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2章 エピローグ

 波乱の体育祭を終え、2日間の休みを挟んでまたいつもの学園生活が始まってしまう。

 朝の8時15分。俺は校内の人目の付かない廊下にて、アイフォンの画面と睨めっこしていた。

 ………そわそわ。アプリを開いては閉じ、また開く。そんな作業を繰り返していた。そろそろな筈なんだが……。



 第6回 8期生アイドル人気投票、結果発表。


 今回は俺が正式にマネージャーとして活動を始めてから初の人気投票であり、その結

果は俺に責任が有ると自負しているが故に緊張している。ついでにそのせいか分からないが、頻繁に飲み物を口に運んでいる。

 大丈夫だ……。やれるだけの事はやった。校内美化、合同トレーニング、それからグッズなどを販売して、極めつけにはリレーにて大きく飛躍した走りを見せた。これだけやったのだから6位、いや、もしかしたら5位を狙えるのではないだろうか、なんて期待してみたり。

 顔を叩き、現実的思想へ戻す。今回の集計が行われたタイミングは体育祭の労いライブ後。……一抹の不安があるといっちゃある。いや、それでもきっと――。


 それから何度かアプリを開きようやくしてページの変化を確認する。


 ~2年アイドル人気投票 結果発表~


 っ!? とうとう来たか。俺は一呼吸置き、ゆっくりと画面をスライドさせる。

 結果は――



 1位 藍坂ななみ

 2位 青松ゆいか

 3位 柴崎らいな

 4位 緑沢みつな

 5位 橙田やずる

 6位 赤宮みゆき

 7位 黄谷かこむ



 以上。



 ……………………。落胆。身体から力が抜け落ち壁にもたれ掛かる。7位……しかも票数も今までより多少伸びただけ……どうして……。

 思考を整理する。……やはりこの一抹の不安が的中してしまったんだろうか。

 黄谷の走りが与えた影響は確かに大きかった。――だが、タイミングが悪かった。

 バトンを渡した相手が青松だったから。青松の走りはインパクト絶大で直ぐに関心が逸れてしまったんだ。それを示すかの様に青松の順位は不動だった柴崎を引きずり落とし2位にまで昇進している。もっと序盤に走って貰えば、もう少し爪痕を残す事ができたのだろうか……。


 スマホから着信音が鳴る。差出人は黄谷から。


『すみません。私が不甲斐ないばかりに』


 違う……。不甲斐ないのは俺だ。すぐに否定の返信をしようとするが……意味無いか。俺が悪いと言ったとこで黄谷は自分を責める事を止めたりしない。そういう人間だから。

だがしかし、何故ここまで票数が動いていない? 走り以外にも活動をしたのに。全部無駄だったのかよ…………再び身体に力が籠る。それも平常時よりも大きな力が。

 そして、その力を発散するかの様に全力で壁を殴った。

 あの野郎共め……。あんなヘラヘラしながら黄谷と接しておいて、票は入れやがらねぇのかよ……。

 認識が甘かった。票を貰う為にと、人として丁寧に扱ってしまっていた。だが、そんな必要はなかった。そんな感情を持ったところで何も生みやしない。求められるのはただ結果だけなのだから。

 あんな奴らは所詮は作物。水と肥料、そして日光を与え、後はたた収穫するだけ。その程度の認識でよかったんだ。ただ搾取する為だけの存在。

 ……まったく、感情的になって壁を殴るだなんて、青松の事を言えないな。

 だが、俺にとってはこれでよかったのかもしれない。きっと中途半端に成果を出していたら、また同じ様な扱いをしてしまっていただろうからな。

 理事長がもっと攻めろと言っていた理由が分かった気がする。そうだ。もう1年経っているんだから、ファンが定着し票も固定されているんだ。――でもそれと同時に。

 これからの方針が定まる。俺は黄谷に『次は必ず結果を出す』とだけ送った。

 少し待ち、既読は付いたものの返事は来ないのでスマホを閉じようとした時、今度は電話の着信が鳴った。黄谷からではない。この番号は……。

 無視したいとこだが、後々面倒くさそうなので渋々その電話に出る。


「よう、そっちは暇なのか?」


 苛付きからか煽り気味の先制攻撃を仕掛ける。


『……そんな惨めで無様な醜態を晒しておきながら、随分な物言いだな。哀れみを頂戴したいのなら身の振りを改めろ』


 電話越しからでも、刺してくる様な喋りは健在みたいだな。鎌田京二郎。まさかこんなにも早くまた会話する事になろうとはな。番号は黄谷越しで交換していた。


「……すまない。色々と履き違えていた」


『弁解など要らん。さっさと代理を立てさせるから自主降板しろ』


「悪いがその気はない。用が済んだなら切るぞ」


『厚顔無恥。今のお前を表す言葉だ。この結果で理解したろう。お前の存在は無益だ。潔く降りろ』


 返す言葉もない。それどころか、今はそんな罵倒が心地良くも感じてしまう程までに己の非力さを攻めたい気分だ。

 ――でも、だからといって譲れない物はある。


「なら聞くが、その代理とやらは黄谷を1位にできるのか?」


『なに……?』


「その保障が無いなら止めておいた方がいい。……俺にはそれができる」


 確証はない。確信はある。だから断言できる。


『ふん。口だけなら無能でも達者になれる。現状、あの藍坂が造り上げた政権を崩す事ができるとは思えん。それとも、お得意の汚い手を使い藍坂を退学でもさせるつもりか?』


「ふっ、どうやらお前には見えていない様だな。黄谷のポテンシャルが。なら一々俺に意見なんてするな。黙って見ていろ」


『ならばこの結果はどう説明を付ける? この票数の変動の無さ。これはお前が無能である確たる証明だろう』


「……確かに結果だけを見れば変動は無かったが、決して無駄な時間を過ごした訳ではない。お前、体育祭の動画は見たか?」


『話を逸らそうとするな。問いを――』


「あー見てないのか。それじゃあ今度送ってやるよ。3000円な。ペイペイ送金でいいわ。じゃあ俺これから学校だから」


『逃げるつも――』


 追撃が放たれる前に電話を切る。それから電話が掛け直される事はなかった。無駄だと理解しているからだろうな。

 見ての通り、俺は都合が悪いから逃げた。どんな過程があれど、世の中は結果が全て。結果を残せない者に発言権はない。俺の立場が好転する事はない。だから逃げるしかなかった。

 そんな立場の弱い人間を責め立てるとは、ほんといい性格してやがる。

 でも――


「……ありがとな、鎌田」


 何故こんな電話を掛けてきたかは大体察しが付く。まぁそれが本当ならあまりに不器用すぎて、やはりただパワハラをしに来ただけなのかもしれない。

 まぁどちらせよ、お陰様で気が和らいだ。落胆していても何も生まれはしない。

 この経験をこれから先に繋げるんだ。現実を知らしめられたと同時に、青松が希望を見せてくれた。

 今回の結果、そこでの過程は絶対に無駄にはしない。踏み台にするんだ。やがて手にする栄光を掴む為に。

 その為には1に結果。2に結果。何も投票だけが勝負の場という訳ではない。


 6月のイベント。去年と同じなら丸々1月を使った対決となる。それ故に報酬も大きい。



 ――まずはこの勝負で結果を出す。

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