭のウッドデッキの椅子に腰を掛けくつろいでいた。つまみにチー鱈とキンキンに冷えた麦茶を添えて。

 ……この時期の夜風は涼しくて心地が良い。あまりの快適さにこのまま眠ってしまいそうだ。

 そんな訳で頭を働かせる。今日の旅を振り返るとしよう――

 まずは自転車を買いにホームセンターへ向かったな。そこでひょんもり号に出会った。

 それから祭りでケバブとラムネを食して、湖を見ておにぎりを食して……緑沢にも出くわしたな。で、ショッピングモールへ行ってスイーツを食して、映画を見ながらチュトリスを食して、プレゼントを購入してから、地獄の帰宅サイクリングを得て、スーパーで半額食品を買い自宅で晩餐と。……食ってばっかだな。

 でもいざ振り返ってみると、愉しい旅だったな、と思える。

 元々旅願望はあった。授業中。窓を眺める度に心の中で呟いていた。どうしてこんなにいい天気なのに、室内に閉じ込められねばならないんだろうと。

 日光に照らされた道路を見て、ここをのんびりと歩きたいと思ったりしてな。

 でも実現はしない。理由は簡単、面倒臭いからだ。折角の休日、休まねば損という考えが働き起床しても暫くベッドからは出れずダラダラ。そして、出掛けようと思った頃には17時。もう遅い。また今度。このループ。故に願望ばかりが募っていた。

 今回の旅は大したスケールではなかったかもしれない。だが、俺からすれば大きな刺激だった訳で、暫くは強く印象に残るのではないだろうか。

 ――っと……気付いたらもうチー鱈がもうないではないか。ふわぁ~……ねっむっ。丁度いい頃合いだな。寝るとするか。自然のドライヤーのお陰で髪も乾いてるしな。

 またこんな日が来るといいな。次は逆方向へでも向かうとするか。折角ひょんもり号も買った訳だしな。あぁそうだ、折角だしこの際チャリ通デビューなんてするのもいいかもしれない。黄谷に現物を見せてやれるしな。

 こんな事を考え出すなんて、この旅で俺も少しは変わったのかもしれないな。




 ――尚、その後ひょんもり号に乗るのは月に1、2回、近所の飯屋に行く時程度の物となった。人はそう簡単には変わらない。




          ☆




 キンコンカンコーン。


 選択授業終了のチャイムが鳴る。


「よし、じゃあ今日はこれで。例の企画、形にできる用に――いや形にしておく」


「はい、よろしくお願いします! 今日もお疲れ様でした!」


「で、あの……ついでなんだが……」


「はい? なんでしょうか?」


 鞄に閉まっていた箱を取り出す。


「これを……」


「わわっ!? まさか誕生日プレゼントですか!?」


「……まぁ、そんなとこだ…………誕生日、おめでとう」


「わぁ、嬉しいです! まさか文空君がプレゼントくれるなんてびっくりです」


「そりゃマネージャーだし……」


「なーんて嘘です。文空君の事だから絶対くれるだろうなって思ってました!」


「なんだよそれ……」


「文空君が誕生日の事に一切触れないのは逆に違和感大アリでしたからね。……ですが、中々くれないものですからずっとソワソワしてました……」


「そうか……じゃあ次はもっと上手くやる」


「いや、そこは普通に渡して下さいよ。ソワソワするのは心地良くないですし」


「まぁ既にバレてるしな。来年も普通に渡す事にする」


「はい! ――で、これ開けていいですか?」


「……いや、後にしてくれ。帰――」


「駄目です、今開けます!」


「じゃあ聞くなよ……」


「それじゃあ……開けますね…………ふわぁ〜かわいい〜、なにこれ〜お家ひょも〜〜」


 ひょもキャラが出てる辺り心から喜んで貰えてるみたいだ。よかったよかった。


「この可愛いシェルター、どこで買ったんですか?」


「爬虫類ショップだ」


 シェルター。爬虫類の隠れ家でありトカゲ飼育に必需品らしい。

 この前の旅で爬虫類ショップへと出向き、そこでプレゼントに良さそうな物を探していたところ、このシェルターが目に入った。市販の物でなくハンドメイド品でオリジナリティがありプレゼントに丁度良いと購入に踏み切った。

 可愛らしい家型のシェルターで、窓からはトカゲが顔を出していて、女性受けが良さそうな物となっている。

 前に爬虫類イベントに赴いた時に夢中になってハンドメイド品を見ていた事から、見つけた瞬間に勝ちを確信した。これは俺にしか持ち得ない情報。いいとこを付けたのではないだろうか。


「ここ周辺ってお店ありませんよね? どこのショップですか?」


「あっち」


「どっちですか!」


「…………」


「む〜〜なんで――って2つ目もあるんですか!?」


「ああ、ひょも太郎とひょも次郎にな」


「わ〜〜本当に嬉しいです〜! ひょも次郎の事まで考えてくれてるなんて……」


 ひょも次郎はこの前のイベントで迎えた子だ。


「……ちなみに、これいくらしたんですか?」


「1000円」


「嘘です。私の目は誤魔化せませんよ」


「……プレゼントの値段を問うのは無粋ってもんだろ」


「そうですね。ではお返しは上限1万円相当キッチリでいこうと思います」


「1つ2800円です」


「うわぁ〜そんな高価な物なんですね。大切に飾らせて貰います!」


「いや使えよ」


「こんな可愛いの勿体なくて使えません」


「……まぁ、好きにしてくれて構わないが」


 やっぱり女ってのはよう分からんな。


「私も素敵なプレゼントをお返ししてみせますね!」


「いや、俺には要らんから……もう過ぎてるし」


「2月11日!!」


「なんで知ってんだよ!」


「理事長先生から教わりました!」


「あのハゲオヤジ……生徒の個人情報をなんだと……」


 ……プレゼントって面倒だな。またしがらみが増えた。選ぶのにも相当苦労するのに、また来年も買わねばならなさそうだ。

 ――でも、


「ふふふ〜〜〜」


 プレゼントを嬉しそうに眺める黄谷を見てると、そんなの全部どうでもよくなって、甲斐があったと思っている自分がいた。


 ――そして、どうかその笑顔が1番のものであってほしいと。

 戦争だとか、必死になる理由が理解できた気がする。

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